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日航、林原、エルピーダ、Spansion 最近の会社更生の特徴的手法

柴原 多

 日本航空、林原、エルピーダメモリなど最近、経営不振に陥った企業が会社更生法を利用して再建を図るケースが目立つ。しかも、申し立てや更生手続きで実態に即した柔軟な手法が積極的に取り入れられているという。柴原多弁護士が最近の4件の会社更生法事件を題材に、最近の事件処理の傾向と特徴を探る。

 

近時の会社更生事件の特徴

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原  多

 ■ はじめに

柴原多弁護士柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

 新会社更生法が施行された2003年以降、東京地裁に申し立てられる会社更生事件の件数は減少傾向にあったが、2010年に日本航空、2011年に林原、2012年にエルピーダメモリと、特徴のある手法を用いた会社更生事件の申立てが東京地裁になされるに至っている。また、2009年に申立てがなされたSpansion Japanについても、手続の進行に特徴的な手法が用いられている。本稿では、それらの手法のいくつかについて、更生計画及び公開情報などに基づき解説を行っていくこととする。

 ■ 日本航空

 日本航空は、その子会社・関連会社と共に、主として航空運送事業及びこれに関連する事業を営む一大企業グループを形成している会社であり、その更生事件の特徴は多いが、ここでは次の3点を紹介することとする。

 1点目としては、商取引債権保護を広範に行っているという点が挙げられる。ただし、日本航空の商取引債権保護は、(1)商取引債権保護の法的根拠のほか、(2)事業再生ADRとの連続性(後述する林原も同様の関係にある)、(3)商取引債権保護を必要とする実質的理由、(4)企業再生支援機構によるバックアップなどの特有の事情があったことに留意する必要がある。

 まず、商取引債権といえども、更生債権である以上は、法的根拠がなければ支払うことができないのが会社更生法の大原則である。商取引債権を支払う根拠としては、会社更生法47条5項後段に基づき、金融債務の金額に比して(相対的に)少額であることなどを理由とする裁判所の弁済許可が用いられている。

 もっとも、このような商取引債権保護が認められた実質的理由としては、次のような事情が指摘できよう。

 まず、日本航空については、会社更生手続に先立ち、私的整理である事業再生ADRが行われ、事業再生ADRにおいては商取引債権を保護することが原則となっているため、そのことを信頼して取引を継続した商取引債権者の信頼は、法的整理に移行した場合でも保護される必要性が高かったといえる。

 また、商取引債権者の中には航空運行に必要となる債権者や海外債権者が多数存在するため、これらの債権者に対する支払いを禁止したときのトラブルを回避し、当該トラブルによる事業価値毀損を防止し、航空運行の安全を確保する必要性が存在していた。

 さらに、商取引債権の支払いに関する上申書をスポンサー的立場にある企業再生支援機構が提出していたという事情もあるようである。

 なお、商取引債権の保護においては「従前の条件で取引を維持すること」という前提が付されることが多い。これは、会社更生手続申立てという、明らかに信用状況が変化した後も、従前の条件に基づき取引を継続すること(支払サイトの維持)こそが企業価値の維持につながるものであり、そのことが弁済の対象とならない非取引債権との大きな違いとして挙げられるからである。もっとも、かかる前提をどこまで重要視するかについては議論があろう。

 2点目は、企業再生支援機構という法人自体が(更生)管財人に就任しているということである。会社更生法は、その67条2項で法人が管財人に就任していることを許容している。これは管財人には広く法律的・会計的知識が必要であることに加え、優れた経営的手腕が要求されるため、これらについての専門家を擁する法人組織を利用する必要性があるからであるとされる(兼子ほか『条解会社更生法(中)』(弘文堂、平成13年)240頁参照)。本件では、まさにこのような趣旨に適合する法人である企業再生支援機構自体が管財人に選任され、ビジネス・法務・会計の各分野の専門家が日本航空に派遣されたとのことである。

 なお本件では、企業再生支援機構が日本航空のスポンサー(安全な航空網の確保要請、負債規模及び当時の経済情勢などから当該機構がスポンサーに就任したものと思われる)としての立場にもあったことから、管財人の業務の適正性を補完する目的で、自然人たる管財人も合わせて選任されているとのことである。

 3点目は、日本航空外2社が更生会社として申立てを行っていたが、これらのグループ群の保証関係が入り組んでいたため、更生計画案においては、いわゆる(合併を前提とした)パーレート方式が採用されている、ということである。パーレート方式は、古くから存在する弁済方式であるが、要は個々の更生会社毎に弁済率を設定するのではなく、更生会社間の弁済率を揃えると共に、保証債務についての二重カウントを認めない方式である。その根拠としては、従前の企業としての実質的一体性や、各債権者は与信の際に債務者のみならず関連会社も含めた結合企業全体の資力・信用を期待していたことが理由として挙げられることが多い(判例タイムズ866号312頁参照)。

 なお、日本航空の更生事件についてはその他多くの特徴が存在するところであり、これらの点については、片山英二=河本茂行弁護士「日本航空の事業再生プロセスについて」事業再生と債権管理133号152頁を参照されたい。

 ■ 林原

 林原は岡山県のバイオベンチャー企業グループを形成している会社であり、その更生事件としての特徴は数多いが、ここでも次の3点を紹介することとする。

 1点目は、林原では、不適切な会計処理が行われてきたことから、これに関与していた役員に対する責任追及が問題となり、その前提として、外部調査委員会が設けられ、当該調査委員会が事実関係及び役員の責任を調査しているという点が挙げられる。近時の企業の不祥事案件においては、公正性の確保・専門性から外部調査委員会方式が用いられることが多いが、当該方式が更生事件にも用いられていることが特徴として挙げられる。

 2点目は、登記留保などを行っていた金融機関の会社更生手続の申立直前における対抗要件具備行為などに対して、否認権の行使等が行われているという点が挙げられる。この事件においては、対抗要件の否認は対抗要件否認の規定である会社更生法88条1項によってのみ否認できるのか、それとも詐害行為否認の規定である会社更生法86条1項によっても否認できるのかという、古くからある論点が問題となっている。この点の詳細については金融法務事情1940号148頁(東京地裁平成23年11月24日決定)を参照されたい。

 3点目は、更生計画案においては、(合併を前提とした)混合パーレート方式とでも呼べる弁済方式が採用されている、ということである。すなわち、林原の更生計画案では、(1)保証債権も含めた全更生債権に対して、財産評定に基づき算定された弁済率の弁済を行うことに加えて、(2)(スポンサー評価の)のれん部分については(一定の定額弁済額控除後)保証債務などの二重カウントを認めない方式によりプロラタ弁済が実施されているということである。パーレート方式には、個々の会社の財務内容に応じた弁済を行わないことに対する批判があるため、その点を(1)の方式により回避しつつ、実質的平等性の確保を(2)により図ったものと解される。

 なお、同更生計画案は、極めて高い弁済率を背景に上記のような複雑な権利調整を経て、全更生債権者から同意を得て認可に至っている。

 ■ エルピーダメモリ

 エルピーダメモリは、その子会社・関連会社と共に、DRAMの開発、製造及び販売を営む企業グループを形成している会社であり、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づき提出した事業再構築計画の認定を経済産業省から受け、日本政策投資銀行から出資などを受けていた。同社は、先日更生手続開始決定に至ったばかりであるが、いわゆるDIP型会社更生の事件である。会社更生法は、その67条3項で「裁判所は、第100条第1項に規定する役員等責任査定決定を受けるおそれがあると認められる者は、管財人に選任することができない」と規定していることから、経営責任を追及されるおそれのない旧経営陣が管財人に就任することも可能であることをそもそも前提としている。

 もっとも、東京地裁は、これに加えて、(1)現経営陣に不正行為等の違法な経営責任の問題がないこと、(2)(メイン銀行等の)主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していないこと、(3)スポンサーとなるべき者が存在する場合にはその了解があること、(4)現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情がないこと、の4点をDIP型会社更生の要件として挙げられており、エルピーダメモリの場合には、代表取締役及び申立代理人の双方が管財人に選任されてる。

 なお、同社は、現在、スポンサー選定を進めているとのことであり、今後のスポンサー選定の動向・更生計画案の内容が注目される。

 ■ Spansion Japan

 Spansion Japanは、フラッシュメモリの開発、製造及び販売を行う会社であり、その更生事件としての特徴は数多いが、ここでも次の2点を紹介することとする。

 1点目は、同社は、米国法人であるSpansion LLCに対して米国カリフォルニア州法が準拠法となる売掛金債権を有していたことなどから、更生手続の効力を米国内に及ぼす必要があり、米国連邦倒産法15章(いわゆるチャプター15)に基づく外国倒産処理手続の承認申請を行っている点が挙げられる(なお、同手続は日本航空等でも用いられている)。

 現行の会社更生法は、更生手続開始決定の効力を外国にも及ぼす普及主義を採用している(会社更生法72条1項参照)が、当該条項に基づく会社更生法の効力を外国が承認するかどうかは、基本的に当該国の政策判断である。この点、米国は、チャプター15によって外国の倒産処理手続を承認する制度を設けているため、同手続の承認によって初めて日本における会社更生手続の効力が米国にも承認されることとなる。なお、日本においても同様の制度として「外国倒産処理手続の承認援助に関する法律」が既に制定されている。

 2点目は、Spansion Japanの更生手続(なお、同社もエルピーダメモリなどと同様にDIP型更生事件である)においては、シンジケートローン債権者10社からなる更生担保権者委員会(会社更生法117条6項)が組成され、管財人は同委員会との間で、更生担保権の弁済方法などに関する協議を行った点が挙げられる。

 もっとも、同事件では、シンジケート団の更生担保権額が、更生担保権の組の圧倒的多数を占めていた為に、その意向が強く働いたものと推察される。

 なお、Spansion Japanの更生事件のその他の点については坂井秀行=粟田口太郎弁護士「史上初の更生担保権者委員会とその意義」金融法務事情1918号24頁を参照されたい。

 ■ 小括

 以上述べてきたように、近時の会社更生事件においては、DIP型会社更生、商取引債権保護、法人管財人、パーレート方式、チャプター15、更生担保権者委員会など、従来になかった様々な特徴的な手法が用いられている。

 各更生事件の実態に即した柔軟

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