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小沢議員第10回公判 服役中の前田元検事が特捜部捜査の舞台裏を証言

 資金管理団体「陸山会」をめぐる土地取引事件で、政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で強制起訴された民主党元代表・小沢一郎被告(69)の第10回公判が12月16日、東京地裁で開かれた。陸山会の元会計責任者・大久保隆規元秘書(50)を検事として取り調べた前田恒彦受刑者(44)=証拠改ざん事件で実刑が確定=が証人として出廷。「自分の調べに問題はないが、特捜部のゼネコン捜査は見立て違いの妄想だった。小沢氏は無罪だと思う」と述べた。

  ▽注:法廷でのやりとりは記者のメモから起こしたもので、正確に聞き取れなかった部分があります。聞き取れなかった部分は「〓」「…」「○○」などと表示してあります。

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小沢一郎・民主党元代表の前で証言する前田恒彦元検事(右)=東京地裁、絵と構成・小柳景義

 前田元検事は昨年1~2月、大阪地検特捜部から東京地検特捜部に応援で入り、大久保元秘書の調べを担当した。大久保元秘書は、政治資金収支報告書の虚偽記載への自らの関与を認める内容の供述調書に署名したが、小沢氏の公判では「威迫や誘導があった」と主張した。検察官役の指定弁護士が「前田元検事の取り調べは適切だった」と立証するため証人として呼んだ。

 前田元検事はまず、指定弁護士の質問を受けた。

 自分の調べについては「私は社会的に死んだ身で、死人に口なしで言い返せない立場にあるが、大久保さんの公判での証言はあまりにでたらめ」と語り、「実際は大久保さんは調書を何度も読んだうえで署名していた」と強調した。

 そのうえで、特捜部の捜査には「問題があった」と言及した。「検察の有利不利を問わずお話しするのが、一般国民による検察審査会の議決への、私の対応だと思う」と切り出し、捜査の「内情」を暴露した。

 前田元検事は応援入りした初日に、主任検事から「この件は特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢を挙げられなかったら特捜部の負けだ」と言われたという。

 問題の土地購入の原資となった小沢氏の4億円の出どころについて、特捜部長ら一部幹部と現場の検事らの間に認識の違いがあったと指摘。「特捜部長の頭の中では、胆沢ダム(岩手県奥州市)工事で各ゼネコンから小沢氏側に裏金がいくらずつ渡った、という筋を描いていた」という。

 「水谷建設が提供を認めた5千万円以外の話を出せ」という捜査方針に対し、現場の検事らは「話は全然出ず、難しいと考えていて、だいぶ疲弊していた」と証言。「特捜部長らは妄想を抱いて夢を語っていた。小沢氏の立件に積極的だったのも特捜部長、主任検事、最高検検事の3人だけだった」と述べた。

 特捜部は結局、水谷建設以外から裏金の供述を得られず、秘書らも授受を完全否定。ゼネコン捜査の不調は、小沢氏の起訴を断念する最大の要因となった。

 前田元検事は、続いて弁護側の質問を受けた。

 前田元検事は、検察官役の指定弁護士が証人出廷を要請するために刑務所まで会いに来た際、「小沢さんは無罪だと思う。職務上、大変ですね」と話したと証言。この日の法廷でも、「私が裁判官なら無罪判決を書く」と言い切った。その理由として、小沢氏の強制起訴を決めた検察審査会や指定弁護士に対し、検察が不利な証拠を隠していると指摘した。

 一つは捜査時の「取り調べメモ」。特捜部の検事らは、捜査の見立てと合わずに調書にできなかった場合、手書きの取り調べメモをパソコンで清書して各検事で共有していた。問題の土地購入の原資となった小沢氏の4億円については「ゼネコンからの裏金」とみて捜査したが、水谷建設以外から全く供述が得られていないことが分かる大量のメモが配られたという。

 審査会の議決書は「小沢氏の4億円の出どころの説明は著しく不合理だ」と指摘した。しかし、前田元検事は「審査員がこうした特捜部のメモを見れば、水谷建設の話の信用性は低くなった」と語った。ただし、「メモは検察に『出せ』と言っても、『ない』と言うだろう」とも付け加えた。

 また審査会は、元秘書・石川知裕衆院議員(38)が「小沢氏に虚偽記載を報告し、了承を得た」と認めた調書を、強制起訴を決める最大の根拠にした。前田元検事は、石川議員の弁護士からの「取り調べ時間が長い」などの苦情の文書も隠されていると指摘。「審査員が知っていれば、石川調書の信用性は低くなる」と述べた。

 石川議員を取り調べた検事から、小沢氏に虚偽記載を報告して了承を得た場面は「最大で『おう』という程度」と聞いたといい、「この調書では小沢氏の共謀を問うのは難しい」とも語った。

 そのうえで、「特捜部を愛しているからこそ、手持ちの証拠の全面開示と、被疑者・参考人を問わず全事件での取り調べの可視化(録音・録画)に踏み込むべきだ」と力説した。

 大久保元秘書らの公判では、検察側が前田元検事の調書をすべて撤回し、証人申請もしなかったため、前田元検事は今回、陸山会事件で初めて法廷に立った。

 前田元検事は昨年年9月、大阪地検特捜部の主任検事として捜査した郵便不正事件で、厚生労働省の村木厚子元局長=無罪が確定=が関与したように押収品のフロッピーディスクを改ざんしたとして証拠隠滅容疑で逮捕された。今年4月に懲役1年6カ月の実刑判決を受け、控訴せずに確定。現在も服役している。

 前田元検事は、オレンジのフリース、青いジャージズボン、腰縄手錠という姿で入廷。裁判官、指定弁護士、弁護団の順に深く一礼した。宣誓書を朗読した後、「失礼します」と言って着席した。

 法廷でのやりとりは以下の通り。

 《10:00~10:30》

 ■検察官役の山本健一・指定弁護士が質問

 指定弁護士:あなたは検察官として陸山会事件を捜査した。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:陸山会事件で証人となるのは初めて。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:あなたが作成した調書は秘書公判では証拠請求が撤回され、証人申請もされなかった。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:なぜだと?

 前田元検事:大きく3点ある。1点目は、言われているような任意性が問題になる調べはやっていないが、私の事件で受刑中であり、予断、偏見、色眼鏡で見られるので信用してもらえない。法廷という公の場でさらし者になるのが嫌だった。私の事件を捜査した最高検の検事には「出ない。私の調書は使わないでくれ」と言った。2点目は、最高検としても、私が出れば私の事件も陸山会事件で争点になってしまう可能性があり、出さない方がいいと判断された。陸山会の捜査には問題があったと思っていて、私の事件でもそれを申し上げた。証人なら偽証はできないので、私の口から何が出てくるか分からないので出さないという判断もあったと思う。3点目は、私の調書がなくても大久保さんの有罪は明らかなので撤回した。

 指定弁護士:証人に出ないというのはまずあなたから申し入れたと。

 前田元検事:はい。他の事件も同様に、私の調書を使うのはやめてほしいと言った。

 指定弁護士:なぜ今回は出廷した?

 前田元検事:2点ある。1点目は、私の調べ内容について大久保さんがいろいろ言っているが、報道を見る限りかなりでたらめ。私は社会的に死んだ身で死人に口なしで言い返せない立場にいるが、あまりに違う。秘書公判では切り違え尋問が認定されたが、絶対間違っている。2点目は、検察が起訴したのではなく、一般国民の検察審査会の議決で判断して起訴になった。私の調べは内容ないが、当時の特捜部の捜査には確かに問題があった。検察に有利不利を問わずお話するのが検察審査会の議決を受けた私の対応だと思った。

 指定弁護士:特捜部の捜査で問題があったのは何?

 前田元検事:いろいろあるが、筋が違うのでは。

 指定弁護士:手法に問題?筋というか見立ての問題?

 前田元検事:一番は見立てですが、捜査の進め方、私以外の検事の取り調べを私は知っているが、問題があった。

 指定弁護士:あなたの調べには問題があったと思っていない?

 前田元検事:思ってない。

 指定弁護士:あなたは平成8年4月に任官。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:特捜部の在籍歴は。

 前田元検事:検事を14、5年やる中、大阪、東京合わせて8、9年は特捜部にいた。

 指定弁護士:経歴の半分以上を特捜部というのはよくあること?

 前田元検事:いや、私の同期では私1人くらい。

 指定弁護士:検察庁の中でもあなたの調べに期待していたということ?

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:陸山会事件の当時は大阪地検特捜部に。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:いつから捜査に?

 前田元検事:昨年1月、大久保さんの身柄勾留の6日目から。捜査の応援としては前日の午後1時に東京地検に出頭して、勾留満期の20日目まで。

 指定弁護士:1月20日に来て、1月21日から取り調べを。

 前田元検事:はい。

 指定弁護士:応援に入るよう言われたのはいつ?

 前田元検事:正式には月曜日、内々には前の週の金曜日に。

 指定弁護士:何を調べると教えられていた?

 前田元検事:教えられない。

 指定弁護士:資料を渡されることは。

 前田元検事:ありません。

 指定弁護士:東京に来るまで、どこまで捜査が進んでいて、自分が何を担当するかは分からなかった?

 前田元検事:20日午後1時に着任しているが、その前の日に吉田副部長と主任検事に電話であいさつしたが、その段階でも捜査の展開や担当は教えられなかった。

 指定弁護士:1月20日は着任して何をした?

 前田元検事:1月20日段階で捜査を拡大するということで、全国から20人近い検事が応援で入った。午後1時に検察庁10階の事務課に全員集合し、佐久間部長、吉田副部長の順にあいさつした。20人くらいが1人ずつごあいさつした後、吉田副部長に「前田君だけ残ってくれるか」と言われ、ソファで差し向かいになり、「大久保の取り調べをやってもらうから」と言われた。あまり事件を把握していなかったので、口にはしなかったが「大久保って誰ですか?」というのが率直な気持ちだった。吉田副部長からは「大久保の話をよく聞いてくれ」と言われ、「分かりました」と。

 指定弁護士:大久保さん以外の調べやブツ読みはやってない?

 前田元検事:やってません。

 指定弁護士:資料はいつ見た?

 前田元検事:副部長へのあいさつが終わった後、1班主任の木村キャップの909の部屋にぞろぞろ行ったんだが、私だけは副部長の指示を受けていたので遅れて木村検事の部屋に入った。簡単なペーパーで木村検事が概要を説明していたが、その他大勢の検事向きの説明だった。他の検事が出て行った後、私と、池田さんの取り調べを担当する花崎検事が残され、別に「特命」ということで指示を受けた。

 指定弁護士:応援に来る前に情報が与えられないのは一般的なこと?

 前田元検事:事案によるが、マスコミが注目していた事件だった。大阪特捜の前田というと「割り屋」と言われていて、マスコミに尾行とかされていた。応援に入るとなると、特捜部は何か考えているのではと臆測される。事前に私が何を担当するというのが分かると臆測を呼ぶので、情報はかなりコントロールされていた。

 指定弁護士:その時になって資料を?

 前田元検事:若手検事とは別のペーパーを私と花崎検事は渡された。業者からの金のやり取りに関する資料だった。木村検事は「この件は特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢を挙げられなかったら特捜部の負けだ。恥ずかしい話だが東京には割り屋がいないので大阪を頼ることになった」と言った。そして「資料は別の部屋に置いてあるから見ておいてくれ」と言われて行ったら、段ボール箱が1箱あった。

 指定弁護士:段ボール1箱とは少ない。全てではない?

 前田元検事:全ても何も、その資料はお恥ずかしい話、ほとんど見ていない。一番上にあった西松事件からの大久保さんの調書は見ているが、他は見ずに、東京にいる同期の検事とか、私も人事交流で2年東京特捜に行っていたが、私の次の次に交流で行っている検事もいた。そういう検事の部屋を回って、生の情報収集をした。御用聞きじゃないが。調書としてまとまっているもの以外の現場の空気感が分かるように聞いて回った。

 指定弁護士:それで、どういうことが分かった?

 前田元検事:木村検事からの説明にもあったが、3点分かった。1点目は、西松事件の公判が大久保さんは先行している。今でこそ収支報告書の作成への関与を全面否定しているが、西松事件公判では収支報告書作成への関与は争っていない。他方で、西松建設からの企業献金という認識はなかったという争い方をしていると。2点目は、当時一番問題とされていたのは4億円はどこからきた金なのかということ。調べや御用聞きをした中で、田代検事や吉田副部長から聞いた限り、佐久間部長の頭の中では、5千万円は水谷建設、1億円は○○建設、1億円は○○建設と、胆沢ダム工事の二つの工事を受注したスーパーゼネコンはいくら、下請けの水谷はいくら、別のところはいくらという筋を描いている、と。現場はそれを追いかけているが、現場は業者の調べをずっとやってる。1月20日に応援を取ってやるのも、企業からの裏献金をもっと出させること。私が御用聞きした検事はよると、現場はだいぶ疲弊している、と。上は「話を出せ」というが、業者は取り調べ慣れしていて話は全然でない、難しいな、と。

 指定弁護士:その点、大久保さんについてはどう言っていた?

 前田元検事:私の前の宮本検事の段階で、水谷建設からの裏献金は認めているが、5千万円じゃなくて500万、2千万円ではなくて200万円とか。受け取ったことは認めているがゼロが一つ少ないと。あと、日本発破技研の山本さんからも裏で金をもらっているとは認めている。これも100万とかもらったけど、金額が違っている、と。

 指定弁護士:3点目は何?

 前田元検事:そもそも西松事件が先行していて、争っていないのは1点目ともつながるんだが、本件の陸山会事件では弁解録取、裁判官の勾留質問では全面否認なんてしていなくて、認否留保でほとんど割れそうな状況だと分かった。

 指定弁護士:そうすると、あなたとしては何を期待されていると?

 前田元検事:企業をいくらたたいても金を渡したという話は水谷建設と日本発破技研以外は出てこない。受け取った側からも、水谷以外からも受け取ったというのを引き出す。企業献金について割れということを期待されていた。

 指定弁護士:収支報告書への関与は重点にすえていなかったと?

 前田元検事:木村検事、副部長からも「収支報告書は目をつぶっていても有罪になる」と言われていた。そこは当然という前提。裏企業献金をもっと喋らせる、金額、業者名を出させるということだった。

 《10:30~10:45》

 指定弁護士:21日からの大久保さんの取り調べのスタンスは?

 前田元検事:「よく聞いてくれ」と吉田副部長から言われてたので、白紙から聞く。21日の午前に宮本検事から引き継ぎをして、午後から取り調べをした。

 指定弁護士:大久保さんはどんな供述を?

 前田元検事:初日は興奮していた。興奮して色々と30分くらい話をした。検事が代わって、私が受け取ってもいない水谷建設の5千万円を怒鳴ったり、机たたいたりして調書取るのではないか。そんな事実はないんだ、と言っていた。検察不信をぶつけてきた。

 指定弁護士:大久保さんが気にしていたのは政治献金?

 前田元検事:西松建設事件の公判で、企業献金を否認していたので、500万、200万を受け取ったのを認めていたというが、金額についてもそうだが、趣旨についても、「陸山会もしくは小沢一郎がもらったのではない。私がもらったんだ。もらったことは小沢さんにも言ってない」と言っていた。

 指定弁護士:収支報告書作成の関与については?

 前田元検事:不満をしゃべらせた。大久保は前田検事がどう対応するのかを見ていると思っていた。私は「こんなとこ来とうはなかった」と言った。これはNHKの大河ドラマの「天地人」で、直江兼続役の子役、これは「こども店長」で

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