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重病への未承認薬の使用に制度不備の壁

出河 雅彦

 健康保険に費用を請求できない「自由診療」と、健康保険が使える「保険診療」を組み合わせる「混合診療」。厚生労働省によって原則禁止とされてきたが、その政策の妥当性をめぐり、過去10年激しい議論が交わされてきた。禁止原則の適法性を問う訴訟も起こされ、自由診療と保険診療の併用を認める範囲は少しずつ広げられてきた。医療を受ける国民にとって、この変化は何を意味するのか。朝日新聞の専門記者がAJ連載「混合診療の将来」で追う。その第4回。(ここまでの文責はAJ編集部)

  ▽筆者:朝日新聞編集委員・出河雅彦

  ▽出河雅彦記者執筆の記事:   医療用ガス取り違え事故の背景に高圧ガス識別色の不統一

  ▽出河雅彦記者執筆の記事:   急増する精神障害の労災認定「手続き法に不備」

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出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)
 朝日新聞編集委員。1960年生まれ。92年朝日新聞社入社。社会部などで医療、介護問題を担当。2002年から編集委員。医療事故や薬害エイズ事件のほか、有料老人ホームや臨床試験について取材。「ルポ 医療事故」(朝日新聞出版)で「科学ジャーナリスト賞2009」受賞。

 はじめに

 日本はかねてより、臨床試験(治験)や薬事承認審査に時間がかかるなどして、海外に比べて新しい薬や医療機器の導入が遅れていると指摘されてきた。海外では有効性が認められ、医療現場で幅広く使われているのに、日本国内では薬事未承認のままであったり、承認は得ていても使える病気が限られていたりする医薬品が少なくなかった。薬に比べ短い期間で改良が重ねられていく医療機器においても、日本では何世代も前の製品を使っているという場合があった。海外に比べて導入が遅れる問題は、薬ではドラッグ・ラグ、医療機器ではデバイス・ラグと呼ばれる。未承認や適応外の薬、機器を使いたいと考える患者の中には、混合診療禁止原則の緩和を望む人もいる。未承認・適応外薬自体は自費であっても、併用薬や診察、検査などの費用に保険が適用されれば、全体が自由診療となるよりは負担が軽くなるからだ。患者の切実な声を前に、厚生労働省は混合診療解禁の弊害を説くだけでは済まなくなった。小泉政権時代の混合診療解禁をめぐる論争を経て、どのような改革が実施されたのか、なお残る課題は何か、を見ていくことにする。

 未承認薬使用問題検討会議の設置

 2004年12月15日、尾辻秀久厚生労働大臣と村上誠一郎規制改革担当大臣の合意内容が盛り込まれた「いわゆる混合診療問題に係る基本的合意」(以下、両大臣合意と言う)と題する文書が発表された。

 連載第3回で紹介したように、規制改革・民間開放推進会議が求めるような「混合診療の全面解禁」は厚生労働省の強い反対で実現しなかったものの、一定のルールの下で保険診療と保険外診療との併用を認める範囲を拡大するとともに、保険外診療を保険診療に組み入れるまでの手続きを明確化することにした。

 両大臣合意では、厚生労働省が「未承認薬使用問題検討会議」を設置し、

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