メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

オリンパス監査人交代で外部には「任期満了」、内部では「意見の重大な相違」

奥山 俊宏

 オリンパスがそれまで長年、会計監査人を務めたあずさ監査法人との契約を2009年に終了させた際、その理由について対外的には「任期満了」と説明しながら、内部の一部幹部には、損失計上をめぐる「意見の重大な相違」と伝えていたことがわかった。同監査法人はこの直前に、問題があると指摘していた。一般投資家に事実を伝えようとしない同社の姿勢が改めて浮かび上がった。あずさ監査法人はこれに異議を唱えていなかった。

  ▽この記事は2011年11月17日の朝日新聞朝刊に掲載された原稿に加筆したものです。

 解任された同社のマイケル・ウッドフォード元社長から朝日新聞が入手したメールの写しによると、2009年5月25日、同社の川又洋伸(ひろのぶ)経理部長(当時)から、オリンパスの欧州法人の社長だったウッドフォード氏らに「菊川氏のメッセージ」と題するメールが送られた。

 そこには、「マル秘」のスタンプが押された菊川剛(つよし)社長(当時)の英文の手紙が添付されており、その手紙の第1段落には「本日の取締役会で、あずさ監査法人との会計監査人契約を更新せず、任期満了とともに契約を終了すると決めた」と書かれていた。東京証券取引所の規則に従ってその決定を公表する際には「終了の理由については単に任期の満了と言うつもりだ」とされていた。

 そうした説明の上で、菊川社長の手紙は「しかしながら、この決定の背景事情を個人的に知らせておきたい」と前置き。「会計監査の過程で、監査役を含む我々と、あずさ監査法人の間で、次の事項について、意見の重大な相違がある」と説明し、二つの点を挙げていた。一つ目は「いくつかの統合した企業の『のれん代』の減損に関する意見」。もう一つは「ジャイラス買収の減損と取得原価の配分に関する意見」だった。

 菊川社長の下で、オリンパスは2006~2008年に、資源リサイクル会社「アルティス」、健康食品販売会社「ヒューマラボ」、調理容器製造会社「NEWS CHEF」の3社を総額734億円で買収したが、2009年5月12日、そのうち557億円を3月31日付で損失として処理せざるを得なくなった。「『のれん代』の減損」というのはこの損失計上のことを指すとみられる。また、オリンパスは2008年、英国の医療機器メーカー「ジャイラスグループ」を9億3500万ポンド(約2200億円)で買収したが、それに前後する2006~2010年に、フィナンシャル・アドバイザーのAxes社の側に総額6億8700万ドル(約670億円)を払い、その不明朗さを指摘されている。また、ジャイラスグループ買収の取得原価の配分が確定したことにより、2009年5月12日、特別損失155億円の計上を決めた。「ジャイラス買収に関する意見の相違」というのはそうした経緯に関連しているとみられる。

 このメールが送信された2009年5月25日、オリンパスは、あずさ監査法人の退任を公表した。東証の規則ではその「理由と経緯」の公表がすべての上場企業に義務づけられているが、オリンパスの発表文には「任期満了となり退任します」としか書かれていなかった。あずさ監査法人は退任の経緯について意見を述べることができたが、オリンパスの発表文には「特段の意見はない」との回答だったと記載されていた。

 オリンパスの広報・IR室は取材に対して、会計監査人の交代の理由について「お知らせしてある通り、あくまで任期満了によるもの」と説明。菊川前社長の手紙については「会社として出しているものではないので」とコメントしなかった。