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非友好的TOBの攻防の鍵、株主名簿閲覧をめぐる最近の判例傾向を探る

松原 大祐

 非友好的公開買付け(TOB)において対象会社の株主からの応募を勧誘する目的などで、株主名簿の閲覧・謄写請求がなされ、対象会社がそれを拒否して争いになるケースが目立つ。最近でもゴルフ場業界の再編をめぐり、大手のPGMホールディングスがやはり大手のアコーディアに対するTOBを仕掛け、不成立に終わったばかりだ。PGM側のカウンセルとして本件に関与した松原大祐弁護士が、非友好的TOBの攻防を左右することもあり得る株主名簿の閲覧・謄写請求に関する最近の判例の傾向を読み解く。

 

株主名簿閲覧・謄写請求に関する近時の裁判例の動向

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 松原 大祐

 ■ はじめに

拡大松原 大祐(まつばら・だいすけ)
 2000年京都大学法学部卒業、2001年弁護士登録、2012年デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 M&A、会社関係訴訟をはじめコーポレート分野の案件を幅広く取り扱う。

 ゴルフ場運営業界の再編を企図したPGMホールディングスによるアコーディアに対する非友好的公開買付け(TOB)は、かつて村上ファンドを率いていた村上世彰氏と関係が深いとされるレノによるアコーディア株式の大量買集めもあり、結果として、不成立に終わったが、今度は、シンガポールのウットラム・グループが合弁事業のパートナーである日本ペイントに対して、同社の事前警告型買収防衛策に従った大規模な買増しを提案するなど、近時わが国では稀であった非友好的M&A案件が増加する兆しが窺える。

 会社と株主とが対立している局面においては、株主提案を行い、委任状争奪戦を実施する目的で、あるいは、非友好的TOBにおいて対象会社の株主からの応募を勧誘する目的で、株主名簿の閲覧・謄写請求がなされ、対象会社がそれを拒否できるか否かが争点となることが少なくない。

 本稿では、筆者らがPGMホールディングスのカウンセルとして関与した、アコーディアに対する株主名簿閲覧・謄写仮処分をはじめ、株主名簿の閲覧・謄写請求に関する近時の裁判例の動向について概説する。

 ■ 株主名簿の閲覧・謄写請求権

 株主及び債権者は、請求の理由を具体的に明らかにして、株主名簿の閲覧・謄写を請求することができる(会社法125条2項)。これに対して、会社は、次に掲げる請求拒絶事由に該当する場合を除き、これを拒むことができない(会社法125条3項)。

(1) 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき

(2) 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき

(3) 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき

(4) 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき

(5) 請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

 

 これらの請求拒絶事由のうち、株主名簿の閲覧・謄写請求に関する近時の裁判例においては、主として(1)及び(3)の解釈が争点となっている。

 なお、上場会社等の振替株式の株主として、会社に対して株主名簿の閲覧・謄写を請求する場合には、これに先立って個別株主通知を行う必要があり(社債株式振替法154条2項)、個別株主通知が会社に到達するのは、申請日から2~3営業日後となる。個別株主通知の到達前であっても、その受付票の添付をもって株主名簿の閲覧・謄写請求に応じるか否かは会社の判断に委ねられるが、会社と株主が対立している局面において、会社は、個別株主通知が到達するまでは請求を拒絶するものと思われるので、一刻を争うような場合にはこの点に注意が必要となろう。

 ■ 「請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」(請求拒絶事由(1))とは?

 フタバ産業事件抗告審決定(名古屋高決平成22年6月17日)は、金商法上の損害賠償請求権を行使するための調査は、「株主の権利の確保又は行使に関する調査」に該当しないと判示した。この決定は、その理由として、金商法上の損害賠償請求権を行使するためには現に株主である必要はないのに対し、株主名簿の閲覧・謄写請求権は、株主を保護するために、株主として有する権利を適切に行使するために認められたものであって、権利の行使には株主であることが当然の前提となっているとする。しかしながら、この決定に対しては、例えば、金商法に規定されるTOBへの応募を勧誘する目的等、株主たる地位から発生する権利以外の権利行使のための株主名簿の閲覧・謄写請求が全て拒絶されることになりかねないとの批判がなされていた。

 これに対して、アコーディア事件東京地裁決定(東京地決平成24年12月21日)は、TOBへの応募を勧誘する目的は、「株主の権利の確保又は行使に関する調査」に該当するとした。同決定は、その理由として、自己が保有する株式数を増加させ、株主総会における発言権を強化することは、株主の権利の確保又は行使の実効性を高めるための最も有力な方法といえることからすると、株主が他の株主から株式を譲り受けることは、株主の権利の確保又は行使と密接な関連を有するものといえ、株式譲受けの目的で現在の株主を確認することは「株主の権利の確保又は行使に関する調査」に該当し、この理は、TOBの場合も異ならないと述べる。この決定によれば、株主たる地位から発生する権利以外の権利行使のための株主名簿の閲覧・謄写請求が認められるか否かは、株主の権利の確保又は行使との関連性を踏まえて個別に判断されることになると思われるが、TOBへの応募を勧誘する目的が上記の請求拒絶事由(1)に当たらないことが明示的に確認されたことは、今後の実務において重要な意義を有するであろう。

 ■ 「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」(請求拒絶事由(3))とは?

 会社法は、株主名簿閲覧・謄写請求に関して、会計帳簿閲覧・謄写請求と同じ請求拒絶事由を定める。しかしながら、競業者に会計帳簿の閲覧・謄写を認めると会社が不利益を被る可能性が高いのに比べ、株主名簿の場合にはそのような蓋然性は低いことから、株主名簿閲覧・謄写請求の請求拒絶事由としての「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」の意義をどのように解釈すべきかが、かねてから争点となってきた。

(1)   主観的要件不要説
 テーオーシー事件東京地裁決定(東京地決平成19年6月15日)及び日本ハウズイング事件原審決定(東京地決平成20年5月15日)は、株主と会社との間に実質的な競争関係があれば、株主が株主名簿の閲覧・謄写によって得た情報を競業に利用する意図を有しているか否かに拘わらず、会社は請求を拒むことができるとした。


(2)   主観的意図推定説
 これに対して、日本ハウズイング事件抗告審決定(東京高決平成20年6月12日)は、前記の請求拒絶事由(3)は、株主と会社との間に実質的な競争関係がある場合には、株主がその権利の確保又は行使に関する調査の目的で請求を行ったことを証明しない限り、会社は請求を拒むことができる旨(証明責任の転換)を定めたものであるとした。


(3)   客観的要件限定説
 他方、大盛工業事件東京地裁決定(東京地決平成22年7月20日)は、主観的要件不要説を前提としつつ、前記の請求拒絶事由(3)に該当する場合とは、株主名簿に記載されている情報が競業者に知られることによって不利益を被るような性質、態様で営まれている事業について、株主が会社と競業関係にある場合に限られるとし、アコーディア事件東京地裁決定も同様に解している。


(4)   主観的要件必要説
 なお、裁判例ではないが、学説上、株主名簿の閲覧・謄写によって得られる情報が競業関係に利用されるおそれがあることを会社が立証した場合に限って、会社は請求を拒むことができると解する見解も主張されている。

 

 以上のとおり、近時の裁判例は、前記の請求拒絶事由(3)を限定的に解釈すべきであるとする方向性については一致しているが、立法論としては、この請求拒絶事由は削除されるべきものであるとの見解が有力に主張されており、2012年に取りまとめられた「会社法の見直しに関する要綱」では、競争関係の存在は、株主名簿の閲覧・謄写請求の請求拒絶事由から削除すべきものとされている。この要綱に基づいて、本年中には会社法等の一部改正法案が国会に提出される見込みである。

 ■ 保全の必要性

 実務上、株主名簿の閲覧・謄写請求については、緊急性を要することが多いため、仮処分の申立てがなされるのが通常である。この株主名簿の閲覧・謄写の仮処分は、株主名簿の閲覧・謄写請求権に係る権利関係が未だ確定しない段階で閲覧・謄写を命ずることを求める、いわゆる満足的仮処分(断行の仮処分)を求めるものであるため、株主名簿の閲覧・謄写請求権に係る権利関係が確定しないために生ずる株主の損害と仮処分により会社の被るおそれのある損害とを比較衡量して、会社の被る損害を考慮しても、なお株主の損害を避けるため緊急の必要がある場合に限って、保全の必要性があるものと解するのが相当とされている。

 この点について、例えば、株主提案への賛成を求める委任状勧誘を行うために株主名簿の閲覧・謄写請求が行われた事案である、前掲の日本ハウズイング事件抗告審決定は、(1)株主総会まで時間的に切迫していること、(2)株主が全ての株主情報について把握していた訳ではないこと、(3)会社は、株主提案に反対の意向であり、その旨を記載した招集通知を既に発送したこと、(4)株主が株主名簿を閲覧・謄写せずに他の株主に対して委任状勧誘を働きかけることができる方法は制約されたものにとどまること等を理由として、保全の必要性があるとした。

 他方、TOBへの応募を勧誘するために株主の連絡先を入手する目的で株主名簿の閲覧・謄写請求が行われた事案であるテーオーシー事件東京地裁決定は、(1)公開買付開始公告等の法定された手続やプレスリリースなどのほかに、本案訴訟の結果を待たずに株主名簿を閲覧・謄写した上で他の株主に対してレターの送付をしなければ、そのことが原因でTOBが不成立に終わってしまうなど差し迫った緊急の必要性があるということは困難であること、(2)会社が自ら都合のよい論理のみを記載したレターを他の株主に対して送付したとか、今後これが行われる具体的なおそれがあるとはいえないこと、(3)株主は、公開買付開始公告等の法定された手続を履践し、自らプレスリリースなども行っており、株主名簿の閲覧・謄写が認められないからといって、他の株主が双方の主張を聞いた上で意思決定する機会を不当に制限する結果になるとはいえないこと等を理由として、保全の必要性はないとした。

 これに対して、アコーディア事件東京地裁決定は、(1)公開買付者と会社の双方が、直接、他の株主に対して自らの提案内容等を説明したり、株主との間で対話・交渉を行う機会が公平に確保されていることは、株主が多様な情報を踏まえた上で公開買付けに応募するか否かを的確に判断することに資すること、(2)会社は、他の株主に対して、直接働きかけを行っており、又は、行う予定であること、(3)会社の株主が分散しており、株主に直接接触できるか否かが、TOBの成否に重大な影響を及ぼす可能性がある反面、公開買付者は限定された株主情報しか把握していないこと等を理由として、保全の必要性があるとしており、注目される。

 ■ 終わりに

 近時、株主名簿の

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筆者

松原 大祐

松原 大祐(まつばら・だいすけ) 

 2000年京都大学法学部卒業、2001年弁護士登録、2012年デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 国内外のM&A、組織再編、資本・業務提携、会社関係訴訟をはじめコーポレート分野の案件を幅広く取り扱う。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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