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会社経営陣による自社買収(MBO)資料の提出で画期的な命令

MBOが適正になされたか否かを検証するための資料開示に関する画期的な決定
 シャルレMBO株主代表訴訟における文書提出命令申立事件決定

拡大白井 啓太郎(しらい・けいたろう)
 弁護士、大水綜合法律事務所所属。2005年大阪弁護士会に登録(司法修習58期)。関西学院大学法学部卒。現在、株主の権利弁護団に所属し、シャルレMBO株主代表訴訟、オリンパス株主代表訴訟などを担当している。

 1 MBOの問題点 利益相反構造と情報格差

 MBO(マネジメント・バイアウト)とは、端的にいえば会社経営陣による自社の買収である。MBOにおいては、取締役が自社の株式を購入するという取引ゆえに、株式が高く売れるよう買手側に働きかけるべき取締役の責務(株主の利益を代表する売手としての立場)と、株式をなるべく安く買いたい買手としての立場が混在し、必然的に利益相反構造が生じる。

 また、取締役は会社に関する正確かつ豊富な情報を有していることから、MBOの場合、株式の買手である取締役と売主側である株主との間には、一般に、大きな情報格差が存在する。

 このような問題点に起因して株主が抱くMBOに対する疑念を可能な限り払拭し、公正・健全なMBOを実現するためには、手続過程の透明性、合理性を確保することが不可欠である。そして、手続過程の透明性の確保のためには、MBOが適正になされたか否かを検証しうる制度を整えることが重要である。

 しかし、MBOの実施にあたり、金融商品取引法等の法令によって開示義務が定められている資料を除くと、実際に取締役ら経営陣がどのようなやり取りを行い、どのように株式の買取価格等が決定されたのかを示す内部資料等、MBOが適正になされたか否かを検証するために必要な資料が会社から任意に開示されることはなく、MOBの手続過程の透明性を確保しうる制度が整っているとは到底言い難いのが現状である。

 このような状況において、不公正なMBOを行った疑いのある取締役らに対する損害賠償請求訴訟等の裁判手続の中で文書提出命令申立を行い、MBOの手続過程に関わる会社内部の資料を裁判所の決定によって強制的に提出させることは、当該MBOの適正性を検証する上で、もっとも実効的な方法といえる。

 ただし、一般的に会社の内部文書について、提出義務が認められるためのハードルは非常に高い。

 今般、株式会社シャルレのMBOに関与した取締役らの責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条3項)において、原告(株主)が行った文書提出命令申立に対して裁判所が下した決定は、上記のようなMBOの手続過程に関わる会社内部の資料をほぼ全面的に提出するよう命じており、今後のMBO手続にも多大な影響を及ぼすことが予想される極めて画期的な内容である。

 2 問題点が顕在化したシャルレのMBO

 シャルレの計画したMBOは、買収者側であった当時の代表取締役ら創業家の利益相反行為が疑われ、最終的には、頓挫するに至った。

 MBOの手続過程で内部通報が相当数なされたこと等を契機に設置されたシャルレ第三者委員会においては、買収者であった創業家側取締役の利益相反行為が事実上認定され(平成20年10月31日付「調査報告書」)、シャルレも、社内調査の結果として、MBOの手続過程において買収側の代表取締役による重大な利益相反行為が介在していた事実を認めている。

 シャルレのMBOは、通常明るみに出ない具体的な利益相反行為が表面化したケースであり、現在、異常なMBOを推し進めた経営陣らの責任を追及する株主代表訴訟が係属中である。前述のとおり、この株主代表訴訟において、本年5月8日、今後のMBO手続に関する実務に多大な影響を与えうる画期的な決定が下された(神戸地方裁判所平成22年(モ)第230号、231号文書提出命令申立事件決定・以下「本件決定」)。

 3 本件決定の意義

 (1)文書提出命令申立の概要

 現行の民事訴訟手続において、文書提出義務は一般義務とされており(民訴法220条4号)、提出義務が免除されるのは、民訴法220条4号イないしホに規定する場合に限定されている。

 したがって、株主代表訴訟において原告(株主)が会社の所持している文書の提出を求め

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