2012年10月04日
弁護士 前川 拓郎
1 文書提出命令の意義
日本の訴訟は、証拠収集手段が極めて貧弱である。
文書の所持者が、任意に証拠を提出しない場合、実務家として最初に頭をよぎるのが文書提出命令の申立である。文書提出命令ぐらいしかない、と言っても言い過ぎではない。
本稿では、これまで多くの文書提出命令申立を行ってきた経験から、文書提出命令申立事件の実務を踏まえた上で、証拠調べの必要性判断についてインカメラ手続を導入すべきであるとの意見を述べるものである。
2 文書提出命令申立の訴訟法的位置付け
現行法上、文書提出命令の申立は、書証の申出の一方法として位置づけられている。民事訴訟法219条は次のように規定している。「書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。」。後半部分が文書提出命令の申立を意味する。
文書提出命令の上記訴訟法的位置付け(書証の申出の一方法)としての意味は重い。
なぜなら、文書提出命令の申立を行った場合、理論上、職業上の秘密や自己利用文書などの除外事由の判断に先行して、「証拠調べの必要性」の判断がなされることになるからである(民事訴訟法181条)。実際上は、除外事由の判断と平行して行われることがほとんどであるが、「証拠調べの必要性」の要件が、文書提出命令のハードルを上げ、非常に使いにくいものにしている。
3 実務上の「証拠調べの必要性」
ア 文書の提出による書証の申出(民事訴訟法219条前半)
自ら所持している書証の申出であれば、証拠調べの必要性がないとして証拠の申出が却下ないし棄却されることは、通常ない。私も、これまで、そのような経験はない。裁判所からみると、書証であれば、緩やかに証拠調べの必要性を認めたとしても、自由心証主義のもと証拠評価を誤らなければ弊害はないとの判断であろう。
イ 人証の申出
ところが、人証(証人尋問)となるとそうは行かない。要証事実との関連性がない場合、すでに裁判所が心証を形成しており証人に聞いてもその心証が変わることはない場合、同一争点につき、根源、出所が同一で、かつより有力と思われる他の証拠方法についてすでに取り調べが行われている場合(以上、基本法コンメンタール158ページ)などは、往々にして、証拠調べの必要性なしとして証拠調べの申出が却下ないし棄却される。これは、人証を採用して証拠調べを行うことは、主尋問、反対尋問、補充尋問で、少なくとも1時間、場合によっては半日、一日を要し、裁判所、相手方、証人にとって負担となるという理由によるものである。
ウ 文書提出命令の申立による書証の申出(民事訴訟法219条後段)
文書提出命令の申立による書証の申出について、実務は人証に近い。証拠調べの必要性なしとして往々にして却下される。文書の取り調べ自体には、人証のような弊害
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