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「企業倫理月間」の10月、各企業の取り組み

  日本経団連は毎年10月を「企業倫理月間」に定めて、会員企業に取り組みを呼びかけている。これを受けた各企業の取り組みをレポートした。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■東京ガスの「コンプライアンス強調月間」の取り組み

 東京ガスでは、10月を「コンプライアンス強調月間」として、コンプライアンス・アンケートの実施、コンプライアンス担当者会議の開催、コンプライアンス相談窓口担当者の研修会、社内報での周知、ポスターの作成・掲示などを集中的に行っている。

東京ガスのコンプライアンス・ポスター「いつでも、その時ご相談ください」東京ガスのコンプライアンス・ポスター「いつでも、その時ご相談ください」

 コンプライアンス・アンケートは2003年スタート。東京ガスグループ社員約1万5000人が対象で、回収率は85%前後で推移。コンプライアンス意識や行動について全社的に診断をする。職場コミュニケーション、セクハラ・パワハラの有無、相談窓口の認知度などについてアンケート結果を数値化し、各組織にフィードバックしている。最後のまとめでは、解りやすくグラフ化している。

 コンプライアンス担当者会議は各職場の担当者約300人を対象にしており、外部専門家による講演もある。関係会社に設置された相談窓口の担当者(主に人事・総務系の管理職)を対象にした研修会も開いており、約70社から参加がある。社内報ではコンプライアンス関連記事を掲載して周知・徹底を図っている。社内や関係会社向けに、コンプライアンスをテーマとしたポスター「いつでも、その時ご相談ください」を製作、配布している。

 ■NECソフトの経営幹部向けセミナー

NECソフトでの経営幹部向けセミナー(2011年10月4日、NECソフト本社で)NECソフトでの経営幹部向けセミナー(2011年10月4日、NECソフト本社で)

 NECソフトでは、毎年10月を「企業倫理月間」とし、コンプライアンスへの理解、浸透を目的に、集中的に取り組んでいる。中心となるのが経営幹部向けセミナーで、2005年にスタート。外部講師による集中的なセミナーだ。2009年は小山嚴也関東学院大学教授、2010年は郷原信郎弁護士が講師を務めた。今年は10月4日に実施、講師は若狭勝弁護士。不祥事防止と危機管理がテーマだった。全社員向けにケースメソッド(事例研究法による集団討議)やeラーニングも実施されている。

 日立グループでは、やはり毎年10月を「日立グループ企業倫理月間」と定め、行動規範の周知・徹底を図り、コンプライアンス推進責任者を対象に講演会を開催している。また各カンパニー、グループ会社向けに、イントラネットなどで浸透を図っている。NTT西日本は毎年10月を「企業倫理推進月間」として、企業倫理意識調査を実施している。同社では、グループの経営トップ層を対象とした「トップセミナー」、管理者層を対象とした「職場推進リーダー研修」、人材派遣社員を含めた全社員が対象の「企業倫理研修」などがある。

 ■年間型でコンプライアンス徹底を図る横河電機

 横河電機では、特に10月の企業倫理月間にこだわらず、年間で企業倫理の教育、研修にあたっている。11月末に実施される「YOKOGAWAグローバル意識サーベイ」では、世界で約2万人のグループ社員から職場コミュニケーションやホットライン運用状況などコンプライアンス関連データを集め、これらを分析して、課題を抽出し、本社の各部門はじめグループ各社にフィードバックしている。各部門では、その年度の反省と次年度への教育テーマを整理、年間計画を作成、提出する。サーベイの回収率は約90%で、コンプライアンス推進計画策定の重要な底固めになっている。同社では、重点施策として「不正を“しない風土”と“させない仕組み”の構築」を掲げている。これにもとづき、約4000人のマネージャーを対象に10月から半年間、研修を行っている。一般社員(8000名)向けの研修にはほぼ2年をかける。コンプライアンス推進者(約200人)懇談会は、職場単位で通年で開かれている。一方、コンプライアンスニュース(A4版1枚)は2カ月に1回、配信し関連情報を提供している。社内外の不正事例を敏速に公開している。また、「コンプライアンス川柳」を社内から募集し、優秀作を選定するなどユニークな手法も導入している。最近の優秀作は二編。「『まっいいか』 いつの間にやら 線を越え」と「不祥事に 厳しく光る 社会の眼」。

 西日本旅客鉄道(JR西日本)では、「地域との共生」「技術による変革」「現場起点の考動」の三つを基本理念と位置付け、階層別、目的別のコンプライアンス研修を実施している。特に「グレーゾーン・ディスカッション」は約10カ月かけて行われる。これは全社員を対象とした職場毎のディスカッションで、具体的な事例を引用し成果をあげているという。このほか、新任現場長や新入社員を対象とした階層別研修は通年で開かれている。

 ■コンプライアンス・アンケートで現場の状況を把握

 企業の組織内倫理教育・研修の取り組みは、以上のように10月集中型と年間型に大別されるが、完全に区分けできないケースもある。「10月」を重視しつつも、社内事情で年間型研修が取り入れている企業もある。日本経団連では、毎年9月に出す「企業倫理徹底のお願い」の柱として、企業行動の再確認や事業活動の総点検を挙げており、企業の研修計画の作成に際してコンプライアンス・アンケート重視の傾向がうかがえる。企業活動の基本である現場の意識と課題を幅広く吸い上げようという考えだ。

 東京ガスコンプライアンス部コンプライアンス室・北野寿之室長(経営倫理士、第14期)は、「教育、研修を実施するにあたって、事務局が組織内の社員の意識をまずしっかり把握することが重要だ。そしてこれを現場組織へフィードバックしなければならない。現場の課題や意識・風土をまず把握、組織診断をしてこそ適切なコンプライアンス教育ができる。アンケート結果を気にしている関係会社幹部もいる」と言う。また、横河電機・企業倫理本部の研修担当者は、「我が社のコンプライアンス教育のスタートはグローバル意識サーベイです。世界にいるグループ企業2万人を対象に実施、約90%の回収率ですが、組織と人の大きな流れはつかめると思う。このサーベイの必要性に対する理解も根付いてきた。我が社では10月集中型ではなく、サーベイを起点とした年間計画で教育、研修にあたっています」と話している。

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接の結果、取得できる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。問い合わせは03-5212-4133へ。

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都出身。1959年

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