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自立的な働きかたの「労働者性」めぐり、最高裁はこの春の判決で

自立的な働きかた 労働者性をめぐって

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 沢崎 敦一

拡大沢崎 敦一(さわさき・のぶひと)
 1999年3月東京大学法学部卒業。司法修習(54期)を経て、2001年10月第二東京弁護士会に弁護士登録。同月、現事務所入所。2011年1月、現事務所パートナーに就任。国内外の企業に対し使用者側の立場から労働問題についてアドバイス。そのほか、年金に関連する法律、M&A、会社法、個人情報保護法、金融商品取引法その他金融機関関連の各種業法、訴訟などを担当。

 自立的な働き方

 書店めぐりが好きで、土日などによく近所の書店をぶらぶらとしている。ジャンルにこだわらずいろいろ眺める。最近は、会社に頼らない生き方を説いた本が店頭に並べられていたりして、手にとって目を通すことも多い。

 インディペンデント・コントラクターは労働者か

 ところで、会社に頼らない生き方、言い換えると自立的な働き方にはいろいろな方法がありうる。その一例として、従業員(=労働者)として働くのではなく、独立した自営業者(インディペンデント・コントラクター)として働くという方法がある。インディペンデント・コントラクターとして働くのであれば、労務供給者が受注する業務の内容を自らの判断で選ぶことができるし、就業場所や就業時間を自由に設定することができるといった点で労務供給者側にメリットがあると考えられる一方で、人件費の増大傾向への対応として企業側においてもこのような個人のインディペンデント・コントラクターを活用することにメリットがあるという。実際、インディペンデント・コントラクターの活用を推奨する書籍も販売されており、そのような書籍では、インディペンデント・コントラクターとして契約すればたとえば時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がなくなるといったその「効用」が謳われていたりする。

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 しかし、問題はそう単純ではない。労働法上の保護を受けられるかどうかは、労務供給者と企業との間で「業務委託契約書」という名前の契約書が締結されているのか、それとも、「雇用契約書」という名前の契約書が締結されているのかという形式的なことによって判断されるのではない。労務供給者と企業との間に、労務供給者を「労働者」として保護すべき実態があるかどうかによって労働法の適用が判断されるからである。

 労働基準法上の労働者

 労働基準法を例にとって考えてみよう。労働基準法では、時間外労働の原則禁止、時間外労働に対する割増賃金の支払い義務といった規制を設け、労働者の保護を図っている。これらに対する違反があった場合には、労働基準監督署等による是正勧告等の行政処分や、懲役・罰金等の刑事罰が科せられることもある。

 労働基準法はこのような同法上の保護の対象となる労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義している(労働基準法9条)。契約書の体裁にこだわらず、実質的に見て使用関係にあり、かつ、報酬に労務対償性があるかどうかにより、労働基準法の適用があるかどうかが決められるということである。

 では具体的にどのような事情を考慮して使用関係の有無や報酬の労務対償性の有無が判断されるのか。この点については、1985年12月の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」が分かりやすくまとめている。同報告書では、使用関係の有無については、(1)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、(2)業務遂行上の指揮監督の有無、(3)拘束性の有無などが考慮要素となるとしている。他社の業務に従事することが制約され、または事実上困難な場合には、専属性の程度が高く、労働者性を補強する要素のひとつとなるとも述べている。報酬については、時間給、日給、月給など時間を単位として計算される場合や報酬に固定給部分があるなど生活保障的要素が強いと認められる場合には、労働者性を補強する重要な要素となるとしている。また、業務遂行の過程で使用する機械や器具が無償で貸与されているような場合には、独立の事業者としての性質が薄れることになるとも指摘している。

 したがって、インディペンデント・コントラクターとして契約している場合であっても、そのことだけで労働基準法を遵守しなくても良いと結論を急いではいけない。実態を見た場合に、たとえば、労務供給者が企業の事業に不可欠な労働力を提供する者としてその事業組織に組み込まれている結果、仕事の依頼や業務従事の指示等に事実上従わざるをえない、業務の遂行について細かな指示が出されており、その指示に従わない場合には不利益に取扱われる、兼業が禁止されている、報酬は月給で支払われており、生活保障的な要素が強いといったような事情がある場合には、労働基準法との関係では「労働者」として取り扱われることになり、その結果、企業は残業代の支払といった労働基準法上の義務を履行しなければならないこととなる。

 労働組合法上の労働者

 実態を見て判断しなければならないということは、労働組合法上の労働者に該当するかどうかを判断する場合においても同じである。労働組合法は、労働者が使用者との交渉において対等な立場に立つことを促進するため、労働組合と使用者との間の団体交渉のルール等について定めた法律である。労働組合法上の「労働者」性が肯定された場合、使用者側には、そのような労働者が加盟する労働組合との間で団体交渉に応じる義務が発生し、不当にこれを拒絶した場合には不当労働行為(労働組合法7条2号)として労働委員会の救済命令の対象となる。

 最近、インディペンデント・コントラクターが労働組合法上の「労働者」に該当するかどうかに関し、最高裁判所が注目すべき判決を下した(INAXメンテナンス事件、最判平成23・4・12、裁判所時報1529号4頁、裁判所ウェブサイトへのリンクはhttp://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81243&hanreiKbn=02)。これは、会社との間で業務委託契約を締結して修理補修業務に従事していたカスタマーエンジニア(「CE」)が労働組合を結成して労働条件の改善等について会社に団体交渉を申し入れたところ、会社はCEは業務委託の受託者であり、労働組合法上の「労働者」には該当しないとして団体交渉を拒絶したという事案に関するものである。

 本件では、興味深いことに、一審裁判所は労働組合法上の「労働者」であるという判断を示したが、控訴審裁判所ではCEは労働組合法上の「労働者」ではないという判断を示しており、結論が分かれていた。これに対し、最高裁判所は、判決の中で、(1)労務供給者が供給相手の事業者の事業に不可欠の労働力を提供する者として、その事業組織に組み込まれているか、(2)労務供給の諸条件が供給相手の事業者によって一方的・定型的に決定されているか、(3)業務の依頼に対する諾否の自由の有無、(4)労務供給が、供給先の事業者の指揮命令を受け、時間的場所的に拘束されて行われるか、(5)労務供給の対価が額・支払形態において賃金・給料とどれほど類似しているかを検討したうえで、CEは労働組合法上の「労働者」に該当するとの判断を示した。

 上記判決は事例判断であり、直ちにインディペンデント・コントラクターは全て労働組合法上の「労働者」という結論が導かれるわけではない。しかし、最高裁判所が示した判断枠組みをもとに個別に検討していくと、労働組合法上の「労働者」ではないといいうるインディペンデント・コントラクターの範囲はだいぶ狭くなるのではないかと思われる。

 最後に

 自立的な働き方には、インディペンデント・コントラクターとして働く以外にもいろいろな方法がありえ、またそうあってよい。しかし、自立的な働き方と言っても、そうできる土壌があってはじめて実質的な意味を持ってくる。法的な保護はそのような土壌を整えるための不可欠な条件である。ただ、どこまで保護を与えるのかについてはいろいろ議論があり得よう。「労働者」性に関する議論はそれを考える上で興味深い材料を提供してくれている。

 沢崎 敦一(さわさき・のぶひと)
 1999年3月東京大学法学部卒業。司法修習(54期)を経て、2001年10月第二東京弁護士会に弁護士登録。同月、現事務所入所。2011年1月、現事務所パートナーに就任。
 国内外の企業に対し使用者側の立場から労働問題についてアドバイス。その他、年金に関連する法律、M&A、会社法、個人情報保護法、金融商品取引法その他金融機関関連の各種業法、訴訟等幅広い業務を担当。
 主要な著作として、「最新M&A判例と実務」(判例タイムズ社、2009年7月、共著)、「法律家が企業年金制度を取り扱う際の基本的視座(上)」(NBL No. 945、2011年1月15日号)、「法律家が企業年金制度を取り扱う際の基本的視座(下)」(NBL No. 947、2011年2月15日号)、「確定給付企業年金の財政をめぐる問題」(NBL No. 949、2011年3月15日号)(共著)、「事業主倒産時の確定給付企業年金の取扱い」(NBL No. 951、2011年4月15日号、共著)などがある。

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