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原発全電源喪失:米国では備えがあるのに、日本では「想定外」

奥山 俊宏

 テロ攻撃による原発での全電源喪失に備えて、米国の原発に配備されている様々な機器や装備が国内の原発にもあれば、東京電力福島第一原発事故の拡大を防げた可能性が高いと、関係者や専門家が口をそろえる。そんな重要な情報を、米原子力規制委員会(NRC)から経済産業省原子力安全・保安院は伝えられていながら、生かすことができなかった。

  ▽筆者:砂押博雄、奥山俊宏、上地兼太郎

  ▽この記事は2012年1月27日の朝日新聞に掲載された原稿に加筆したものです。

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米政府の原子力規制委員会本部=2008年5月15日、米メリーランド州ロックビルで

 2008年5月、米国のワシントンDC郊外のNRC本部。扉の厚い、防音対策が施されている部屋で、保安院の主席統括安全審査官を筆頭とする保安院職員と、独立行政法人・原子力安全基盤機構のスタッフ計6人が、NRC幹部らと向き合っていた。会議の議題はB5bだった。

 冒頭、NRC側は、連邦法の秘密保持に関する解説書を保安院側に手渡した。資料と言えるものはこの解説書だけ。会議でのやりとりをメモすることも許されず、口外することも禁じられた。

 保安院職員らは宿舎のホテルに戻ると一室に集まり、全員で会議の記憶を呼び起こし、メモにまとめるなどしたという。同様の会議は06年春にも行われた。

 NRCからもたらされた、B5bに関する詳細な情報は、保安院幹部ら数人しか閲覧できないよう制限されたまま、その後も関係機関や電力会社に伝わることはなかった。

  内閣府原子力委員会の幹部は、福島第一原発の事故後に来日したNRCの元委員長から、非公開のB5bの情報を原子力安全・保安院に伝えていたことを聞かされた。「情報は保安院が抱え込み、内部でも共有されていなかった。がくぜんとした」。同委員会の別の幹部は「国内の原発でもこの安全対策を備えていれば、事故の拡大を防げていた可能性は高い」と話す。

 東電幹部も「(B5bが義務づける機器や装備などを)保安院から示されていれば、時間はかかったかもしれないが、対応する余地はあった。。たとえば、空気駆動バルブでも、ちょっと型式を変えれば、手で開けられるバルブもあると思うが、そういう選

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