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福島第一原発事故は米国のテロ対策「B5b」で防げたか?

奥山 俊宏

 テロリストによる破壊工作を想定して米国の原発に備えられた準備の数々は具体的で実践的だ。それと同様の準備がもし日本の原発にあれば、福島第一原発の事故の拡大は防ぐことができた可能性が高い。

 

全電源喪失時に手動で炉心を冷却したり排気したりする方法を説明した指導文書。「保安関連情報」に指定され、公開を差し控えられていたが、福島第一原発事故の後の昨年6月にNRCのウェブサイトで公開された

 たとえば、次のような場合に備えた準備が米国の原発では義務づけられている。

 交流(AC)電源も直流(DC)電源もない状態で、原子炉を冷却したり、「ベント」弁を開けて格納容器内の圧力を下げたりする――。

 福島第一原発では2011年3月中旬、これに手間取ったがために事故に至った。事前の準備がまったくなかったからだ。

 全交流電源喪失については、福島第一原発でも、事前に想定され、その際の手順が定められていた。しかし、交流電源に加えてバッテリーの直流電源までもが使用不能になる事態は想定されていなかった。

 実際には、福島第一原発の1号機と2号機では3月11日午後、津波によって、非常用発電機など交流電源だけでなく、バッテリーの直流電源も水没。バルブの開閉を示すランプも消えてしまった。炉心を冷やすための非常用復水器や原子炉隔離時冷却系が動いているかどうかも分からなくなり、その制御もできなかった。

 一方、テロ対策のために米国で2006年12月にまとめられた指導文書では、交流電源の喪失に加えて直流電源の喪失も想定され、たとえば、次のような項目が義務づけられていた。

 「電源に依存せずに、手動で非常用復水器や隔離時冷却系を起動・運転し、炉心を冷却する手法の用意」

 「通常の動力源なしに現場にて手動でベント弁を開ける手法の用意」

 各原発によって手法が異なり得ることを前提に、具体的な方法も示唆されている。たとえば、圧縮空気のボトルや可搬式のバッテリーなど「持ち運びできる動力源」の準備が促され、圧縮空気については、破壊工作の対象となる可能性がある場所から少なくとも100ヤード(91メートル)は離れた場所に用意しておくべきということまで指示されている。そして、これらの手法について、事前に文書化し、運転員を訓練しておくことが義務づけられた。

 ■福島第一原発事故と米国の原発テロ対策「B5b」の想定内容の対比

想定内容福島第一原発事故ではB5bでは
電源喪失 全交流電源の喪失は想定していたが、バッテリーの直流電源も同時に失うことまでは想定外。
実際には1、2号機で交流・直流の両電源が水没
交流電源と直流電源両方を同時に喪失する事態を想定。
中央制御室を含むコントロール建屋の全滅も想定。
原子炉内部の減圧 消防車のポンプを使って炉内に水を注入するために圧力容器内部を減圧する必要があったが、逃し安全弁を開けるのに手間取る 持ち運び可能な直流電源で「逃し安全弁」を現場で開け閉めする方法の準備を義務づけている。
バッテリーを運ぶ台車や、交流電源を直流に変換する整流器の準備も促す。
原子炉の冷却 1号機の非常用復水器(IC)、2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)の作動状況を見誤り、対応を誤った疑いがある 直流電源や交流電源がない状態でも、ICやRCICを手動で起動・運転する方法の文書化を義務づけている
格納容器ベント(排気) 格納容器内部のガスを外に放出して減圧する必要があったが、動力などの確保が遅れ、ベント弁を開けるのに手間取る ベント弁を手動で開けるための準備を義務づけ。
空気駆動の弁を開けるのに必要な物資は被災を避けるため少なくとも100ヤード(91メートル)離れた場所に保管するよう明記


 これらの準

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