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専門化する前の企業法務弁護士一年生のやりがいと心がまえ

弁護士一年目を終えて:汝何の為に其処に在る哉

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 土門 駿介

 はじめに

土門 駿介(どもん・しゅんすけ)
 2008年3月、一橋大学法学部卒。2010年3月、東京大学法科大学院修了(法務博士(専門職))。2011年12月、司法修習(64期)を経て、弁護士登録(第二東京弁護士会。2012年1月、当事務所入所。

 2012年の初旬からスタートした企業法務弁護士としての生活も、あっという間に1年が経過し、既に2年目も中盤に差し掛かっている。

 以下では、自分がこれまで経験してきた1年目の生活について振り返ってみたいと思う。

 アンダーソン・毛利・友常法律事務所について

 私が所属しているアンダーソン・毛利・友常法律事務所は、弁護士・スタッフあわせて総勢600名以上が所属する大規模事務所であって、日本の弁護士事務所の中ではとびぬけて人数が多い事務所の一つである。事務所として取り扱う案件の分野が幅広く、国内の案件はもちろん、国際的な案件も数多く取り扱っている。

 当事務所の弁護士のキャリアとしては、大まかには3~4年目頃から徐々に専門化し始めるというのが大筋の流れで、1年目や2年目の弁護士はとにかく色々な種類の案件に接する機会がある。

 私は、元来、好奇心が旺盛で、何事にも首をつっこみたがる性格のため、就職活動の際にも、「この事務所に入れば色々な分野の案件に携われそうだ」という点に惹かれて当事務所への入所を決意した。

 就職に限らず、往々にして「いやぁ、実際に入ってみたら聞いていたことと違ったよ」ということはあるもので、入所前は、当事務所についても「思っていたよりもやれることは少なかったりするのかな」と不安に思ったこともあったが、そのような考えはまったくの杞憂であった。1年目の弁護士が携わる分野についても非常に幅広く、むしろ想像していた以上に、色々な分野に取り組めたように思う。

 実際に、昨年一年間を振り返ってみると、取り扱った分野だけでも、M&A、ジェネラルコーポレート、訴訟、労働、ファイナンス、キャピタルマーケッツ、レギュラトリー、倒産関係、クロスボーダー取引、さらには当事務所の採用活動に関する業務などと本当にたくさんの分野の仕事に関わった。

 案件への関与の仕方についても、1年生だからといって玉拾いのような作業を求められているわけではなく、一人の弁護士として、主体的に行動することが求められる。入所して間もない頃、先輩弁護士に、「誰も土門先生のことを1年生として扱うつもりはありません。傍観者とならずに、次に何をしたらいいか、積極的に提案して動く癖をつけましょう。別に的外れな提案をすることがあってもいいですから、しないよりはマシです。」という叱咤激励をもらい、当時の自分はとても勇気付けられたことを覚えている。

 やりがいと気をつけること

 幅広い分野の仕事に関われることは、とても楽しく、自分の性格も手伝って、ついつい色々な案件を、と欲張ってしまいがちである。しかしながら他方で、幅広い分、自分の知識や経験の集積が分散してしまうことは否めない。そのため、各分野の知識・経験不足を埋めるために下準備をしなければならない量が多くなるなど、自分に跳ね返ってくる負担も相応なものになる。特に、最初のうちは、そもそものとっかかりや着目すべきポイントすらわからないことが多く、そのために、仕事の分量やタイムラインを見誤り、若干半泣きになりながら目の前の大量の案件と格闘していた、ということも多々あった。

 そういう大変さを差し引いてもなお、こうして様々な案件に関われることは、とても楽しいし、どの仕事にも非常に強いやりがいを感じている。自分自身、徐々に専門化を図っていかなければならないと痛感するものの、専門化をする前の基礎的な実力を作る上で、各分野に対する知見を持つことは非常に重要であると信じており、それゆえに、あともう少しの間は意識して幅広い分野に取り組んでいければと思っている。

 企業法務は無味乾燥?

 あまりなじみのない分野であるからか、企業法務というのは、なんとなく定型的な契約書をひたすらさばくような無味乾燥なものと思われていることもあるらしい。友人にも、「退屈そう。」だとか「ビジネスライクで冷たそう。」などと言われたこともあった。

 しかしながら、日々の業務の中では、今まで考えもしなかったような問題がたくさん出てくるのであって、およそ退屈とは縁遠い世界である。また、企業の活動、それをサポートする企業法務の仕事も、やはり人のなすものであり、良くも悪くも人間臭さが出てくる。案件を担当する弁護士・スタッフそれぞれの個性も存分に発揮され、仕事の随所にその個性が光っている。

 また、自分自身、1年目の後半になって、依頼者と直接やり取りをすることが増えてきたのだが、案件を無事やり遂げられたときに依頼者から直接お礼を言っていただけたり、仕事ぶりを褒めていただけたことはこの上なく嬉しいものであったし、また次も頑張ろうという強い原動力になっている。

 所内でも、熱い気持ちを持った弁護士は多く、上記の叱咤激励もそうであるし、自分がどうしようもなく落ち込んでいたときに、普段はとても厳しい先輩弁護士から「一生懸命やっているのはよくわかる。ただ、当事者目線になりすぎずに物事を一歩ひいた立場から考えてみるのがよいのではないか。」とふいに暖かい言葉をかけてもらっては、「もっと精進しなければ。」と奮い立たせられることもあった。

 他にも、数え切れないくらい、多くの人の温かい気持ちに支えられて過ごしており、自分は本当に恵まれていると感じている。共に働く弁護士、スタッフには、感謝してもしきれない。

 結びに代えて:「汝何の為に其処に在る哉」

 以前、たまたま、ある地方の高校の校長先生が当時卒業する生徒に向けて贈った言葉を反訳したものを読む機会があった。その言葉は、非常に簡潔ながら印象深いものであったのだが、その中で、特に「汝何の為に其処に在る哉」という言葉に胸を打たれ、今でもたまに目を通しては忘れないようにと思っている。

 企業法務の仕事というのはスピードが求められるとともに、業務量も膨大なもので、ともすれば、ついつい自分の仕事に忙殺されがちである。しかしながら、そんなときに、この言葉を思い出しては、一弁護士として依頼者のために何をすべきか、所内の人間として何をすべきか、そして、一個人としては何をすべきかということを意識するようにしている。

 依頼者を「護る」職業である弁護士にあこがれてこの世界に入った自分としては、一弁護士としては、依頼者を、一個人としては、少なくとも身近な人を護れる人間であるよう、日々研鑽を積み重ねていければと思う。

 土門 駿介(どもん・しゅんすけ)
 2008年3月、一橋大学法学部卒。2010年3月、東京大学法科大学院修了(法務博士(専門職))。2011年12月、司法修習(64期)を経て、弁護士登録(第二東京弁護士会。2012年1月、当事務所入所。
 共著に「アジア・新興国の会社法実務戦略Q&A」(商事法務 2013年)。