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還付加算金~その内容と近時の改正~

 納税者が納め過ぎた税金を国から返してもらう際に加算される還付加算金のルールが今年度、一部改正された。還付加算金の利率は公定歩合に一定利率を加えて算定されるため、低金利の昨今は市中金利よりはるかに高い。そこに目をつけて、わざと実際より高額の申告をして還付を受けるケースが散見されていたためだ。采木俊憲弁護士は、懲罰的な要素もある延滞税と、これと性格を異にする還付加算金とで利率をそろえていること自体に問題があるとし、制度の抜本的見直しを考えるべき時期にさしかかっていると指摘する。

還付加算金とこれにまつわる近時の改正

西村あさひ法律事務所
弁護士
采木 俊憲

采木 俊憲(うねき・としのり)
 弁護士。2000年慶應義塾大学法学部法律学科卒。2002年弁護士登録。2008年ジョージタウン大学ロースクール(LL.M. in Taxation)修了。シアトルの法律事務所勤務を経て、2009年から2011年まで任期付職員として東京国税局調査第一部国際調査課(国際税務専門官)及び調査審理課(国際調査審理官)勤務。

 ■はじめに

 今年2月、武富士の創業者の長男が、創業者から生前贈与された海外資産に関して課税当局から受けていた課税処分の取消訴訟に最高裁で全面勝訴した。長男が延滞税を含め約1600億円を納付済みであったことから、国は、還付加算金約400億円を上乗せした約2000億円を還付することになった。

 このうち、納付されていた約1600億円の還付は課税処分取消訴訟に勝訴した以上当然であるが、還付加算金として支払われた約400億円というのは一体何なのであろうか。約400億円といえば、一般の国民の目から見れば目も眩むような金額である。しかも、その原資は国民が納めた税金なのである。

 そこで、本稿では、この「還付加算金」について、その内容を説明し、関連する平成23年度の税制改正を概説することとしたい。

 ■還付加算金とは

 還付加算金とは、一言でいえば、納税者が税金として納め過ぎた金銭について国から返還を受ける場合、過去に実際に納付済みの金額に加算して、納税者に対して支払われる金銭である。

 納税者が税金を納める場合、通常は租税法に則って算出された税額を納めることになるが、納付時に計算の過誤があって税額を過大に算出してしまった場合や、納付後に結果的に納め過ぎであったと分かった場合、更には、納付後に税務訴訟等を通じて課税処分が取り消しになった等の場合には、結果として過大に納付していたことが明らかになった金額が、当該納税者に返還(法律上、これを「還付」という)される。このような場合、納め過ぎた金額は、租税法上、還付金又は過誤納金(以下まとめて「還付金等」という。それぞれの用語は以下で説明する)として、税金を納め過ぎた納税者は、これら還付金等の還付を国に対して請求する権利を有することになる。

 このうち、「還付金」とは、例えば、法人税法に基づいて中間申告納税額を計算し(前事業年度の所得実績に基づき計算される)、納税者がこれを納付したが、業績の悪化によって通年での申告納税額が小さくなったため、結果的に、中間申告納税額・納付額が過大になった場合の当該納付し過ぎた金額であって、国から還付を受けられるものをいう。所得税法が定める予定納税制度に基づく納付額が納め過ぎになった場合も同様である。どのような場合に還付金が発生するかについての基本的な考え方は、過去に行った税金の納付が納め過ぎであったとして還付することが、税負担の公平上適当と認められる場合には、当該過大納付分を還付する、というものである。しかし、何を以て税負担の公平上適当とするかの判断が個別事案ごとに行われてはかえって不公平が生じかねないため、実際にどのような場合に還付金が生じることになるかは、所得税法や法人税法などの個別の法律において、具体的に定められている。

 また、「過納金」とは、例えば、課税当局が納税者の当初申告額が過少であるとして更正処分(増額更正処分)によって増加させた税額を確定させたが、納税者が当該増加税額を納付した上で税務争訟(異議申立や審査請求といった行政手続、又は税務訴訟)で争ったところ、課税当局自ら当該増額更正処分の誤りを認めて減額更正処分(納めるべき税額を減少させるため、当初の増額更正処分を減額させる更正処分)を行った場合や、又は裁判所等が納税者の主張を認めて当初の増額更正処分を取り消すことによって納付すべき税額が減少した場合の、その減少分であって、国から還付を受けられるものである。

 このように、過納金は、当初確定された税額(上記の例でいえば、課税当局の行った増額更正処分によって確定された税額)及びその税額相当額の納付が、当初の確定の時点(上記の例でいえば、課税当局の行った増額更正処分の時点)では所定の法令の手続に則ったものとして適法であったものの、その後の事情の変化(課税当局自ら減額更正処分をしたり、裁判所等が当初の増額更正処分を取り消したりする等の事情の発生)によって、結果的に国が当該納付された金額の全部又は一部を保持し続けることができる法律上の原因を失った場合に認められるものである。

 更に、「誤納金」とは、例えば、納税者が確定申告を行って確定した納税額を超えて、誤って過大な金額を納付した場合の、その超過納付分であって、国から還付を受けられるものである。誤納金は、納税者が確定申告等の手続によって確定した本来納めるべき税額を超える金額を納付した以上、その超過納付分については既に納付の時点から国がこれを維持し続ける法律上の原因はないので、国がこれを還付するというものである。誤納金は、単なる誤りであることが多く、実際上問題になることは少ない。

 以上のような理由で還付金等が生じた場合、納税者は、課税当局に対して、納め過ぎた金額を返してもらうよう請求できる訳であるが、前述したとおり、この還付金等が返還される場合に、これに加算されるのが、「還付加算金」である。

 還付加算金は、法的には、一種の不当利得返還請求権に係る遅延利息であるといわれている。即ち、還付金等が生じた原因は様々であるが、結果的には、納税者から受領した金銭を国が保持し続けることで、一定期間、納税者がその金銭を自由に利用することを妨げていたことになる。そこで、還付金等の返還に当たっては、その間の利息に相当する分の金銭を加算しなければならないということで、還付加算金が加算されるのである。ここで、還付金等が民法上の不当利得そのものであれば、ある財産や利益を得た者の善意・悪意によって不当利得返還請求権の範囲が異なることになり、善意の場合には現存利益の限度で返還すれば足り(つまり、利息が生じない)、悪意の場合にはその受けた利益に利息を付して返還しなければならない(なお、ここでいう善意・悪意は日常用語でいう善意・悪意と意味が異なり、当該利得者が、その財産や利益を得ることについて、法律上の原因があると知っていたか否かによって判断される)訳であるが、租税法上の還付加算金については、後に述べるとおり、その起算日や利率等について、民法とは異なる具体的定めが置かれている。

 ■還付加算金の利率

 還付加算金の具体的な金額は、一定の利率に、還付加算金が生じる期間の日数を乗じて算定される。つまり、還付加算金の金額を決定する要素は、(1)利率と(2)起算日である。

 このうち、まず上記(1)の利率については、以下のような形で定めるものとされている。

 例えば、平成23年1月1日から12月31日の期間における還付加算金の利率は年4.3%であるが、この利率は来年以降変動する可能性がある。というのも、この利率は、租税法上は年7.3%が原則とされているものの、日本銀行法に基づく商業手形の基準割引率(通常、「公定歩合」と称される)に4%の数字を加算した数値が7.3%より低い場合には、当該数値をもって還付加算金の利率とするものとされているからである。この数値を特例基準割合といい、平成23年の場合はこの割合が年4.3%であるので、租税法上の原則である年7.3%に代えて、この数値が用いられているのである。

 このように、公定歩合の動向によって特例基準割合、ひいては還付加算金の利率は毎年変動する可能性がある。しかしながら、上記から明らかなとおり、仮に公定歩合が年0%となったとしても、還付加算金の利率は年4%未満にはならない。従って、定期預金の金利が年1%を大きく割り込むような現在の超低金利の状況下では、これを有利な利率であるとして、何らかの資金運用に利用できないかと画策する動きもみられる。

 ■還付加算金の起算日

 還付加算金の金額を決定するもう1つの要素は、上記(2)の起算日である。民法上の不当利得であれば、財産や利益を得た者の善意・悪意によって不当利得返還請求権の範囲が定まり、悪意の場合には、その受けた利益に利息を付して返還すべきことになるが、租税法に基づく還付加算金の場合には、考慮すべき要素が多いため、民法の不当利得のように単純な規定を置くことは適切ではない。そこで、還付加算金の起算日については、国税通則法が原則的な規定を定め、所得税法や法人税法といった個別の租税法規がこれに優先する特別規定を定めるという形が採られている。このうち、国税通則法の規定の概要は、以下のとおりである。

 まず、還付金(前述の例でいえば、事業年度中に行った中間申告とそれに基づく納付額が、業績の悪化により、結果的に過大であると判明した場合等に還付される金額)については、還付加算金の起算日は、当初の納付日とされている。但し、所得税や法人税法といった各租税法規に特別規定が数多く置かれており、特別規定がある場合にはそちらが優先して適用される(中間申告・納付についても、後に述べるように法人税法に特別規定が置かれている)。

 次に、過誤納金(前述の例でいえば、課税当局の更正処分に従って納税者が税額を納付したが、後に課税処分が取り消されて、結果的に納め過ぎとなった場合等に還付される金額)については、還付加算金の起算日は、その過誤納金の発生態様ごとに、以下のとおり3種類に分かれている。

 第1に、その過誤納金が発生した原因が、課税当局が行った課税処分にある場合(つまり、課税当局の更正処分等に誤りがあり、裁判所等が取り消した場合等)、還付加算金の起算日は、その税金の納付日の翌日とされている。課税当局が(結果的に誤りと判断された)更正処分等を行ったことによって、納税者が本来納める必要のなかった税額を納めざるを得なくなったのであるから、還付加算金の起算日もできるだけ早くすることで納税者保護を図る趣旨である。

 第2に、納税者からの更正の請求に基づいて課税当局が減額更正等をすることで生じた過誤納金の場合、還付加算金の起算日は、更正の請求の翌日から起算して3ヶ月、又は減額更正処分の翌日から起算して1ヶ月のいずれか早い日の翌日とされている。この類型は、例えば納税者が行った当初の申告に何らかの問題(税額を本来の額より大きく計算してしまうような誤り等)があり、課税当局も当初申告段階ではこれに気付かなかったが、納税者から更正の請求の形で指摘を受け、当初申告に基づく税額を課税当局自ら(減額更正の形で)訂正した、というような類型である.この場合、第1の場合と異なり、そもそも課税当局は、過誤納金が生じることを当初から認識していたとは言い難い。そこで、納税者が更正の請求を行った日等を基準にして、一定の限度で還付加算金の起算日を早い日に設定したものである。

 第3に、上記第1及び第2以外の場合には、還付加算金の起算日は、過誤納金の発生日の翌日とされている。個別事案毎に具体的判断を行うと起算日の判断が統一されず、租税負担の公平性が害されるおそれもあるので、第1又は第2のような事情がない場合には、一律に、過誤納金の実際の発生日が起算日の基準とされているのである。

 以上のうち、還付加算金の起算日が最も早いのは第1の場合で、最も遅いのは第3の場合である。

 ■還付加算金制度に関する平成23年度税制改正

 還付加算金制度の概要は以上のとおりであるが、平成23年度税制改正の前には、当該制度における還付加算金についての起算日の定めを利用して、不当に還付加算金を取得することを目的としたと思われる手法が一部で用いられていた。それらのうち、ここでは、法人税法所定の中間申告制度に関する還付加算金の起算日の定めを利用した手法について、具体的数字を用いて、問題点を説明する。

 そもそも、法人税法における中間申告制度は、前事業年度等の所得実績に応じて、当事業年度の法人税の一部を当事業年度途中において申告・納付するものである(但し、当事業年度の所得が減少することが見込まれる場合は仮決算を組み、中間申告・納付額を圧縮させることができる)。この制度を用いて、業況の悪化によって当事業年度の所得が前事業年度よりも大幅に減少することが見込まれるにも拘わらず、前事業年度等の所得実績に基づき課税所得額を100とする中間申告・納付を行い、更に、確定申告において実際よりも納税額が多額になるよう課税所得額を120に水増しして確定申告・納付を行い、その後に納税者が更正の請求を行って、真実の課税所得額は50であったと課税当局に認めさせ、これを超える所得額70の部分について、減額更正を受ける場合を例に取ってみよう。

 この場合、減額更正後の課税所得額50と中間申告納付時点での課税所得額100の差額50に所定の法人税率を乗じた金額が還付金となるが、これに付される還付加算金の起算日は、平成23年度税制改正前の法人税法の規定によれば、確定申告の提出期限翌日とされていた。つまり、単に前事業年度の所得実績に基づき中間申告・納付を行うだけではなく、これに加えて更に意図的に課税所得額を120に水増しした確定申告を行い、その後に更正の請求を行って、課税所得額を50とする減額更正(課税所得額を70だけ減額する更正)を受け、減額更正後の課税所得額50と中間申告納付の際の課税所得額100の差額である50に所定の法人税率を乗じた金額について、確定申告の提出期限翌日を起算日として還付加算金を受けるという形で、確定申告の提出期限翌日から還付の日までの期間について、(平成23年であれば年利4.3%の)確実な資金運用を行うことが可能になっていたのである(なお、中間申告納付の際の課税所得額100と確定申告における課税所得額120との差額20に所定の法人税率を乗じた金額は過納金となるが、この過納金については、仮装経理に基づく過納金であるので直ちに還付はなされず、翌年以降の法人税額から順次控除する規定が適用されるから、この差額20については、還付加算金を用いた「資産運用」はできない)。

 この手法のポイントは、納税者が意図的に課税所得を水増しした確定申告を行う点にある。このような行為によって、還付金について確定申告の提出期限翌日を起算日とした還付加算金を受領できることは、明らかに不適切である。

 そこで、平成23年6月に施行された平成23年度税制改正では、このような場合における還付加算金の起算日について、減額更正の翌日以後1ヶ月を経過する日等とする旨の改正が行われた。これは、納税者が意図的に課税所得を水増しした確定申告を行っており、これに基づき還付金が発生するとしても、課税当局は、確定申告の時点では、かかる水増しの事実を把握できず、還付金が生じることを課税当局が当初から認識していたとは言い難いことから、減額更正より前の時点において還付加算金の発生は認めることは相当でない、との政策判断に基づく改正である。

 同種の問題は、所得税の予定納税額、相続時精算課税制度における贈与税相当額及び消費税の仕入税額控除や中間納付税額等についても存在していたが、いずれも、還付加算金の起算日について同様の改正が行われている(なお、これらの改正は、平成24年1月1日以後に支払決定等がなされる還付金に係る還付加算金について適用される)。

 ■おわりに

 還付加算金の利率は法定されており、しかも、現在の超低金利の状況下では相対的に利率が高いことから、還付加算金の制度を一種の資金運用に利用するという問題が生じている。また、これとは逆に、本稿では紙面の制約上詳細は割愛するが、還付加算金の起算日に関する規定の不備から生じた納税者の不利益について、納税者が最高裁まで争った末にようやく救済された、というような事例も生じている。

 このような状況に対して租税法は、問題が生じるごとに、不都合性な点を個別改正で手当てするという方法で対応している。

 この点、そもそも還付加算金がこのように問題となる根本的な原因は、延滞税(期限内に国税を納付しない場合に、納付されていない税額に基づいて課される延滞金としての課税)と還付加算金とで利率が揃え

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