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文系ビジネスマンにとって特許とは?

トーキョー トッキョ キョカキョク

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 城山 康文

拡大城山 康文(しろやま・やすふみ)
 1992年3月東京大学法学部卒業。司法修習(46期)。2003年1月、現事務所パートナーに就任。専門は、特許侵害訴訟及びその他知的財産案件。2004年から現在に至るまで、東京大学法科大学院の実務家教員も務める。

 多くの人は、子供の頃に、早口言葉で表題の言葉を言ったことがあるだろう。特許は、そのように万人に知られた制度であるが、にもかかわらず、ごく一部の人を除いては、それ以上に深く特許にかかわることはないかもしれない。

 最近、米国特許法が改正され、ようやく米国も先発明主義から先出願主義へ移行することになったことが、日本でも比較的大きく報じられた。また、最近では、スマートフォンに関する世界各地での特許訴訟が報じられることも多い。その功罪は別にして、特許が、企業の世界戦略の一環として利用されていることがわかる。

 今回は、ちょっと堅い話になるが、特許制度の意義と、特に文系ビジネスマンの特許への接し方について、触れてみたい。

 情報という財の特徴

 特許という権利が、発明に与えられるものであることは、よく知られている。発明とは、いってみれば、世の中に溢れている「お役立ち情報」の一つである。発明という言葉からは、浮世離れした博士、あるいは詐欺師のような人が「これが私の発明品です。」といって珍妙なマシンを取り出す場面を想像されるかもしれない。しかし、発明とは、そこに物として存在するマシンそれ自体なのではなく、そのマシンに具体化された技術的なアイディア・工夫といった「情報」なのだ。

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 土地・建物などの不動産や、貴金属・生産機械などの動産と比べると、情報には二つの大きな特徴がある。第一に、伝達や複製が容易かつ安価で、そのスピードが速いことである。不動産はそもそも輸送も複製もできないし、動産も複製し輸送するためにはそれなりの費用と時間がかかる。これに対し、情報は、昔から手紙や電話により伝えることができたし、伝達が行われても伝達者が伝えた情報を失うことは無い。そして、現在ではインターネットで瞬時に世界中に伝達することができる。第二に、複数の人が同時に利用できるというのも、情報の大きな特徴である。一つの土地に二人の人が同時に家を建てることはできない。それを可能にするためにはそれぞれ半分ずつしか利用しないということを納得するほかない。これに対し、情報は、二人又はそれ以上、場合によっては数百万人の人が同時に、かつ完全に利用することができる。

 特許の目的

 情報は、古来ローマ法の時代から私有が認められていた不動産や動産とは異なり、伝統的には、誰でも自由に利用・流通することができた。ところが、情報の上述したような特徴から、誰かがせっかく苦労してお金をかけて発明をしたとしても、それが他人に知られたとたん、直ぐに安価にコピーされ、広く利用されることになってしまう。そうすると、誰も自ら苦労して技術開発をしようとは思わなくなるし、また、もし技術開発をするならば、その成果は社内の秘密としてとどめ、世間には公表しないだろう。しかし、それでは、技術開発が行われず、かつ、もし技術開発が行われても社会で共有されない、という2点において、産業の発達が滞る結果になってしまう。

 そこで、産業政策として、技術開発をなして発明をした者には、一定の範囲でその発明の利用についての独占権を法的に与えることにして、技術開発へのインセンティブを与えようとした。これが特許制度である。また、特許を求めて出願された発明については、独占権の対価としてそれを社会に公開することで、社会全体のレベルがアップすることになる。このように、技術革新を進めるための産業政策の手段として導入された法制度が、特許制度だ。

 ちなみに、米国特許法が伝統的に採用していた先発明主義は、同じ発明を2者が相前後して行ったときに、先に発明を完成させた者に特許権を与えるという制度であり、これに対して、世界標準となり今回の改正により米国特許法も採用することとなった先願主義は、同じ発明を2者が相前後して行ったときに、先に特許庁に特許出願を行った者に特許権を与えるという制度である。先願主義が優勢となったのも、どちらが正義という話ではなく、競って特許出願がされ発明が公開されるので社会全体にメリットが大きい、発明完成日よりも特許出願日を基準とするほうが分りやすい、といった政策判断によるものである。

 特許の功罪

 このように書いてくると、特許制度というのは産業政策にとってバラ色の理想的な制度のように聞こえるが、副作用もある。技術開発の成果として発明が生み出されるという理想形ではなく、はじめに特許ありきで、特許を取得して競争相手を牽制することを目的として「発明」が生み出されることもある。更には、自ら事業を行うことも無く、事業を行っている者からお金を取ることを主たる目的として、「発明」が生み出されたり売買されたりすることもある。そうなってくると、特許訴訟に費やすお金が競争力を削ぎ、特許訴訟を恐れて技術開発を断念する、という本来の目的とは正反対の結果になりかねない。

 文系ビジネスマンの特許への接し方

 さて、早口言葉以来特許に触れたことの無かった文系ビジネスマンは、職務において何らかの縁で特許に遭遇することになったとき、どのように接すべきだろうか。あたりまえのことだが、軽視せず、過信もせず、過度におそれず、実力を冷静に把握する、ということに尽きる。

 そして、そのためには、特許の対象とする発明の内容を理解することが重要である。技術畑の出身ではないと、どうしても発明の中身に踏み込むことを避けがちだが、ここを避けていては、本質が見えてこない。

 発明の中身を理解するためには、発明についての物語を理解することが重要だ。 どんな発明にも、次のような物語がある。

(1) むかしむかし、ある村(業界)では、特産品である□□を作っていました。

(2) ところが、村人はみな、□□を作ると××が起きるので、困っていました。

(3) そこで、発明者が、□□のうちの一部を○○に代えてみたところ、××が生じなくなりました。めでたし、めでたし。

 この物語が真実であるかどうかはわからない。上述したように、特許制度が元来想定した発明だけが特許出願されるわけではないからだ。それでも、真実かどうかは別にして、すべての「発明」は、このような物語であるかのように説明されているはずだ。この物語が記載されるのが、特許明細書という書類であり、特許公報という媒体により、特許庁のウエブサイトを通じて誰でもアクセスすることができる。したがって、文系ビジネスマンであっても、特許に何らかの理由でかかわることとなった際には、特許明細書に目を通してその発明の物語を理解して欲しい。一見してもわかり難い特許明細書は多いし、自社の技術者に問い合わせても難しい専門用語で説明されて、ちんぷんかんぷんになるかもしれない。それでも、根気よく、従来はどうだったのですか、どういう問題があったのですか、それをどうやって解決したのですか、効果はどうなのですか、という問いかけを続けていけば、物語を理解することは決して難しくないはずだ。

 そのうえで、特許公報の「特許請求の範囲」の欄の記述を、早口ではなく、ゆっくりと声に出して音読してみれば、情報としての発明が頭の中に具体的にイメージできるだろう。

 城山 康文(しろやま・やすふみ)
 1992年3月東京大学法学部卒業。司法修習(46期)。2003年1月、現事務所パートナーに就任。専門は、特許侵害訴訟及びその他知的財産案件。2004年から現在に至るまで、東京大学法科大学院の実務家教員も務める。

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