2011年12月21日
「総じて日本の国家機関の動きが悪かったのは事実。批判を受けても仕方がない。事実を解明して結果を出すしかない」
オリンパス関係先への強制捜査を控えた12月中旬、検察首脳はこう決意を語った。
発端は、経済誌「FACTA」が今年7月に掲載したオリンパスの不透明な資金流出に関する記事だった。当時社長だったマイケル・ウッドフォード氏がその資金流出疑惑についてある程度説明をした会長の菊川剛氏らに辞任を求めたところ、逆に、10月14日、取締役会で社長を解任された。ウッドフォード氏は英経済紙に「内部告発」。それが報じられ国内外で問題となった。
ウッドフォード氏は、社長時代に大手会計事務所に分析させた調査資料を英国のSFO(重大犯罪捜査室)、米国のFBI(連邦捜査局)、日本の証券取引等監視委員会に送付。疑惑の真相解明を求めた。
SFO、FBIはウッドフォード氏にすぐ接触。FBIは米国在住の関係者の事情聴取に乗り出した、と報道された。
日本の監視委は10月20日すぎにはウッドフォード氏の資料を受け取ったが、オリンパスへの立ち入りなど具体的な調査に動かず、情報提供したウッドフォード氏への接触もしなかった。
ウッドフォード氏は11月初め、朝日新聞のインタビューに対し、「監視委だけは10日たっても連絡がない。これだけの証拠があるのに調査しないのか」と憤った。呼応するかのように英経済誌は「日本の捜査当局は行動を起こすべきだ」との社説を掲載した。
監視委は、ファクタの記事でオリンパスの粉飾決算を疑っていたが、(1)問題とされた取引を含む決算に対し大手監査法人が適正意見をつけていた、(2)オリンパスが社外の弁護士らによる第三者委員会の設置準備を10月21日に発表したため自主調査を尊重した、(3)ウッドフォード氏の資料の内容もファクタの記事の範囲にとどまっていたーーなどの理由で立ち入り検査を発動するまでの根拠にならないと判断したようだ。
ウッドフォード氏に接触しなかったのは、情報提供者自ら接触し本人確認がとれた場合以外は、情報提供者と接触しない、との監視委の従来からの取扱を「遵守」した結果とみられる。
しかし、元金融庁幹部は「ファクタの報道とそれを肯定する元社長の告発で組織ぐるみの粉飾の疑いが濃くなったと判断するのが普通。すぐ開示検査で立ち入り、悪質な粉飾などが見つかれば犯則調査に切り替えるべきだった。何もしなかった理由がわからない」と監視委の対応をいぶかしんだ。
一方、検察、警察当局も、ウッドフォード氏の告発が始まった時点ではのんびり構えていた。ファクタの記事で粉飾や偽計取引などを疑い、情報収集に動いたとみられるが、積極的にウッドフォード氏に接触することなく、この件では監視委との情報交換も行っていなかった。
検察が危機感を持つのは、検察首脳が財界関係者から「国際信用にかかわる。企業のガバナンス、東証、監視委、検察も含めてどこもチェックできていない。外国から見ると、とんでもない国、企業だ、と映る」と苦言を呈されてからだ。
解任された社長と会社側が疑惑の有無を巡って対立する図式。投資家はどちらを信用してよいか分からず、オリンパスの株価は急落した。ウッドフォード氏解任前日の株価の終値は2482円だったのが、21日には1231円と半減した。
たまりかねた東京証券取引所は10月19日、オリンパスに株主への説明のため第三者委員会を設置して事実解明するよう要請。それにもとづき11月1日に設置された第三者委員会(委員長・甲斐中辰夫・元最高裁判事、東京高検検事長)が、事件に転機をもたらした。
第三者委の弁護士らの事情聴取に対し、オリンパスの財務を担当してきた山田秀雄監査役と、森久志副社長は当初6日間は否認していたが、結局、90年代末にバブル期の損失を海外のファンドなどに飛ばし、それを解消するため英国の医療機器会社ジャイラスの買収や国内の産廃会社など3社の買収にからめて簿外処理していた損失を穴埋めしたことを認めたのだ。
オリンパスが11月8日に「粉飾」の事実を公表すると、様子を見ていた東京地検、警視庁、監視委は色めき立った。
この時点で即、検察や警察、監視委が一斉に強制捜査・調査に入る選択もあった。しかし、問題が生
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください