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特殊業務上過失致死傷事件の刑事責任追及、その課題と将来

 多数の死傷者を出したJR西日本の脱線事故や著名医療事故をめぐる業務上過失致死事件で無罪判決が目立つ。この種の事故が起きると、市民とマスメディアは捜査当局に真相解明と責任追及を求める。検察、警察は、個人の犯罪を処罰する刑事司法の枠の中でその期待に応えようとするが、運輸事業や医療システムは高度、かつ複雑になり、事故原因の特定や過失の認定は簡単ではない。相次ぐ無罪はその構造的な矛盾の結果ともいえる。長年、検察現場で捜査に取り組んできた元最高検次長検事の伊藤鉄男弁護士が、最近の裁判例を詳細に分析し、警察・検察は専門的調査機関からの告発を待って本格的な捜査に着手し、検察は起訴裁量権にもとづき、できるだけ起訴しないようにすべきだ、と問題提起する。この種事故捜査の実態を熟知した元検察幹部の提言は、各方面で論議を呼びそうだ。

特殊業過事案に対する刑事責任追及のあり方
~その将来像と課題について~

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 伊藤鉄男

伊藤 鉄男(いとう・てつお)br/ 1971年、中央大学法学部卒業。司法修習(27期)を経て、75年から2010年まで検事。この間、東京地検の刑事部長・特捜部長・次席検事・検事正、高松高検検事長、最高検次長検事等を歴任。2011年から弁護士(第一東京弁護士会)。山梨学院大学法科大学院教授を兼務。

 ■ はじめに

 多数の死傷者が出た大規模な事故や、誰もが遭遇する可能性のある消費生活上の死亡事故等が発生した場合、通常、警察・検察による捜査が行われるが、これとは別に、専門的調査機関による事故調査も行われる。このような事故調査が必要とされるのは、航空・鉄道・船舶のように

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