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郷原弁護士「九電は公益企業として説明責任果たせ」

九電やらせ問題で郷原信郎氏に聞く(1)

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

 九州電力玄海原発(佐賀県)の運転再開をめぐる九電の「やらせメール」問題が迷走している。九電経営陣は、自らが委託した社外有識者による第三者委員会の「古川康佐賀県知事の発言がやらせ投稿に決定的影響を与えた」との結論を無視し、「やらせは真意と異なる知事発言メモが発端」などとする独自の最終報告書を経済産業省に提出した。枝野経産相は、「つまみぐい。どういう神経なのか理解不能」と批判し、慌てた九電は、報告書の再提出を検討中だ。九電経営陣の不可解な行動やその背景事情などについて第三者委の委員長を務めた郷原信郎弁護士に聞く。1回目は九電やらせメール問題の経緯と報告書をめぐる九電幹部の対応を中心に語ってもらった。

 ■九電やらせメール問題の事実経緯

 まず一連の問題の経過を簡単に振り返っておく。

 発端は、7月6日の衆院予算委員会で日本共産党の笠井亮議員が、6月26日の玄海原発再開に向けた国のケーブルテレビでの説明番組で、九電社員らがメールやファクスで賛成意見を投稿していたのではないか、と質問したことだった。当時の海江田万里経産相は「事実だとしたらけしからん」と答弁。九電の眞部利応社長は会見して事実を認めた。原発再稼働に対する社会的な関心が高まっていた中で、九電の「やらせ投稿」に対する批判が集中した。

 九電は7月14日に社内調査の結果を経産省に報告した後、失墜した信頼を回復するため、再調査、原因究明などを行うための外部有識者による第三者委員会を設置した。

 9月30日に九電に提出され、公表された第三者委の報告書は、番組放送前の6月21日、古川康佐賀県知事が九電幹部と面談した際に「再開容認の立場からもネットを通じて意見や質問を出して欲しい」などと発言したことがやらせ投稿の発端になったと判断。「知事の要請に応え、知事が描くシナリオ通りに再稼働を実現するため、組織的に行われた」と指摘した。

 この説明番組に先立ち、5月にインターネットで中継された国から県への説明会でも、県側の要請に応じて九電が10件程度の書き込みをしていたと判断した。

 さらに、報告書は、2005年12月の玄海原発(佐賀県玄海町)のプルサーマル計画をめぐる県主催の公開討論会で、九電が県の要請を受けて進行台本を用意し、社員ら7人に仕込み質問をさせていたと判断。賛成の立場から発言した質問者の大半を九電関係者が占め「露骨なやらせ行為で県民を欺いた」とし、当時社長だった松尾新吾会長ら経営トップと知事の間に「何らかの意思疎通があったと見るのが合理的」と指摘した。

 さらに、眞部社長ら九電幹部が問題発覚後、原子力部門内で関係資料の廃棄といった調査妨害が行われたのに適切に対応しなかった、と批判した。

 これに対し、古川知事は「やらせメールを要請したことがない」と責任を否定。九電は10月14日、知事の発言をメモしたメールを社内に流した事実は認めながら、第三者委の報告書の「知事の関与」部分は無視し、あくまで知事と面談した幹部らが賛成意見の投稿を増やそうと企てた、とする最終報告書を監督官庁の経済産業省に提出。眞部社長の続投を決めた。

 これに対し、枝野幸男経産相は、九電の最終報告書を強く批判。「第三者委の報告書のつまみ食いをするようなやり方は、公益企業のガバナンス(企業統治)としてありうるのか。どういう神経でしているのか理解不能」とし、眞部社長ら経営陣の続投についても「国民や地域の信頼を回復するため、どうするべきか九電自身が判断するべきだ」と突き放した。

 郷原氏は10月17日、佐賀県議会原子力安全対策特別委員会に参考人として出席。第三者委設置前日の7月26日、旧知の古川知事と個人的な立場で面談。やらせ問題への知事の関与で追及される前に早期に辞任表明することを勧めたことを明らかにした。8月4日の電話では、発言メモ全文を読み上げたところ、知事は「どんな説明をしても辞任は避けられない」と話した、とも語った。

 10月21日には、日本政策投資銀行が九電に対する融資契約を遅らせたことが判明。26日には、郷原氏ら第三者委の委員4人(9月30日に終了)が連名で九電に第三者委の報告を受け入れるよう求めた意見書を提出。九電は27日の取締役会に一部を修正した報告書を議案としてかける予定だったが、急遽見送った。

 ■当事者能力に疑問符がついた九電経営陣

 九電経営陣は、第三者委の「知事発言が発端」との判断を否定した最終報告書を経産省に提出したが、枝野大臣に一喝されると、腰砕け。「第三者委の報告を受け入れるしかない」との意見が強まったとされる。しかし、一度取締役会で決定して提出した報告書の内容を変更することへの反対論も根強く、10月27日の定例取締役会でも結論を先送りした。

郷原 信郎(ごうはら・のぶお)郷原 信郎(ごうはら のぶお)
 1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを経て、2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センターセンター長。2006年検事退官。2008年 郷原総合法律事務所開設。2009年より名城大学教授・コンプライアンス研究センター長。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長に就任。

 ――九電のドンといわれる松尾会長ですが、郷原さんは松尾会長とサシで話し合ったと聞きました。どういう経緯で会い、何を話されたのですか。


 郷原弁護士:九電経営陣は、問題認識を基本的に変えないままの微修正の最終報告書案を27日の取締役会にかけ、経産省に再提出することを狙っていました。26日夕、我々委員4人が、「知事発言ではなく『メモ』が発端だとする社会常識に反する『見解』を維持することで取締役としての法的責任を負うことになりかねない」などと警告する連名のメッセージを会社に送り、記者会見した。それが影響したのか、九電は、27日の取締役会にかけて「強行突破」することはあきらめたようです。

 問題はそれが、今後どのような対応につながるのかです。今回、取締役会に付議しなかったことが単なる先延ばしでは困る。

 それで、私が、九電の経営トップとの会談を申し入れた。第三者委の報告書に対して会社側から疑問や意見があるのであれば、それをできるだけオープンな形で、第三者委との間で、意見交換の場を設定することを提案したのです。

 九州電力にとって、まず必要なことは、自ら設置し、日弁連「第三者委員会ガイドライン」にしたがって運営された第三者委の報告書の内容を十分に理解し、それに疑問や異論があれば、委員会側と十分に議論し、自ら納得すること、そのような議論を踏まえ、社会に対しても納得してもらえるような内容の報告書を再提出することです。そのためには第三者委側とのオープンな場での議論を行うことが必要だと思ったのです。


 ――これまでの経緯からすると、九電側が第三者委の報告受け入れに傾いたのは、枝野発言を受け、監督権限を持つ国には刃向かえない、と考えたからではありませんか。政治的判断で受け入れざるを得ない、といっているだけのようにも聞こえます。


 郷原弁護士:「監督官庁のトップに抑え込まれた」という認識で報告書を再提出しても、それは、枝野大臣が言うところの、「公益企業としてのガバナンスが機能し、社会から信頼される企業」になることには程遠いと思います。

 報告書では、九電によるやらせメール要請、という不透明な行為をした事実と、その不透明な事実を隠そうとした事実。その2つの事実を不透明な企業行動として指摘している。そういうことになった原因を認識して改めます、といわない限り、第三者委の報告を受け入れたことにならない、といっている。それを、言葉だけで「受け入れました」といったところで、すぐに地金が出るだけです。


 ――松尾会長の反応はどうでしたか。


 郷原弁護士:「ご提案の趣旨は承った。検討する」と言われました。


 ――検討の結果は九電側から伝えてきたのですか。


 郷原弁護士:翌週の月曜日(10月31日)に第三者委の委員だった4名全員宛のメールで「第三者委員会委員との意見交換の方向性について」と題する書面が送られてきました。「第三者委員会最終報告書に対する疑問点や異なる見解がある点について、書面にて質問及び回答のやり取りを行う」ということが書かれていました。私は、すぐに、「私が松尾会長に対して言ったのとは全く異なった趣旨の『方向性』が示されたことに、いささか困惑しています。このままでは、私の提案は拒絶されたと受け取らざるを得ません」という内容の返信を送りました

 私が提案したのは、第三者委の報告書の内容について疑問や意見があれば、「オープンな場で議論すること」によって、九電側の理解を深めてもらい、その上で、会社として、この問題への対応を決めてもらいたいということです。書面で質問をしたり回答したりするという程度であれば、九電が経産省に最終報告書を提出する前にやればよかったのです。今頃になって、そのようなことを提案してくる神経は理解不能です。


 ――九電は、トラブルで緊急停止していた玄海原発4号機を運転再開させました。福島原発の事故後は、停止中の原発の再稼働は初めてでした。この時期に、原発の運転を再開させたことについてどう思いますか。


 郷原弁護士: 「オープンな場での議論」を拒絶してきたのが31日、その翌日の11月1日の午後11時に玄海原発4号機を運転再開させた。第三者委の報告書も、やらせメールに対する批判もすべて無視して、原発を稼働させる方向に暴走しているとしか思えません。トラブルで停止した原発はストレステストの対象となっていないから、事業者の判断で運転再開させてよい、という理屈のようですが、ここにも、原発問題に関する、社会からの理解と信頼を無視した形式論理が表れています。定期検査明けの原発再稼働より、トラブルで緊急停止した後の運転再開の方に、周辺住民が不安を感じるのは当然です。九電にとって、原発再稼働が困難になっているのは、国がストレスを課しているからではありません。一連の問題で原発事業者としての信頼が根底から失われているのが原因です。このようなことをやっていたら、九電はますます社会から孤立してしまいます。

 

 ■経営者と第三者委の関係

 今回の問題でクローズアップされたのは、企業不祥事を企業経営者の委託を受けて社外の弁護士らが調査する第三者委員会と経営者の関係だ。日本弁護士連合会(日弁連)が2010年7月にまとめた第三者委員会のガイドラインは、委員会の独立・自由な調査を保証し、設置した企業の経営者に不利な内容も報告し、重要事件は全面開示を原則とするとしている。ただ、報告内容を経営者がどう生かすかは、経営側の判断に委ねられている。九電は第三者委の報告をすべて公表はしたが、受け入れなかった。それは公益事業者として正しい選択だったのか。

 ――九電経営陣は、第三者委に調査を委託しておきながら、会社にとって不都合な問題には非協力で、あまつさえ第三者委の結論を無視した。企業が第三者委を設置する意味や、委員会の役割を十分理解していたのでしょうか。


 郷原弁護士:第三者委の意味や役割が、会社に十分理解されていなかったことはあると思います。最初に九電から相談を受けたとき、アドバイザリーボードとしてかかわってくれ、といわれた。社内調査の結果にお墨付きを与えてくれ、ということです。やらせに対して厳しい社会的非難を浴びていた状況では、社内調査ではとても世間は信用しない。まず、客観性、中立性を持った形での事実関係の再調査が不可欠、やる以上は、きちんとした第三者委方式で調査をしましょう、と提案し、九電側もそれを受け入れた。しかし、九電経営陣は、第三者委も、会社の利益、会社の意向に従って動くもの、経営陣の言うことを聞くものだと思っていたフシがある。途中で、改めて、日弁連のガイドラインを読んでもらい、初めて、第三者委がどういうものかと理解したようです。


 ――第三者委の調査が始まった後で、ですか。それ自体、九電のような大企業では珍しいことですね。


 郷原弁護士:私個人は、実は、日弁連のガイドラインには全面的に賛成ではないのです。ガイドラインは、第三者委の目的を「ステークホルダーへの説明責任を果たさせること」としており、独立検察官的な発想で、企業不祥事を調査し評価することになっている。しかし、企業価値、企業側の利益から離れて、委員会の独立性、客観性を確保することをあまりに強調すると、一般企業の場合は、第三者委を設置することを躊躇することになります。


 ――郷原さんは、これまでも、企業や大学、官庁の不祥事で第三者委員会の委員長を経験されてきました。そこでの報告書の公表は、どういう手法をとられていたのですか。


 郷原弁護士:第三者委の報告書の公表のやり方には二つあります。ひとつは、委託者側と第三者委が調査の過程ですり合わせをし、委員会の報告が出たら、委託者側が即、報告を全面的に受け入れる、というスタイルです。私がこれまで手がけてきたケースの大部分はそうだった。もうひとつは、日弁連ガイドラインに書いているように、事前の会社との事前にすり合わせはせず、委員会の側で報告書を作成し会社に提出するという方法です。報告書の客観性、中立性が強く求められる公益事業者の場合には、そのような方法が適切です。今回は、電力会社という公益企業で、原発という国民の関心が高い問題に関する第三者委なので、監督官庁である経産省のほか、株主や従業員、取引先などのステークホルダーとか電力のユーザーに対し高い説明責任が求められている。こういう場合の第三者委は、日弁連ガイドライン準拠で行うべきだ。九州電力側には、委員会発足後に、改めて日弁連ガイドラインに従って第三者委を運営することを承諾してもらった。


 ――そして九電は、第三者委の報告をガイドライン通り、全文公表したが、自らの経産省への報告では重要な部分を無視した。それに監督官庁の経産大臣が怒ったという構図です。


 郷原弁護士:九電は、我々の報告書を公表はした。問題は、報告書を、会社としてどう扱うのかです。「第三者委の認定には納得できない」と言って反論しても構いません。それなら、その根拠、理由をしっかり示すべきです。何の理由も示さないで第三者委が指摘する「問題の本質」を無視するというやり方はあり得ません。普通の上場企業なら、社会的に公正さを疑われることを行えば、市場が制裁し、企業価値は下がり、経営者は責任を追及される。問題は、九電が地域独占と総括原価方式で運営されている公益事業者であり、事実上、市場のチェックを受けないということです。その分、公益企業としての社会に対する説明責任をしっかり果たさないといけない。九電の問題は、その説明責任を果たしていないということです。第三者委は、日弁連ガイドライ

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