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警戒区域、空き巣が前年比30倍 東電「賠償の範囲外」

奥山 俊宏

 東京電力福島第一原発の事故のため立ち入りが禁じられた警戒区域で、空き巣被害が激増している。9月末までの住宅の被害は、前年同期の30倍近くに達し、50軒に1軒が被害にあった計算だ。被害者からは「もともとの原因は原発事故」と東電による賠償を求める声があがるが、東電は「悪意を持つ泥棒の責任」として拒んでいる。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽この記事は2011年10月16日の朝日新聞朝刊に掲載された原稿に加筆したものです。

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 第一原発から20キロの圏内は、3月11日夜から翌12日夜にかけて相次いで住民に避難が指示され、4月22日には警戒区域に指定され、立ち入りを禁じられた。5月10日に一時帰宅が始まると、留守宅や事務所の空き巣被害が次々に見つかった。

 警戒区域の大半を受け持つ福島県警双葉署の管内(8町村、2万4千世帯余)では、今年1月から9月末までに住宅の被害届が約430件(速報値)あり、昨年同期(16件)の約27倍。9月だけで50件以上増えた。事務所などを加えた総数は600件を超す。被害総額はわかっていない。DNA型鑑定などで容疑者を特定した事件、逮捕した事件もあるが、多くが未解決だ。

拡大白土八十和さんが経営するカラオケ店の事務所では、金庫の扉がなくなっていた=6月20日、福島県富岡町、白土さん提供

 東電によると、防護服の着脱など一時帰宅を支援している社員に、被害者が問い合わせるケースが多いが、賠償の範囲ではないと返答している。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が8月に出した賠償支払いの中間指針が、盗難被害に触れていないためという。だが、審査会では、盗難被害を賠償対象にするか、詰めた議論はされていない。

 文科省は「原則的には窃盗犯が賠償すべきものであり、中間指針では賠償の対象として明示されていない」という立場だ。ただし、個別の事情によっては、東電が賠償すべきだと認められる可能性がある、とも指摘する。

 第一原発から8キロの富岡町で経営するレンタルビデオ店などが被害を受けた白土八十和(しらど・やそかず)さん(54)は「一番の原因は原発にあるわけだから、賠償の姿勢があっていいんじゃないか」と話す。福島県の金成(かなり)孝典・原子力損害対策課長も「法解釈はさまざまだが、根本にあるのは原発事故であり、被害者の実態にあった全面的な賠償を求めたい」と話している。

 ■刑事法研究者「東電に賠償義務あると言える可能性」

 元最高検検事の土本武司・筑波大学名誉教授(刑事法)は次のように話している。

 盗難被害が原発事故と相当因果関係があるかどうか、すなわち、「通常考え得る損害」の範囲に入るといえるかどうか、微妙な判断を要する問題だ。ひとたび原発事故が起きれば、一定の範囲内にいた人がその範囲の外に出なければならず、その範囲内で空き巣が発生するということは「通常考えられる事態」と言える可能性がある。そうだとすれば、東電に賠償義務があるのではないか。


筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。2023年から「Atta!」編集人。

 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。

 そのほかの著書として『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)、『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。

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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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