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草野球に見えた弁護士業務の極意、ユニフォームから準備まで

たかが野球、されど野球
弁護士業務と草野球について

アンダーソン・毛利・常法律事務所
弁護士 岩瀬 吉和

 

拡大岩瀬 吉和(いわせ・よしかず)
 アンダーソン・毛利・常法律事務所パートナー
 1995年3月、東京大学法学部卒。1997年4月、司法修習(49期)を経て弁護士登録。2003年5月、University of California, Berkeley, School of Law (LL.M.)。米国ワシントンDCの法律事務所での勤務を経て2004年4月、ニューヨーク州弁護士登録。

 日本のみならず、おそらく全世界で、裁判所の法廷は、もっともドレスコードが厳しい場所であった。しかし、近年のクールビズの動きに加え、今年、震災の影響があって、異変はついに決定的なものになった。法廷における正装としてクールビズが定着し、それに伴い、裁判所で審理される事件の当事者の代理人弁護士も、クールビズで当庁する者が大分増えてきたのだ。筆者自身は、裁判所外では、相当前から、クールビズないしビジネスカジュアルを自主的に励行していたが、今でも、裁判所に出廷する時は、必ずスーツ、ネクタイを着用している。その理由は、と聞かれれば、やはり、服装が、事件の形勢、結論に影響するのではないかと思う(危惧する)からである。

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 ところで、私は、まさしく下手の横好きで週末に草野球をやっており、数年前に事務所の草野球チームを立ち上げ、現在、2つのチームでプレイしている。草野球に真面目に取り組んでみると、弁護士業務、特に相手方がいる裁判業務と、草野球との間には、冒頭の服装の点を含め、共通点が多い。そこで、以下、弁護士業務において気付くこと、感じることを、徒然なるままに、草野球と比較しながらご紹介したい。

 1.服装

 野球ではルールによって、チーム全員が同一のユニフォームを着用することとされている。ユニフォームが揃っていないチームは、親睦の域を出ないままにプレイしているところが多いし、実力的にも弱いことが多い(例外はある)。私が所属しているチームは、いずれも真面目に取り組んでいるので、たまに帽子を忘れて別の似た帽子で誤魔化そうとしたりすると、審判に注意される前に、「おい、その帽子じゃ、審判に注意されるぞ」とチームメイトに注意される(その時は、試合に出ない人の帽子を借りたりして、何とかしのいだ)。さらに、筆者は、大事な大会の前に、高校球児さながらの丸刈りにすることがあるが、バッターボックスに入る際に帽子をとって一礼し、丸刈りをアピールすると、ストライク・ボールの判定がやや甘くなることもあるような気がする。

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 法廷では、以前の事件を通じて顔見知りの裁判官に担当いただくこともあるが、初対面のことも多い。そのようなケースでは特に、第一印象、ひいては服装が大事であると考える。すなわち、「真面目な」「一生懸命やる」代理人であるという印象をもっていただくことが重要と考える(「有能な代理人」という印象をもっていただくことよりも重要かもしれない)。裁判官の方々は、数多くの事件を抱え、それらを効率的に、かつ、適正に処理することを使命とされているが、そういった方々が、初対面の代理人がラフな格好で法廷に現れた場合、やはり、少なくとも警戒するであろうし、いわんや寛容な取り扱いをすることは考えにくい。10年近く前になるが、相手方で、ノータイにダウンジャケットといういでたちで裁判所に来る代理人がおり、変わった人だなと思っていたが、提出する書面もエキセントリックであった。その方は、かなり手厳しい扱いを受けていたように思う。筆者は、当分、夏でも法廷には必ずネクタイ、ジャケットを着用していくと思う。

 2.準備が大事

 強いチームは、早く来る。長年草野球をやっているが、この傾向は確実にあると思う。それに引き換え私の所属事務所の野球チームは、メンバーが若手弁護士中心で、休日も含め、皆いろいろと忙しいのは分かるが、もう少し早く来た方がいいように思う。ゴルフでもティータイムの1時間前にはゴルフ場に到着して、準備体操、パットの練習を励行せよ、といわれるが、野球でも、やはり1時間前には到着して、準備体操を入念に行い、グランドの状況、相手チームの様子等を確認し、心に余裕を持つと、試合にもスムーズに入っていけるように思う。

 どのような仕事でも同じかもしれないが、特に裁判所に行く時は、出来るだけ時間に余裕をもって到着するようにしている。また、交渉等においても、交渉の場所は、弁護士会等、出来るだけ自分の知っている場所にし、かつ、待ち合わせ場所には先に到着すると、スムーズに事件に入っていけるように思う。裁判の期日がある場合、理想的には、前日に記録を読み返し、その期日における展開を考えるわけだが、直前になって、それまで考えていなかったアイディアや、懸念すべき点などが思い浮かぶことも多い。時間に余裕があると、そういったことにも十分に対処が出来るし、具体的な答えが出なくとも、いい意味で開き直れることも多い。さらに、裁判案件では、証人尋問等が脚光をあびるが、首尾よく終わる証人尋問は、準備の賜物である。各弁護士のスタイルにもよると思うが、リハーサルに、何時間、十何時間、あるいは何十時間と時間を費やすことも珍しくない。また、証人尋問以外の、一見すると、書面を交換して次回期日を決めているだけに見えるような期日においても、準備は意外と大事である。毎回の期日では、次回に誰が何をすべきか、という訴訟の進行を決めるわけだが、これは一通りではなく、裁判官の裁量、段取り、各当事者の意見等により大分変わってくる。これを出来るだけ自分たちに有利にするためには、その場その場での交渉力、説得力が要求されることもあるが、これも事前の準備と、事前の準備があるが故の心の余裕があると、上手くいくこと(あるいは、上手くいったと思えること)が多いように思う。

 3.メンタル(ポーカーフェイスが大事)

 野球では、ご承知のとおり、メンタルが大事である。甲子園に出場する高校は、いずれも、各県で6回、7回と予選を勝ち上がり、強豪校として鳴らしているはずであるにもかかわらず、1回戦では緊張のあまり、それこそ、草野球のようなプレイが見られることもある。野球で一番よくないと思うのが、やはり、油断なのではないかと思う。「こんなユニフォームのところには、負けないだろう」みたいなことを思ったり、口にしてしまったりしたら要注意である(口にした時には、実際負けた)。エラーをしても、想定の範囲内、間違ってホームランを打っても、大喜びはしない、それじゃあんまり楽しくなさそうであるが、草野球で出来るだけ勝ちたいと考えるのであれば、油断せず、ポーカーフェイスで臨むのがベストと考えている。

 裁判でもポーカーフェイスが大事である。筆者は若かりし頃、おかしなことがあった場合や、しまった、と思ったりしたような場合に、必要以上に笑う癖があり、昔一緒に仕事をしていた先輩に口を酸っぱくして注意された。自分がしまった、と思っていても、顔に出さなければ、相手方にも裁判官にも分からないことは意外と多いように思う。

 草野球と裁判の共通点としては、「何が起こるか分からない」というのがある。草野球では、名手がポロリで冷や汗をかくことや、期待していなかったバッターが振り逃げでサヨナラなんていうことがあり、これは草野球の醍醐味である。裁判業務では、これはとても醍醐味などとはいえず、このような不確定要素をいかに少なくしていくかが勝負である(が、決してなくなることはない)。草野球でも裁判でも、不幸な、不測の事態は起こってしまうものであり、それが起きても冷静に対処することこそが肝要であり、そういう意味でもメンタルは大事である。

 また、野球でも裁判でも、負ける、負けると思っていたら、やはり負けてしまうわけであるが、負けるシナリオを想定しないで戦っていると、悲惨な事態が待っている。負けるシナリオも具体的に想定しつつ、ではどうしたらそうならないように出来るのか目をそむけずに冷静に考え、実行に移す……草野球はテンポよく進むので、頭で理性的に考えて劣勢を挽回できることは余り多くないように思うが、弁護士業務では、これを出来るだけ実践していきたいと思っている。広島の元監督、古葉竹識氏の座右の銘である「耐えて勝つ」が筆者の弁護士業務における座右の銘である。

 

 以上みてきたように、弁護士業務と草野球は、縁遠いように見えて、実は、共通点も多い。各都道府県の弁護士会対抗の野球の全国大会は、古くから行われているし、弁護士の間でも草野球は意外と盛んである。いずれ新たな(例えば、法律事務所対抗の)草野球の全国大会を立ち上げ、ゆくゆくは、当事務所の野球部を日本一にし、業務の面では世界一を目指すことが筆者の夢である。

 

 岩瀬 吉和(いわせ・よしかず)
 1995年3月、東京大学法学部卒業。1997年4月、司法修習(49期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2000年10月、当事務所で勤務開始。2003年5月、University of California, Berkeley, School of Law (LL.M.)。2003年9月から2004年11月まで、米国ワシントンDCのFinnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner法律事務所(Reston Office)勤務。2004年4月、ニューヨーク州弁護士登録。2004年12月、当事務所復帰。2006年1月、当事務所パートナー就任。
 特許・商標その他の知的財産権の侵害訴訟、ライセンス及びその他知的財産権取引に関する契約、知的財産権の侵害・有効性についての鑑定・アドバイス、特許庁審決取消訴訟、外国での知的財産権紛争についてのアドバイスなど、その他の企業法務案件を扱う。
 著書にLife Sciences 2011 (Japan Chapter) (Getting the Deal Through, Law Business Research Limited) (共著)、「ライセンスその他知的財産権に関する契約」 (新日本法規「最新モデル会社契約作成マニュアル第6章」所収、2002年)、「知的財産権辞典」(三省堂、共著、2001年)。最近の論文に「発明者に有利な判断が示されるようになった近時の知財高裁の判決動向 それを実務にどう生かし権利範囲を広くするかが今後の課題」(月刊 ザ・ローヤーズ 2010年10月号)(共著)、「故意侵害による懲罰的賠償を免れるための鑑定書取得および秘匿特権に関する実務について」(月刊 ザ・ローヤーズ 2007年12月号(第4巻第12号))、「M&Aにおける知的財産権の取扱い」(The asialaw Japan Review, Volume 2 Issue 2) (共著、2006年)、「職務発明と企業の対応−近時の動向もふまえながら−」(経営法曹第147号、共著、2005年)、「クレーム解釈に関するCAFCの大法廷判決 -Phillips対AWH事件-」(知財管理 2005年11月号)、「特許権侵害の教唆者に対する差止請求の成否−東京高裁平成17年2月24日判決及び東京地裁平成16年8月17日判決(原審)を題材にして」(AIPPI 2005年7月号)、「近時の米国CAFCの裁判官の間におけるクレーム解釈手法の対立−Wagner論文及びPhillips対AWH事件の紹介」(知財管理 2004年12月号)など。

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