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租税回避監視を強化した新税制のメカニズムと問題点

太田 洋

 国税当局による海外取引をめぐる租税回避監視の目が一層厳しくなる。その武器として創設された「過大支払利子税制」は、現状の移転価格税制や過小資本税制では捕捉されない支払利子の損金算入による節税策を厳しくチェックするものだ。本稿では、平成24年度税制改正で創設された過大支払利子税制の概要を太田洋弁護士が紹介し、新税制のメカニズムと問題点を解説する。なお、以下において、「措置法」及び「措置法施行令」は、それぞれ、平成25年4月1日施行予定の租税特別措置法及び同法施行令を指す。

平成24年度税制改正による過大支払利子税制の創設とその影響

 

西村あさひ法律事務所

弁護士・NY州弁護士 太 田  洋

 

太田洋弁護士太田 洋(おおた・よう)
 1991年、東京大学法学部卒業、1993年に弁護士登録(司法修習45期)。2000年、ハーバード・ロースクール修了(LL.M.)、2001年に米国NY州弁護士登録。2001年~2002年に法務省民事局付(参事官室商法改正担当)、2007年に経済産業省「新たな自社株式保有スキーム検討会」委員。現在、西村あさひ法律事務所パートナー、日本化薬(株)社外監査役、電気興業(株)社外取締役、金融庁金融税制研究会委員。金融庁コーポレート・ガバナンス連絡会議にも参加。

 ■ 制度導入の経緯

 平成24年度税制改正により創設された過大支払利子税制(措置法66条の5の2)は、多額の利子を関係者に支払い、支払者側で損金算入することで課税負担を減少させるような租税回避行為に対処することを目的として、支払利子による損金算入の範囲を制限する制度であり、平成25年4月1日から始まる事業年度から適用される。

 本制度の適用が想定されている典型例(以下「本設例」という)は、日本法人Xが軽課税国Aの法人Yに出資を行い、その出資された資金を用いてYがB国(A国より高税率)の法人Zに貸付けを行い、Zが最初の日本法人Xに更に貸付けを行うという循環的な取引である。このようなスキームを用いると、キャッシュ(元本)はX→Y→Z→Xと一回転しているだけ(なお、利子はX→Z→Yと流れる。Y→Xは配当として還流されることになるが、外国子会社配当益金不算入制度が適用され、当該配当額の95%は我が国で課税の対象とならない)にも拘らず、日本法人XはB国法人Zに利子を支払い、当該支払利子相当額を損金算入することで、我が国における課税負担を圧縮できることになる。この場合、B国法人Zが、A国法人Yに対して日本法人Xから受け取った利子と同額の利子を支払ったときには、Zについて課税負担が発生しないと考えられる一方で、当該利子を受け取ったA国法人Yでは、A国が軽課税国であるため、その受取利子に対する課税負担は小さい。しかも、仮に、B国がA国との間で租税条約により利子の源泉徴収義務を免除している場合には、B国法人ZがA国法人Yに対して支払った利子に対するB国における源泉徴収課税も問題にならない。

 もっとも本制度の創設以前から、支払利子の損金算入による租税回避防止のための制度として、過少資本税制(措置法66条の5)が設けられていたところである。しかしながら、当該制度においては、損金算入が制限される利子の範囲を判断する基準として、出資額と借入額との比率が用いられているため、関連者から十分な額の出資がなされている場合には、関連企業間の借入れを恣意的に設定することにより過大な支払利子を計上することによる租税回避を防止することができない。そこで、これに対処すべく、過大支払利子税制においては、損金算入が制限される利子の範囲を判断する基準として、所得額が採用されている。所得額が基準とされたのは、過大支払利子税制の目的が、資金需要のない者の、課税負担の減少のみを目的とした借入れによる、支払利子についての損金算入の否認にあるところ、当該事業年度の所得額と資金需要の有無との間には一定の関連性が認められると考えられたため(即ち、所得額は、資金需要のない借入れによる利子の支払いか否かを概括的に判断する指標として一定の有用性を持つと考えられたため)である。

 このような税制は、近時、他の先進諸国でも採用されるようになってきており、例えば、英国では、2009年7月21日に成立した財政法において、同一企業グループに属する英国法人などがグループ・ファイナンスによる利息を支払う場合において、その英国法人税の課税所得計算上、本来であれば損金に算入される支払利息額の単純合計額(P)のうち、当該同一企業グループが全世界ベースで第三者(英国法人等を除く)に対して支払う利息の合計額から全世界ベースで第三者(英国法人等を含む)から受け取る利息の合計額を控除した残額(Q)(但し、その値がゼロ以下であればゼロ)を超過する部分(即ち、P-Q)につき、税務上損金に算入しないことなどを基本とする新たな制度(「Worldwide Debt Cap rules」と呼ばれている)を導入している(2010年1月1日以降に開始される会計年度より適用されている)。

 なお、今春、日米租税条約の改正により、利子所得についての源泉徴収義務が免除されることとなったが、米国は、多くの国との間で利子に対する源泉徴収義務を免除する租税条約を締結していることから、本設例のような租税回避行為が行いやすくなると考えられる。過大支払利子税制の導入は、このような日米租税条約の改正に対応するものであるとも考えられる。

 ■ 制度の概要

 (1) 適用要件及び効果

 過大支払利子税制は、一定の要件を満たした「関連者等」(措置法66条の5の2第2項)への「関連者純支払利子等」の額が、「調整所得金額」の一定割合(50%)を超える場合に適用される。具体的には、関連者等に対する純支払利子等の額(支払利子-受取利子)のうち、調整所得金額(課税所得に純支払利子等の額や減価償却費等を加算するなど一定の調整を加えたもの)の50%を超える部分の金額が、過大支払利子として、当該事業年度における損金の額に算入されないこととされる。

 なお、措置法66条の5の2第2項各号及び措置法施行令によれば、ここでいう「関連者等」は、(1)持株関係(法人又は個人がある法人の発行済株式等の総数又は総額の100分の50以上の数又は金額の株式等を直接又は間接に保有する関係(措置法施行令39条の13の2第8項1号、同条10項1号)をいう)にある個人又は法人、(2)持株姉妹関係(2の法人が同一の者によってそれぞれその発行済株式等の総数又は総額の100分の50以上の数又は金額の株式等を直接又は間接に保有される場合における当該2の法人の関係(措置法施行令39条の13の2第8項2号)をいう)にある法人、(3)実質支配関係(法人又は個人とある法人の間に一定の関係が認められることにより、ある法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係(措置法施行令39条の13の2第8項3号、同条10項2号)をいう)にある個人又は法人、(4)これらの個人又は法人と一定の関係にある第三者(措置法施行令39条の13の2第13項)とされており、「関連者等」の範囲は、法文上、必ずしも非居住者や外国法人に限定されていない点には注意が必要である。

 また、「関連者純支払利子等の額」のうち、「調整所得金額」の50%を超えた部分について、税務上、損金算入が制限される(措置法66条の5の2第1項)。但し、本制度が適用される場合、過少資本税制が適用される場合とは異なり、7年間の期間制限はあるものの、「調整所得金額」の50%を超えた利子については、次年度以降に税務上損金算入することが可能とされている(措置法66条の5の3第1項)。

 (2) 適用除外

 ある事業年度における関連者への純支払利子等の額が1,000万円以下である場合や、ある事業年度における「関連者支払利子等の合計額」が「総支払利子等の額の合計額」の50%以下である場合には、上記の損金算入制限は適用されない(措置法66条の5の2第4項)。もっとも、この適用除外の適用を受けるためには、確定申告書に適用除外の適用がある旨を記載した書面とその計算書類を添付するなど、所定の手続要件を満たす必要がある点に注意が必要である。

 ■ 他の制度との関係

 (1) 過少資本税制(措置法66条の5)との関係

 前述のとおり、支払利子の損金算入による租税回避の防止を図る制度としては、他に過少資本税制がある。この2つの制度には、利子が「過大」であるか否かの判断基準として、資本金額と貸付金額を比較するか(過少資本税制)、それとも所得金額と利子の額を比較するか(過大支払利子税制)という差異がある。そのため、この両制度は、同時に適用される場合があり得る。そのことに鑑み、この2つの制度に関しては、これらが共に適用され得る場合における調整規定が設けられており、両制度の適用要件がいずれも充足される場合には、損金不算入とされる金額が多い方の制度が適用されることとされている(措置法66条の5第4項、同66条の5の2第7項)。具体的には、「過大支払利子税制の損金不算入額」>「過少資本税制の損金不算入額」のケースでは、過大支払利子税制が適用されることになるため、納税者は、損金不算入額の全額につき、翌期以降の7年間繰り越して損金に算入することが可能となる。他方、「過大支払利子税制の損金不算入額」<「過少資本税制の損金不算入額」のケースでは、過少資本税制が適用されるため、損金不算入額の全額が繰越しの対象とならないことになる。

 因みに、前述したとおり、過少資本税制が適用される場合には、過大支払利子税制が適用される場合とは異なり、損金算入が制限された部分については、次年度以降損金に算入することができない。このように両制度間で損金算入が制限される部分については取扱いに差異が存するが、この場合にどのような整理がなされるのかは必ずしも明らかではない。しかしながら、納税者保護の観点からすれば、過少資本税制が適用される場合でも、少なくとも過大支払利子税制が適用された場合に次年度以降の損金に算入できる金額については、次年度以降の損金算入を認めるのが適切であるように思われる。この点は、今後、実務上の取扱いが明確化される必要が存するであろう。

 (2) タックス・ヘイブン対策課税(措置法40条の4以下、同66条の6以下)との関係

 タックス・ヘイブン対策税制と過大支払利子税制とが共に適用される場合には、日本法人が外国子会社に支払った利子は、タックス・ヘイブン対策税制の適用により日本法人の課税所得と合算して我が国で課税される一方で、過大支払利子税制の適用により、当該支払われた利子の金額は、我が国において当該日本法人の損金に算入することが制限されるため、そのままでは、結果的に、当該支払利子の金額については我が国で二重課税が生じることになる。そのため、過大支払利子税制による損金不算入の対象金額から、タックス・ヘイブン対策税制による合算所得に相当する金額を控除する等の調整が行われるものとされている(措置法66条の5の2第8項、同66条の5の3第2項)。

 ■ 実務上の留意点

 今回導入されることになった過大支払利子税制は、前述のとおり、「関連者等」の範囲に、外国法人のみならず内国法人も含まれるとされているので、外国法人との間における関係だけを考えればよかった過少資本税制とは異なり、過大支払利子税制の下では、内国法人との間での金銭の貸付けについても注意が必要な場合がある。

 また、過大支払利子税制は、資金需要がない

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