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JR西前社長無罪判決 検察に衝撃 過失事件の捜査に影響か

 JR宝塚線脱線事故をめぐり、JR西日本前社長の山崎正夫被告(68)に無罪を言い渡した11日の神戸地裁判決。現場から遠い経営幹部に対する過失責任追及の難しさが浮き彫りになった。多くの命を預かる鉄道の安全対策はどうあるべきなのか。業界や行政の取り組みのあり方が改めて問われている。

 

 ■検察に衝撃 過失事件の捜査に影響か

 「非常に意外だ。神戸地検はけっして組織の責任を山崎前社長に押しつけたわけではない。前社長が安全対策部門トップとしての役割を果たしていれば106人の乗客の命は救えた」。判決後、上級庁の検察幹部は語気を強め、前社長に責任はないとした地裁の判断に異を唱えた。

 一方で「予想通り」と冷静に受け止める幹部も。内部では、兵庫県警から書類送検を受けた2008年9月以降、「カーブに自動列車停止装置(ATS)整備を義務づけた法令はなかった」「JR西には民事的責任があるが、幹部に刑事責任を問うのは難しい」との見方があったからだ。1991年の信楽高原鉄道事故や01年の京福電鉄事故でも、経営幹部が事故発生を具体的に予測できたと裏付けることはできず、起訴は見送られていた。

 しかし、送検を受けた地検は県警が見送ったJR西本社の捜索を実施。急カーブにATSを設けるとした社内基準の存在をつかむなどし、前社長の起訴に踏み切った。背景には、真相解明を求める106人の遺族の思いに加え、01年7月に11人が死亡し、地検が警察署幹部の不起訴を繰り返して世間の批判を浴びた兵庫県明石市の歩道橋事故へのトラウマがあった。

 捜査に携わった当時の幹部は「山崎前社長を不起訴にしたあげく、明石のような事態になることを避けたかった」と打ち明ける。

 これに対して11日の地裁判決は、過失責任を認める際に必要な「事故発生を具体的に予測できた」「事故を防ぐ義務を怠った」という要件を過去の法令解釈に当てはめて厳格に検討。JR西の安全対策の取り組みのあり方に苦言を呈しつつも、前社長には現場カーブが危険との情報は上がっておらず、危険性を認識していなかったと結論づけた。

 結果がいかに重大だったとしても、検察側が主張した「いつかは起こりえる」という危惧感程度では、個人の刑事責任は問えないという裁判所の立場を明確に示したといえる。

 交通機関や食品、医療など高度な安全対策が求められる企業が事故を起こした場合の捜査や裁判に影響を与えるのか。ある法務・検察幹部は「今回の判決は、これまでの過失事件の判断基準から外れたものではない。そもそも過失の判断は難しい」と否定的だ。あるベテラン裁判官は「大企業のような組織はいろいろな人間が関与し、誰の責任を問うか難しい。裁判官によって判断は変わりうるのではないか」と話す。

 これに対し、過失事件に詳しい東海大の池田良彦教授(刑法)は

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