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金丸元自民党副総裁逮捕の前夜、特捜部長は部下の妻に伝言した

(9) 特捜部内には慎重論もあった金丸脱税捜査

村山 治

 戦後の自民党一党支配に幕を引き、今にいたる政界流動化のきっかけともなった金丸信・元自民党副総裁の5億円ヤミ献金事件。1992年に発覚したが、公判に付されず20万円の罰金で処理されたため、捜査資料が法廷で開示されず多くの謎が残されている。この連載「金丸事件:特捜部長と金庫番が語る20年目の真実」では、ヤミ献金事件とそれに続く脱税事件の捜査を東京地検特捜部長として指揮した五十嵐紀男弁護士、金丸氏の秘書で金庫番とも言える存在だった生原正久氏の証言で真相に迫る。国税当局から金丸の脱税情報の端緒を得た特捜部は、「死んだふり」をしながら、容疑固めに邁進する。内偵捜査はスムーズに進んだ。しかし捜査チームづくりは必ずしも順調とはいえなかった。連載第9回の本稿では、金丸逮捕前夜の特捜部の捜査の実態を明らかにする。

  ▽筆者:村山治

  ▽この記事は2012年9月に出版された単行本「小沢一郎vs.特捜検察20年戦争」(村山治著、朝日新聞出版)に収載された原稿の一部を取り出し、それに加筆したものです。

  ▽注:本文中の敬称は原則、略しています。

  ▽この連載 「金丸事件:特捜部長と金庫番が語る20年目の真実」の記事一覧

 

 ■特捜部長自ら極秘の内偵捜査

 国税当局から金丸信の蓄財情報を得た東京地検特捜部長の五十嵐紀男は、92年1月下旬、特捜部財政経済班の検事を使い、日本債券信用銀行から金丸の割引金融債取引についての基本的な資料を押収した。本来なら、特捜部で脱税摘発を専門とする財政経済班が捜査を主導し、資料の分析や法律的な問題点を整理して強制捜査の準備をするところだ。

 しかし、そうはならなかった。特捜部長の五十嵐は1カ月弱、たった一人で内偵

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