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会社法制部会長・岩原東大教授「各界の強い反対ない改正目指した」

加藤 裕則

 法務省法制審議会の会社法制部会が会社法の改正を盛り込んだ要綱案をまとめたことを受けて、部会長を務める岩原紳作・東大教授が8月10日、朝日新聞記者のインタビューに答えた。

 

 ――会社法制部会は全会一致で要綱案をまとめました。委員の間で賛否が分かれた議題については、ほとんどが折衷案のように見えます。

岩原紳作・東大教授

 岩原部会長:採決することも前提にしたが、仮に採決で反対者がいたまま要綱案を決めた場合、どうなるか。スムーズな法改正の実現や、法律施行後の円滑な運用等も視野に入れた。各界の強い反対がない状態で法改正がはかれるように全会一致を目指した。

 ――最大の焦点となった社外取締役の義務づけで、「証券取引所において1人以上の社外取締役を確保するよう努める」という付帯決議をつけました。この意図は?

 岩原部会長:経済界もこれには賛成したわけだから、経済界も協力すると意思表示したと考えている。社外取締役制度の普及については、東証の上場規則によって前進すると期待を持っている。付帯決議にもある通り、これは部会において取りまとめた時点での状況を踏まえた結論であり、状況に応じて、将来的にも議論されていくことになると思われる。

 ――付帯決議で「努める」という言葉は必要だったのでしょうか。東証に単に義務づけを求めることはできなかったのでしょうか

 岩原部会長:それはまさに、その文言が入ったため、義務づけに反対する委員も付帯決議に賛成できたと理解している。制度の具体化に向けて、議論の場が移ったと考えてほしい。

 ――社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告に盛り込むことになりました。これは「社外取締役を置くべきだ」という意味でしょうか

 岩原部会長:いろんな読み方をする人がいる。投資家等から社外取締役を置くべきだという主張がありうることから、置くことが相当でない理由まで説明せよというものであり、附帯決議の努力義務と併せてみると、一種の「コンプライ・オア・エクスプレイン」(遵守せよ、そうでなければ説明せよ)ということになる。

 ――多重代表訴訟で、1%の基準は厳しいという意見があります。

 岩原部会長:当然、そういう人がいると思う。ただ、今まで認められなかった制度であることを考えてほしい。海外でも制度のある国もあれば、ない国もある。だが、外国の法制はあくまで参考。日本の現実を考えることで、必要かどうかを基本に考えた。日本では(多重代表訴訟の制度が)必要ということだ。持株会社が認められ、子会社に経営の中心となっている企業もある。ただ、制度の導入には、強い反対もあった。多重の場合は、株主と子会社との間にやや距離ができるため、要件を厳しくした。

 ――資産の5分の1要件があれば十分ではないか、との指摘もあります。

 岩原部会長:大学の教授の中にも、1%という制約は理論的にありうるという意見もあり、採用された。

 ――1%というのはどこから来たのでしょうか?

 岩原部会長:少数株主権の考え方を入れた。その中で最も小さいのが100分の1。これまでの法律と整合性をとる必要もあった。

 ――1%以上の保有で、訴えるとすれば機関投資家でしょうか?

 岩原部会長:そうですね。外資系のファンドが、戦略の一環として使ってくることが考えられる。経営者にとって、一つの抑制機能となることは間違いない。

 ――第三者割当増資でも、10分の1という反対が条件となった。この数値も落としどころになるのでしょうか?

 岩原部会長:数値については、いろんな意見がある。厳しいというものから、甘すぎるという意見も。部会の議論の中で委員から妥協案として出され、まとまった。ただ、これで経営者は、極端な増資はできなくなる。実際、今までひどい事例もあった。これによっていい方向に機能するのではないか。

 ――いわゆるインセンティブのねじれの問題では、監査法人の選任を監査役に渡しましたが、報酬は現状のまま。これも妥協の産物でしょうか?

 岩原部会長:これは理論的な問題の色彩が強い。報酬の決定というのは、業務執行になる。監査役というのは、業務執行にはかかわらない立場で監査できる。報酬の決定は広い意味での業務執行にかかわることで、そこまで行くと監査役の本来の性格に反するという筋論だ。

 ――ほかに注目すべき点はありますか

 岩原部会長:組織再編における株主による差止請求の規定も、今後、実務として使われる可能性がある。今は、一般的な請求権はないが、例外的な場合を認めている。それを解消して、一般的な形で認めることにした。画期的なことだ。

 ――今回の部会は、民主党政権下で始

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