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郷原氏の語る九電反撃の内実「経営者の暴走はどこまで続くのか」

九電やらせ問題で郷原信郎氏に聞く(2)

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

 九州電力玄海原発(佐賀県)の運転再開をめぐる九電の「やらせメール」問題が迷走している。九電経営陣は、自らが委託した社外有識者による第三者委員会の「古川康佐賀県知事の発言がやらせ投稿に決定的影響を与えた」との結論を無視し、「やらせは真意と異なる知事発言メモが発端」などとする独自の最終報告書を経済産業省に提出した。枝野経産相は、「つまみぐい。どういう神経なのか理解不能」と批判し、慌てた九電は、報告書の再提出を検討中だ。九電経営陣の不可解な行動やその背景事情などについて第三者委の委員長を務めた郷原信郎弁護士に聞く。2回目は、九電側が、郷原氏側が提案した「公開の場での議論」を拒絶し「書面協議」を逆提案したのに対し、郷原氏側が眞部社長個人宛の公開質問状を出すなど、いまだに出口の見えない「やらせメール」問題の最新状況について語ってもらった。

 

 ■「古川知事は濡れ衣」発言繰り返す眞部社長に公開質問状

 ――前回は、九電が第三者委の報告書を受け入れるかどうか、全社員が参加できる「オープンな場での議論」をしようとの第三者委側の要請に対し、10月31日、九電が「書面でのやりとりで」と回答し、その翌日の11月1日に、玄海原発4号機を運転再開させたところまでうかがいました。その後現在(11月16日)までの九電側との折衝はどうなっていますか。

郷原 信郎(ごうはら・のぶお)郷原 信郎(ごうはら・のぶお)
 1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを経て、2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センターセンター長。2006年検事退官。2008年 郷原総合法律事務所開設。2009年より名城大学教授、2009年総務省顧問・コンプライアンス室長に就任。

 郷原弁護士:九電は、相変わらず、我々が求めたオープンな場での議論を拒絶して、書面のやりとりにこだわりました。そういう書面のやりとりをするのなら第三者委の報告書提出後、会社側の経産省への報告書提出前にいくらでもできたはずです。なぜ、報告書公表後一か月以上も経って書面協議なのでしょうか。私は、翌日(11月1日)、「提案が拒絶されたものと受け止める」と会社に通告しました。

 問題は、九電の眞部利応社長が、第三者委の最終報告の認定した「古川知事の発言がやらせ投稿に決定的影響を与えた」との結論を何度も否定し、古川知事擁護の発言を繰り返していることです。

 ――それはどういうことですか。

 郷原弁護士:10月14日に九電が経産省に最終報告書を出した際の記者会見で「私どもが無実と考えている、いろんな方の供述から判断して、無実という方にですね、濡れ衣を着せるということは、これは一刻もゆるがせにできない」と発言しました。それは第三者委員会報告書の内容が「無実の人に濡れ衣を着せる」ものだという意味です。

 眞部社長はさらに、11月4日の九電の社内イントラネットで「第三者委員会の報告書について、丸のみして知事に責任を押し付けることは、今までうそをついていたといううそをつくことであります。同時に無実であると確信している第三者に濡れ衣を着せることであり、企業としても人間としてもそのようなことは断じてできません」とのメッセージを社員に送りました。眞部社長は、何の具体的根拠も示さず、「濡れ衣」という表現を使っている。我々第三者委がまとめた報告書は、17人からなる弁護士チームによる徹底した調査を踏まえ、法律家を含めたメンバーで慎重に議論して作成したものです。それを「濡れ衣をきせる」とは報告書を取りまとめた委員会メンバーへの名誉毀損だ、と判断し11月9日、私と阿部、古谷の3委員の連名で眞部社長個人宛てに公開質問状を出しました。

 ――「無実の人に濡れ衣」ですか。これは古川康佐賀県知事のことを言っているのですね。

 郷原弁護士:そうです。しかし、何が「無実」なのか「濡れ衣」なのか、さっぱりわかりません。第三者委の報告書の認定の根拠となった赤松弁護士チームの報告書は、知事発言が説明番組への賛成投稿要請の発端だったこと、佐賀支店長メモの記載が基本的に正確で、古川知事は、そのメモに書いたのと同様ないし同趣旨の発言をしたこと、つまり九州電力に対して、メールによる賛成投稿の要請をした事実があることを認めています。それは、弁護士チームによるヒアリング等の調査結果に基づき、慎重に認定した事実です。第三者委の報告書は、さらに独自調査も行って、そのような知事発言が、九州電力の賛成投稿要請に決定的な影響を与えたと認定しています。

 この点に関して、古川知事は「意図」「真意」は異なる、というようなことを言っていますが、我々は、本人の内心の問題である「意図」「真意」を認定したのではありません。あくまで、客観的な発言内容とそれが九電側の行為に与えた影響を認定したのです。このような第三者委の報告書の内容が、なぜ「無実の人に濡れ衣を着せる」ことになるのか、全く理解できません。その根拠があれば、示して頂きたい、ということで眞部社長宛に公開質問状を出したのです。

 ――会社に対してではなく、眞部社長個人宛にしたのはどうしてですか。

 郷原弁護士:このような第三者委の報告書の内容に対して「無実の人に濡れ衣を着せる」などと言うのは、さすがに、会社の組織的決定に基づいて発言しているとは思えなかったからです。経産省宛の報告書の内容は取締役会で決定したとしても、このような社会常識に反する発言は、眞部社長個人の判断で行っているものと考えました。

 ■「郷原批判」を打ち上げた岡本氏の記者会見

 ――その11月9日の公開質問状では、第三者委メンバー4人のうち、岡本浩一氏(東洋英和女学院大教授)が外れています。岡本氏は10月31日に記者会見して「九電に問題はなかった。九電が悪いか、悪くないかという問題の立て方がおかしい」など九電擁護の姿勢を明らかにし、郷原さんらを批判する発言をしました。これはどういうことなのですか。

 郷原弁護士:私も他の委員メンバーも、岡本氏が、他の委員メンバーには何の相談もなく記者会見をされ、第三者委でも報告書取りまとめの過程でも全く言われていなかった「やらせというのは原発問題に対する社会的意思決定を行う方法としてやむをえない」、「九電が佐賀県知事をかばうのは人格として立派だ」というような発言をされたのには驚いています。

 ――第三者委の調査の中で岡本氏との意見食い違いはあったのですか。

 郷原弁護士:第三者委では、2か月余りの期間内に、5回の会合のほかに、頻繁にメールのやり取りをするなどして、十分な議論を経て、報告書のとりまとめを行ってきました。第2回委員会だけは岡本教授の日程調整が困難だったので、その直前に個別に面談して、そのお考えを伺いました。当然のことながら、岡本委員にも十分に発言の機会があったはずです。しかし、記者会見で言われたような考え方を述べられたことは全くありませんでした。一度だけ、原子力発電本部の組織的な資料廃棄が明らかになった際に、私が記者会見を行って、その事実を公表したことに関して、反対の意見書を出されたことがありましたが、その会見が会社側の了解の上で行われたことや前後の事情を説明したところ、すぐに納得してもらい、意見書も撤回されました。今回、どうして、唐突に、第三者委の報告書の見解と相反することを言われるのか、全くわかりません。

 ――岡本氏はなぜ第三者委員会の委員に入ったのですか。その組織風土調査というのは、どういうものなのですか。

 郷原弁護士:岡本氏は、九電が委員のメンバーに指名してきた人です。社会心理学者で、組織風土論が専門。原子力安全委のJCO事故の政府の事故調査委員会にも入っている原子力分野と関わりの深い人です。この組織風土論というのは、我々のように個別企業の事実関係に立ち入って問題を調査し、原因を分析していくアプローチとは異なり、社員へのアンケート調査によって組織風土のレベルを計測するという手法です。結果を客観化するため、問題の中身には関係なく、どこの組織にも同じ質問をするという方法で、我々のような、個別具体的な問題を事実調査によって明らかにするという手法とは全く異なります。今回のような、社会的には重大であっても、その価値判断が複雑な問題にはおそらく組織風土調査は対応できないのだろうと思います。

 ――組織風土調査の結果はどうだったのですか。

 郷原弁護士:九電の組織風土はすばらしい、というのが調査結果でした。特に驚いたのは、「やらせメール」や証拠廃棄を組織的に行った原子力発電事業部の組織風土のスコアが特に高かったことです。その結論は第三者委の報告書で記述されており、今後も定期的に組織風土調査やるべき、ということも報告書の提言の中に入っています。その組織風土調査の定期的実施を、九電は経産省への報告書でも受け入れており、岡本氏と九電は、組織風土調査を通じて今後も関係を継続するということのようです。そこが、会社と全く関わりのない立場の他の3名との大きな違いです。

 ――31日の会見で岡本氏は「知事発言が、やらせの発端」とする第三者委の事実認定についても「知事の評価は我々の仕事ではない」「知事をかばい自分たちが悪いという九電の態度は、一般市民から見ても信頼に足る組織と感じられるのでは」とも述べたと報道されています。

 郷原弁護士:今まで全く言われていなかったことを、なぜ突然言い出されたのか、不可解です。第三者委では、十分な時間をかけて議論をしてきました。一回だけどうしても調整がつかず岡本委員欠席ということがありましたが、委員長の私が個別にお会いして十分に時間をかけて話をしました。その際の面談メモも残しています。岡本氏が、委員会の議論の進め方に異論を述べられるのであれば、そのメモを公開する必要もあるかもしれません。

 また、岡本氏は、第3回の委員会で中間報告を公表した際の記者会見にも同席してくれましたし、最終報告書を公表した9月30日の委員会には4人の委員全員で記者会見を行いました。

 ――岡本氏が10月31日に記者会見した後、岡本氏とは話したのですか。

 郷原弁護士:翌11月1日の朝、岡本氏本人から私に電話がかかってきました。「会見では郷原さんを批判するようなことは言っていない。新聞には言っていないことが書かれている」と言っていました。私が、西日本新聞の記事を読み上げると「そんなことは言っていない」と否定していました。私は「それなら、新聞社に抗議なり訂正要求なりされたらどうですか」と言ったところ「そうする」という話でした。その後、公開質問状を出す際に再度電話したところ、抗議はしていないという話でした。岡本氏の最近の言動は全く不可解です。

 ■「不可解な眞部社長からの電話」

 ――九電の眞部社長からは、公開質問状に対して反応はありましたか。

 郷原弁護士:2日後の11日の夕刻、眞部社長が、いきなり、私の携帯に電話をしてきました。「質問状に対しては期限までに回答をさせて頂くが、そうなると、こちらも第三者委員会報告書に対する質問状を出さなくてはいけなくなる。それでもいいんですか」というようなことを言われるので、私は「報告書を会社で活用して頂くためにも、疑問があればどんどん出して頂いた方が良いと思います。いくらでも質問してください」と答えました。その時の電話はその程度で、短時間で終わりました。

 ――眞部社長と郷原さんが話されたのは、いつ以来だったのですか。

 郷原弁護士:9月末の最終の第三者委員会も眞部社長は欠席でしたので、その前の、9月20日過ぎの委員会としての社長ヒアリングの時にお話しして以来、一か月半ぶりでした。

 ――わざわざ電話をしてきて、何が言いたかったのでしょうね。

 郷原弁護士:電話の後、考えてみたのですが、どうも眞部社長の意図がわかりませんでした。何か他に意図があるのではないか、ひょっとすると、眞部社長にも、公開質問状を個人宛に出されたことが結構こたえていて、私に電話をかけて、何か、話し合いで解決する余地を見い出そうとしているのではないか、と思いました。

 ――それで、どうしたのですか。

 郷原弁護士:そこで、翌朝、私の方から電話をかけて、眞部社長に、「もし、個人としての発言が言い過ぎだった、『濡れ衣』は撤回する、ということであれば、第三者委員会報告の核心部分を会社に理解してもらうためにご協力する余地はあります。問題は、知事発言が発端か発端ではないか、ということではなく、報告書が問題の本質として指摘している『不透明性』について、どのように認識し、今後どのように対応するかです」という趣旨のことを言いました。

 ――眞部社長はどういう反応でしたか。

 郷原弁護士:少しは考えが変わったから私のところにわざわざ電話をかけてきたのだろうと思ったのですが、全く変わっていませんでした。「第三者委員会が知事から要請があったと言っているのは根拠が薄弱だ」「根拠が薄弱なのに人に罪を着せたら濡れ衣になる」というような自分の発言を繰り返しているだけでした。逆に、「こちらからも質問状を出させて頂く。先生の方はそれでも構いませんか」というようなことを言っていました。

 私は、「質問状など出して頂いて全く構わない。回答書も質問状もこちらに送られれば、もちろん公表します」と答えました。眞部社長は、「先生は何でもかんでも公開と言われるが、本来、会社と第三者委員会との間で話し合うべきもの。公開するようなものではない」というようなことを言っていました。

 ――公開質問状への回答書を公開したくないということですか。

 郷原弁護士:要するに、質問状を出すと言えば、私が困るだろう、それが嫌なら、公開質問などやめて当事者同士で話し合おう、というのが、私に電話をかけてきた趣旨のように思えました。

 ■「眞部社長の強気の根拠は正体不明のブログ」

 ――それにしても、眞部社長は、強気ですね。その自信はどこから来るのですか。

 郷原弁護士:電話での眞部社長の話からすると、驚いたことに、その根拠は、岡本氏が第三者委の委員長の私を批判したことと、正体不明のブログなんですね。

 ――岡本氏の郷原さんへの批判というのはどういうことですか。

 郷原弁護士:「『真意はおくとして、発端』というのが赤松報告書。本報告書ではとらなかった。私は赤松報告書のままのほうがよろしかったと考えている」という発言のことを言っているのだと思います。要するに、眞部社長は、赤松弁護士チームの報告書では、「意図、真意を措くとして」と言っているのに、第三者委の報告書は、それを言っていない。第三者委の報告書は郷原個人が勝手な見解を書いたもの、ということを言いたいようです。

 ――その点はどうなんですか。

 郷原弁護士:全くの言いがかりです。岡本氏の発言は、第三者委の報告書を完全に誤解しています。第三者委の報告書が認定しているのは古川知事の発言内容自体と、それが九電側の行為にどういう影響を与えたか、ということです。別紙として添付している赤松報告書の「意図あるいは真意は措くとして」という文言を重ねて述べてはいませんが、九州電力側の行為を認定し、評価することが目的ですから、古川知事の「意図」「真意」は直接の認定の対象ではありません。

 世の中の出来事は、個々人の発言の客観的内容や文書の客観的記述に基づいて動いていくものです。発言者や文書作成者の意図・真意が客観的な発言内容や文言とは異なったものであっても、意図・真意と異なっていることを相手方が認識していた場合以外は、客観的な内容・文言にしたがって、物事が進められていきます。発言・文言を受け止めた側の行為の評価も、客観的な内容に基づいて行われるのが当然です。

 ――法律上も、そういうことが言えるわけですね。

 郷原弁護士:民法93条に「心裡留保」に関する規定があります「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」とされています。民法を学ぶ人が最初の頃に勉強する規定です。

 ――正体不明のブログというのはどういうものですか。

 郷原弁護士:1日2、3件、枝野大臣や私に対する誹謗中傷や、第三者委員会報告書に対する批判ばかりを書いているブログです。毎日書くのに数時間かかると思える程膨大な量の文章を赤や青の色を使って書いており、異常性を感じます。新聞によると(16日付読売朝刊)、九電社内では、このブログが大量に印刷されてばらまかれたり、通常はブログへのアクセスは制限されているのに、そのアクセス制限を特定のブログだけについて解除し、枝野大臣や私を誹謗中傷するブログを閲覧できるようにされたそうです。

 ――そういうアクセス制限は、セキュリティや従業員の職務専念義務を理由に行われているはずですが、アクセス制限を外すということが簡単にできるのでしょうか。

 郷原弁護士:九州電力ほどの大企業、しかも公益企業ですから、社内のパソコンのアクセス制限等についてはしっかりした規定が作られているはずです。まさか社長の一存でアクセス制限を解除できるとは思えません。本来は、社員に、「第三者委員会報告書をしっかり読んで、問題や疑問点があったら指摘してほしい」と要請すべきなのに、社員に、九州電力にとっては監督官庁の長である枝野大臣への誹謗中傷のようなことも書いてある正体不明のブログを読ませて「社内世論」を誘導する目的でアクセス制限を解除したことになります。公益企業として異常だと思います。最近サイバー攻撃等に関していろいろ問題になっているシステム管理にも関わる問題ですので、監督官庁でも事実関係を確認する必要があるのではないかと思います。

 ――眞部社長は、このブログについて、郷原さんに何を言っていたんですか。

 郷原弁護士:「先生は、ブログのことを御存じですか。その上で言われていることですか」というようなことを言っていました。このブログの第三者委の報告書への批判に私が反論できないとでも思っているような感じでした。

 ――どういうことを書いているのですか。

 郷原弁護士:くだらないことを書き並べてあるだけで、ほとんどまともに相手にするようなものではありませんが、一部を斜め読みした限りでも、第三者委員会報告書に関しては、およそ的外れな批判ばかりです。第三者委員会は、あくまで九州電力のコンプライアンス問題について動機・背景も含めた事実関係を明らかにして、原因分析をするためのものだという、基本的なところが理解できていないようです。古川知事に責任があるか否かというようなことは調査の対象とは関係ないし、知事の「意図」「真意」というのは、もともと問題にならないのに、第三者委員会報告書が、知事の責任追及をしているようにとらえているようです。「意図」「真意」こそが問題だと言って殺人事件の事例と比較したりしていますが、世の中の問題がすべて刑事事件の理屈で解決されるように誤解しているような全くの法律の素人の駄文です。我々のような調査業務や刑事事件の専門家から見ると、ほとんど読むに堪えないレベルです。

 ■「17日に委員3人の最終メッセージ」

 ――眞部社長は、そのブログに書いていることで質問状を出そうとしているのですか。

 郷原弁護士:第三者委の会報告書への「質問状案」までアップされているようです。まさか公益企業の大会社の社長が正体不明のブログで質問状を書くというようなみっともないことはしないと思いますが、電話での口ぶりからはそんなこともやりかねない感じでした。眞部社長が、公開討論を拒絶し、「書面による意見交換」にこだわったのは、書面であれば、ブログの内容が使えると思ったからかもしれません。公開の場では、自分が理解していないと討論ができませんから。

 ――公開質問状に対して回答はあったのですか。

 郷原弁護士:15日に「回答書」と題する書面が届きました。しかし、我々が質問している「無実の人に濡れ衣を着せる」という発言の根拠は全く示されていません。「知事及び当社の3名が全員否定しているにもかかわらず」というような記述があるだけで、そのような供述がいつ誰の聴取によって得られたものであるのか根拠が示されていないし、法律家から「本件事案において、名誉棄損が成立する余地はないとの回答」を得ているとのことですが、その氏名も、その見解の理由も全く示されていません。およそ「回答書」とは言えないものでした。今日(16日)、質問状を出した3名の連名で、回答書に対する質問書を出しました。

 ――眞部社長は、その回答書を公開したのですか。

 郷原弁護士:驚いたことに、15日の夜、ウェブサイトのトップページに、「経済産業省主催の県民説明番組への意見投稿等の呼びかけについて」「公開質問状に対する回答について」と題する文書がデカデカと掲載されました。しかも、我々の公開質問状は、眞部社長個人に対して出したもので、会社に対して出したものではないのに、凡そ回答とも言えないような内容の文書を、電気利用者に対する情報提供を主目的とする公益企業の電力会社のウェブサイトにデカデカと掲載する神経は全く理解不能です。そのような文書は削除するように要求する文書を出しました。

 ――なかなか収拾がつかないようですが、今後、この問題はどうなるんでしょうか。

 郷原弁護士:九電側と第三者委側とが対立する状況になってから、我々も、これまで、手弁当で活動をやってきました。第三者委という形でこの問題に関わりを持ったものとして、「経営者の暴走」を続ける九州電力の状況を放置することはできない、何とか、九州電力が信頼を回復し、公益企業としての役割を果たせる企業になってほしい、という我々なりの社会的使命感からです。そういう意味で、やるだけのことはやったと思います。第三者委メンバー3人の活動も、そろそろ終わりにして、後は、九州の地域社会の方々がこの企業の問題を今後もしっかり見守ってもらうこと、経済産業省が監督官庁としてしっかり役割を果たしてもらうことに委ねたいと思います。

 17日に、3人の連名で最終メッセージを出し、福岡市内で記者会見を行って、締めくくりにしたいと思います。

 郷原 信郎(ごうはら・のぶお)
 名城大学総合研究所教授、郷原総合法律事務所代表弁護士。1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事などを経て、2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センターセンター長。2006年検事退官。2008年 郷原総合法律事務所開設。2009年より名城大学教授、2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。年金業務監視委員会委員長。公正入札調査会議委員(国土交通省・防衛省)、横浜市コンプライアンス外部評価委員。法務省検察の在り方検討会議委員も務めた。近著に「組織の思考が止まるとき~「法令遵守」から「ルールの創造」へ~」(毎日新聞社、2010年)。