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急増する精神障害の労災認定「手続き法に不備」

基準明確化図るも情報開示や審査制度に根強い不満

出河 雅彦

過労や上司によるパワハラで精神障害になったとして労災認定を申請する人が増え続け、2010年度は1181件と10年前の5倍以上になった。しかし、認定率は3割に満たず、過重な仕事が原因の脳血管・心臓疾患と比べると10ポイント以上低い。都道府県ごとの認定率も、2割に満たないところから5割を超えるところまであって、ばらつきが大きい。申請件数の急増に対応するため、厚生労働省は昨年12月26日付で認定基準を改めたが、認定基準以外にも、労働基準監督署による調査や情報開示、労基署が労災と認めなかった場合の審査制度への不満は強い。認定基準を運用するための手続き法が未整備で、多くが労基署や労働局の担当者の裁量に委ねられていることが背景にある、と専門家は指摘している。  

 ■都道府県ごとの認定率に大きな差

 厚生労働省は「脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況」を毎年公表している。この発表で、「申請」「決定」「支給決定」の各件数が都道府県ごとに明らかにされるようになったのは2009年度からだ。筆者は公表済みの2009、2010年度のデータを集計して、精神障害と脳血管・心臓疾患の労災認定にどの程度の差があるか、都道府県ごとの認定率がどのくらい異なるか調べた。

 この2年間における精神障害の労災申請件数は計2317件で、同じ期間中に労基署が決定を下した件数は計1913件だった。審査には平均8.6カ月かかるので、決定件数の中には2008年度以前に申請されたものが含まれるし、2009~2010年度の申請分のうち2010年度末中に決定まで至らなかったものもある。この2年間で労災支給が認められたのは542件(うち自殺128件)で、決定件数1913件に対する割合(認定率)は28%だった。

 一方、この2年間における脳血管・心臓疾患の労災申請件数は1569件。同じ期間内の決定件数は1405件で、このうち労災支給が認められたのは578件だった。認定率は41%で、精神障害に比べ13ポイント高い。

 精神障害の都道府県ごとの認定率にはどの程度の差があるのか。

 2年間の決定件数が「10件未満」と少ない9県(青森、栃木、富山、石川、鳥取、島根、山口、香川、高知)を除いた38都道府県の認定率は以下の通りで、かなりのばらつきがあることがわかった。最高は宮城県の54%、最低は愛知県の14%だった。

50%台  宮城、新潟、群馬、長野、熊本


40%台  北海道、秋田、茨城、千葉、静岡、奈良


30%台  岩手、山形、福島、福井、岐阜、兵庫、岡山、徳島、福岡、佐賀、大分、宮崎、沖縄


20%台  埼玉、東京、神奈川、山梨、滋賀、京都、和歌山、愛媛、長崎、鹿児島


10%台  愛知、三重、大阪、広島

 都道府県による認定率の差が何に起因す

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筆者

出河 雅彦

出河 雅彦(いでがわ・まさひこ) 

 1960年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。産経新聞社を経て、1992年、朝日新聞社入社。社会部、科学医療部などで医療、介護問題を担当。2002~2013年、編集委員。2013~2016年、青森総局長。医療事故や薬害エイズ事件のほか、有料老人ホームや臨床試験について取材。2021年4月からフリーランス。
 著書に『ルポ 医療事故』(朝日新聞出版、「科学ジャーナリスト賞2009」受賞)、『混合診療』(医薬経済社)、『ルポ 医療犯罪』(朝日新聞出版)、ルポライター鎌田慧氏の聞き書き『声なき人々の戦後史』(藤原書店、第16回「パピルス賞」受賞)。橳島次郎氏との共著に『移植医療』(岩波書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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