株式強制取得で適正な株価は?
2013年06月13日
▽筆者: 加藤裕則
焦点は価格の決定方法だ。東宝は大和証券に、東宝不動産は三菱UFJモルガン・スタンレー証券にそれぞれ、「第三者算定機関」として株式価値の算定を依頼した。大和証券は、東宝不動産が将来生み出すフリー・キャッシュ・フロー(本来の事業活動が生み出す現金収入)をベースにしたDCF法などで株式価値を算定し、東宝はこれを参考に市場の株価などを見ながら決めたという。東宝不動産も同様の方法で評価し、利益相反行為を避けるため、法律事務所からの助言や第三者委員会を設置して対応し、「少数株主にとって不利益ではない」などの回答を得たうえで、東宝の買い付けに賛同することを表明した。
しかし、山口氏らはこれに異議を唱える。株式価値の評価方法として、純資産額をもとに一定の時価評価を加える純資産評価法を使うべきだと訴える。東宝不動産は土地・建物を所有し、賃貸借を中心業務とする不動産会社で、かつ多額の資産や含み益を抱えており、山口氏はそれらの点をその理由に挙げる。東宝不動産の有価証券報告書によると、貸借対照表に計上された不動産は約248億円で、期末の時価は約701億円となっている。つまり450億円程度の含み益がある計算だ。これを発行株式数(約5544万株)で割ると、これだけで800円を超える。1株あたりの純資産額が584円のため、800円を足すと1400円近くになる。また、ある試算で含み益は1000億円との見方もあり、この場合の株価は2400円になる。代表的な資産として帝劇ビル(土地の面積は3825平方メートル)があるが、山口氏らは、公表されている路線価から類推するとこれだけで700億円程度の時価があるという。
株式の評価方法はどうあるべきなのか。日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインでは、フリー・キャッシュフローや利益を使う方法について「現在の実務において利用されている代表的な方法」と位置づけて紹介している。半面、「事業計画等の将来情報に対する恣意性の排除が難しいことも多く、客観性が問題となるケースもある」と指摘。純資産を使う方法については「時価等の情報が取りやすい状況であれば、客観性に優れていることが期待される」としている。そのうえで、株式の評価方法について「様々な考え方がある」と一つの方法に絞ることを避けている。学説などでも、DCF法を基本に置きながら、条件によっては純資産方式も考慮に入れるという考え方が根強いようだ。実際、東宝は2008年にコマ・スタジアムを買収する際には、時価純資産方式を採用している。
申し立てについて、東宝と東宝不動産は「公正なプロセスにのっとって進め、妥当な金額を提示した」などと、735円が公正な価格であるという姿勢を崩していない。735円は、買い付けを発表した1月8日の前日の株価(終値)557円の31%増しで、発表前の3カ月平均(464円)の58%増しでもある。この増加分(プレミア)についても、一般的な範囲と言える。東宝や東宝不動産の担当者は「そもそも帝劇ビルを売る予定はない。何十年も事業をし、収益を上げてきた。売るつもりがないのに売却したような解散価値(時価)を求められても、その考えは採れない」と述べる。これについて58人の代理人である松尾明弘弁護士は「確かに東宝がすぐに帝劇ビルを手放すことは想像しにくい。しかし、大株主はその気になれば売ることができる。売却のオプションを持っている以上、他の株主から強制的に買い取るのであれば、それらが考慮されるべきだ」と反論する。さらにプレミアについても、リーマン・ショックによって株価が下落し、それに応じてプレミアが上昇傾向にあり、50~100%のケースもあると指摘する。
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