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ワールドカップサッカー 相手の違いを見極め、駆け引きに勝つ

毎日が「ワールドカップ」
 国際的な案件における契約交渉

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 額田 雄一郎

拡大額田 雄一郎(ぬかだ・ゆういちろう)
 アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー弁護士
 東京大学法学部。コロンビア・ロー・スクール(LLM)。TOB・株式譲渡・事業譲渡等のM&A取引、TMK/REIT関連の不動産・ファイナンス取引、会社法・金融関連規制法の相談、サッカーに関する法務相談・契約交渉などを担当。金融庁において各種法制に関する企画・立案に従事した経験、銀行における企業実務経験がある。

 ワールドカップとの出会い

 「MEXICO 86'」――メキシコ・ワールドカップ・サッカー。マラドーナのための大会と言われた、スペイン語でメヒコ・オチェンタ・イ・セイスこと、メキシコ・ワールドカップ。

 小学生だった私にとってそれまで、ワールドカップとは「大空翼」の夢であった。多くの少年がそうであったように、漫画「キャプテン翼」の影響を受けてボールを追いかけていた私にとって、ワールドカップとはそれまで、ある種のフィクションにすぎなかった。

 親の仕事の関係で南米にいた当時、遊びにいった友達の家のブラウン管の中で、ZICOという名の選手が、メキシコの真っ青な空と美しい太陽に映える緑の芝生に吸い込まれていくのを私は目にした。「Copa Mundialって、え?ワールドカップって、これのこと?」。

 翌週、「ゴォォォォーーーーオオル!!! アルヘンティーナ(アルゼンチン)トレスッ(3点)! アレマニア(西ドイツ)ドス(2点)!」と解説者が絶叫するのを聞いた。世紀の決勝戦である。アステカの空に舞う紙吹雪の中、ワールドカップを高々と掲げるマラドーナの姿に私は出会う。

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 この頃から、私にとって、サッカーは、ただボールを追いかけるだけのものではなくなった。

 MEXICO 86'に出場している選手のカードを道端のキオスクで買い集めた。ジーコ、リネカー、プラティニ、ルムメニゲ……。世界中のエース(10番)に目を輝かせた。参加24ヶ国それぞれの国がどんな国だろうか(そもそもどこにあるのか)と想像した。イタリア語放送のセリエAを、ウルグアイ開催のCopa Americaを追いかけた。Copa Mundialというラテンの響きに夢を感じた。海外駐在という当時の環境もあいまって、世界というものを具体的に知る大きなきっかけとなった。

 弁護士のワールドカップ

 「弁護士のワールドカップというものがあるのを知っているか?」

 あれから15年近く経った頃だろうか。司法試験に向けた勉強のさなか、運命のようにこの言葉に出会う。

 「ムンディアボカ(Mundiavocat)」――。フランス語で、世界(Mundi)の弁護士(Avocat)という意味である。弁護士によるサッカーの世界大会である。

 2年おきに開催され、ここ10年は、モロッコ、マルタ、ハンガリー、スペイン、トルコなどに、世界中から弁護士が集まった。ナショナリズムを大会に持ち込まないというコンセプトのもと、都市ごとのチーム構成で50チーム以上、総勢1000名以上の弁護士、lawyer、avocatらが、約1週間にわたって白熱した試合を繰り広げ、カップを目指す。共通点は、弁護士であることと、サッカーが好きであること、それだけだ。

 たかがサッカー、されどサッカー、である。決められた試合時間の中で、より多くの回数、相手のゴールにボールを入れたものが勝者、というシンプルなルールを除けば、それぞれの都市がピッチ上で表現する「サッカー」は、まったくの別物と言っていい。

 日本の選手たちは、おそらくどのチームと比較しても、体はシャープだし、リフティングなどのボール扱いは上手で器用。手を抜かずにひたすら走るし、頑張る。ピッチの反対側で、お腹の出たオッサンや、ぎこちなくリフティングする相手を見て、これなら勝てるんじゃないか、と思っていたのは、サッカーという舞台で世界を相手に戦うことの怖さをまだ思い知らされていなかった頃のこと。

 どういう戦い方をしようが、どれだけ上手だろうが、どれだけ頑張ろうが、決められた時間の中で多く点を取った方が勝者、というのがこの競技だ。

 ゲームの流れを読み、かけひき

 「ゲームの流れを読む」という、やや掴みどころのない言葉がある。しばらくの間のんびりプレーしていたり、ひたすら守ったりしているようなチームでも、ふと、ここぞ、というタイミングで集中力をあげて、点を取りに来る。逆に、時間稼ぎではなく、試合を意図的にペースダウンして、相手の動きを探り、「流れ」がこちらに回ってくるのを待つ時間帯を作る。90分という時間をどのように使うか、という観点を持って、ピッチの中にいる選手たちが自然とそういうことを考えながら、お互いにプレーの連携を図っていく。日本では、試合巧者とでもいうのだろうか。

 「かけひき」もある。試合が始まって最初の時間帯にする(される)こと、それは、相手がどんなチームで、どのあたりの選手がキー・プレーヤーかをチーム全員の意識として見極めること。そして、わかりやすいキー・プレーヤーがいるときは、場合によっては、いや、ほぼ確実に、開始数分で「削り」に挨拶にいく。ここがつぶれれば、圧倒的に試合運びが有利になる。キー・プレーヤーの方もそれがわかった上で、うまく対処する。知らなかったら、「相手はひどいなぁ、ラフだなぁ」ということだけで終わってしまうが、そういう話ではない。もしやられたら、早い段階でこちらも効果的にやり返しておくことによって、牽制する。一度、イエローカードをもらっている選手には積極的に勝負をしかける。こういったことは、ずるいわけでも汚いわけでもなく、決まった時間に相手より多くの点をとるためには、自分達のサッカーをして、相手にはサッカーをさせない、それだけのことだ。

 こういった「流れ」や「かけひき」は、日本の選手たち(少なくとも私のような世代は、というべきだろうか)はどちらかというと「頭で考え」ないとできないが、やはりアルゼンチンや、イタリアや、イギリスなどの人たちは、もっと普通にやっているように見える。おそらく、小さい頃からそういった環境の中で育ち、そういうものもひっくるめたものを「サッカー」として味わってきたからであろう。リオ・デ・ジャネイロ、パリ、セネガル、メキシコ、ベネズエラ、ローマなど、対戦したチームには、それぞれの「流れ」や「かけひき」があった。ピッチに漂う空気が、試合ごとに、時間ごとに違った。

 日本のサッカーが未成熟で、世界「水準」なるサッカーがある、というわけではない。サッカーは、国によって、地域によって、違う、そういうことを所与のものとして受け入れ、常に「相手があるもの」として柔軟に対応できるようになっている必要がある。

 相手の違いを見極め、臨機応変に対応

 国際的な案件における契約交渉にも同じことがいえる。自分達に有利な条件を勝ち取るという目的に向けて、どういった手段を使って、どのように「流れ」を読んで、「かけひき」をして、交渉をしていくか。日本国内で想定されている「交渉」が、海外の相手が想定している「交渉」と同じということはなかろう。日本がいろいろな文脈においてとかく求めたがるグローバル・「スタンダード」などというものはここにはなく、都度、臨機応変に、相手の交渉スタイルはどういうものかを見極めようとすること、そして、どういう戦い方をするか、という視点を持つこと、それが契約交渉の場にも当てはまる。

 「違う」ということ、そして、違うからこそ、違いを把握し、違うということを前提に柔軟に対応できる必要があること、こういった当たり前のことが意識されないことが日本ではまだまだ多い。

 コモ・エスタ、セニョール!

 大会期間中にキャプテン・ミーティングというものがあった。各チームのキャプテンが一堂に会して、交流を深めるという場。国際弁護士としてどれだけ有意義な情報交換ができるだろうか、と意気込んで会場に入ってみると、英語を話している人はほんのわずかしかいなかった。考えてみれば当然のことかもしれない。英語を母国語としている国は世界にどれだけあるだろうか。ロンドン、バンクーバーなどのごく少数のチーム以外には英語を母国語とするチームはなく、南米や南欧を中心とした、ラテン系(スペイン語、イタリア語)、そして、フランスやアフリカ諸国を中心とした、フランス語系(これもラテン系であろう)がほとんどであり、あちらこちらで集まって話をしている。

 幼い頃に慣れ親しんだスペイン語への哀愁そのままに、「コモ・エスタ、セニョール! ハポン!(やぁ、日本から来たんだよ!)」と輪に加わっていく。これも一つの、ありのままの世界の縮図ではないだろうか。

 地球の裏側で幼少期に出会い、以来、その魅力に取り付かれたCopa Mundialは、私にとっての価値観そのものである。どのように「違い」を感じ取りながら自分を柔軟にしながら生きていくかを学び、そして、M&Aや企業法務における日々の交渉の中で生き抜くための心のフィールドであり続ける。

 額田 雄一郎(ぬかだ・ゆういちろう)
 アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー弁護士。東京大学法学部。コロンビア・ロー・スクール(LLM)。TOB・株式譲渡・事業譲渡等のM&A取引、TMK/REIT関連の不動産・ファイナンス取引、会社法・金融関連規制法の相談、サッカーに関する法務相談・契約交渉、その他の国内外の取引、企業法務、金融法務、スポーツ法務を担当。金融庁において各種法制(会社法現代化に伴う金融庁所管法令の横断的整備、資産流動化法、投資信託法、金融商品取引法等)に関する企画・立案に従事した経験、銀行における企業実務経験、NY及びLondonにおける海外留学・研修経験がある。

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