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東電原発ひび割れ隠しを内部告発した元GE社員が来日、福島を訪問

奥山 俊宏

 米国の原子炉メーカー「ゼネラル・エレクトリック」の元社員で、東京電力福島第一原発1号機の原子炉ひび割れ隠しを通産省に内部告発し、2002年に日本の原子力業界を揺るがせた日系米国人ケイ・スガオカさん(59)が20日、8年ぶりに来日した。21日に同原発周辺の警戒区域の中を歩き、「いろいろなものが吹き飛ばされた」と感じたという。そして、「原子力には透明性が必要。隠蔽をやめなければならない」と改めて語った。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽この記事は2011年10月22日の朝日新聞夕刊に掲載された原稿に加筆したものです。

  ▽関連記事: 東京電力本店からの報告

 

 スガオカさんは米カリフォルニア州に住み、GEのために働いていたが、1998年に解雇され、2000年6月、福島第一原発1号機のひび割れ隠しを告発する手紙を日本の通産省(現・経産省)に送った。ところが、東電社員はウソをついて、ひび割れ隠しを否認。通産省は、スガオカさんの話を聴くことなく、東電に告発の情報を伝えていた。東電と原子力安全・保安院は2002年8月になって、トラブル隠しの数々をやっと公表し、その遅れを批判された。

 福島第一原発から18キロ離れた福島県楢葉町に住み、いわき市に避難している友人の栃久保寿治さん(57)の招きで、スガオカさんは今回、来日した。今は警戒区域となっている福島県の浜通りは、スガオカさんにとって、1970年代後半から約20年にわたって毎年のように訪れた地。栃久保さんら友人が多数いて、「第2のホーム」だったという。

拡大8年ぶりに来日したケイ・スガオカさん=21日夕、福島県いわき市小名浜大原で

 21日、栃久保さんとともに、福島第一原発の正門の前を経由して、栃久保さんがかつて大熊町で経営していた学習塾を訪ねた。大熊町では放射線量計測器のブザーが鳴り続けた。「我々は放射線管理区域にいた」とスガオカさん。「道路の割れなど、地震による破壊のすさまじさに驚いた」という。美しい緑の山々が放射能で汚染されている。「あれをどうやってクリーンアップできるのか? ヘビも出てくるだろうし」

 事故後2カ月にわたって栃久保さんが仮の住居としていたワゴン車に乗って、20日夜、成田から福島に入った。「インドネシアで大きな津波が来た後に(東電が)それを見過ごしていたことに私は驚く。それを警告(目覚まし)とすべきだった」とスガオカさん。「原発事故は一種の『罰』。母がそう言っていた」。スガオカさんの母は日本に住んだことのある日系2世で、日本語を読める。

 2003年10月に佐藤栄佐久・福島県知事(当時)に会った際には、スガオカさんは「原子力エネルギーは日本に必要と確信している」と語った。しかし、今回の旅行ではそれを明言しなかった。「もし彼らに透明性があるのならば、私は原発を支持する。しかし、決してそうはならないだろう。原子力ビジネスが透明だったことはない。ウソをつくこと、隠すことを私は支持できない」


筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。2023年から「Atta!」編集人。

 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。

 そのほかの著書として『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)、『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。

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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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