メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

国立天文台の弁護士として宇宙の深淵にわくわくする

現実にある、漫画「宇宙兄弟」の世界


アンダーソン・毛利・友常法律事務所
石原 仁


石原 仁(いしはら・ひとし)
 2000年3月、慶応義塾大学法学部卒。2003年10月、司法修習(56期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、現事務所入所。2008年9月から2009年9月まで 米国ニューヨークのDewey & LeBoeuf法律事務所勤務。2009年10月、現事務所復帰。2012年5月、留学を経ず独学にてカリフォルニア州司法試験合格。2013年1月、現事務所スペシャル・カウンセル就任。
 宇宙の深淵を覗く

 「宇宙兄弟」という、講談社の漫画雑誌「モーニング」にて連載中の漫画がある。日本人の兄弟が、子供の頃に誓った宇宙飛行士となる夢を実現するという、現在大人気の漫画である。昨年からはテレビアニメも放映され、小栗旬さんを主演に実写映画化もされている。

 その「宇宙兄弟」の中に登場する、主人公兄弟をわが子のように思う天文学者、「シャロン博士」は、月面に望遠鏡を建設することを夢見る。その望遠鏡により、はるかに遠い深宇宙を探索するとともに、同じく天文学者であった夫が発見し、自身の名を冠してくれた小惑星をより詳細に観察したいから、というのがその理由だ。そして主人公は、その恩師の夢を実現するため、様々な困難に立ち向かっていく―。

 以上は漫画の中の話であるが、現在、日本の国立天文台が、アメリカ、カナダ、インド及び中国等の、他国の大学及び政府機関と共同で、更なる宇宙の深淵を覗き込むべく推進している、月面天文台に勝るとも劣らないプロジェクトがある。それが「TMTプロジェクト」である。

 筆者は現在、国立天文台の法律アドバイザーとして、当該プロジェクトに参加させてもらっている。

 TMTとは

 まずそもそも「TMT」とは、史上最大となる、口径30mの次世代大型天体望遠鏡(Thirty Meter Telescope)の略称である。

 国立天文台は20世紀末に「すばる望遠鏡」を建設し、以来10年以上、それは、初期の銀河や銀河団の形成の理解を大きく前進させ、ビッグバン後から現在に至る天体形成の歴史のなかで、闇に包まれていた時代に足を踏み入れる目覚しい活躍をしてきた。その「すばる望遠鏡」の口径が8.2メートル。

TMT完成予想図TMT完成予想図
 これに対し、TMTは492枚の複合鏡からなる、口径30メートルの望遠鏡である。これにより、TMTは、光を集める能力において、すばる望遠鏡等の現在稼働中の望遠鏡を10倍以上凌駕する。従って、太陽以外の星のまわりの惑星の姿を直接とらえる観測に圧倒的な力を発揮するとともに、その惑星大気成分を分析して、生命存在の兆候となる酸素の有無を調べることさえできる性能になると期待されている。

 実在する「シャロン博士」たち

 さて、TMTプロジェクトにおいては、各国の著名な天文学者、政府機関や大学の要職の方々、学内弁護士(アメリカの大学は「社内弁護士」ならぬ「学内弁護士」がいる)や外部弁護士等が、一堂に会して議論を重ねている。筆者もTMTプロジェクトに参加するようになってから、日本の弁護士として唯一人、国際会議の場に度々同行させて頂いている。

 先日も、カリフォルニア工科大学で行われた国際会議に参加させて頂き、会議が終わった後、「さて、では皆で一緒に夕食に行こうか」という運びになった。レストランに入り席に着くと、左隣には国立天文台の家正則教授、向かいにはカリフォルニア工科大学のエドワード・ストーン教授、右にはカリフォルニア大学サンタバーバラ校の学長ご夫妻、という錚々たる顔ぶれであった。

 国立天文台の家正則教授は、「補償光学系」システム(星の像は地球大気の揺らぎによってぼやけてしまうが、近くに見える別の星の像の乱れを同時に測定することで、遠方の像のぼやけをリアルタイムで補正する技術)を開発し、確認されている範囲では最古の銀河を発見した経歴をお持ちである。そして、家教授は、その功績が認められ、日本の学術賞としては最も権威ある賞である、日本学士院賞を受賞されている。しかも、両陛下から宮中にお招きがあり、先日もご自身の研究内容について、直接ご説明なさったとのことである。筆者にとってはもはや別世界の話である。

 また、カリフォルニア工科大学のエドワード・ストーン教授は、なんと「無人宇宙探査機ボイジャー」プロジェクトの総合責任者である。

 ご存じの方もおられるかもしれないが、「無人宇宙探査機ボイジャー」とは、地球外の知的生命体に発見されたときに備えて、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収められた「ゴールデン・レコード」を載せて、1977年に地球を出発し、40年近く経った現在もなお、宇宙の果てを目指して航海中の宇宙船の名前である。

パイオニア探査機の金属板パイオニア探査機の金属板
 筆者は小学生のころ、子供用の科学の本を読んでボイジャーの存在を知り、「地球外生命体に人類の存在を伝える」というロマンに心をときめかせたものである。また、ボイジャーと同時期に打ち上げられたパイオニア探査機に搭載された金属板の写真は、今も鮮明に覚えている。

 興味深い天文学の世界

 このように、筆者は、TMTプロジェクトに参加させて頂くようになってから、世界最高峰の頭脳と言っても過言ではない方々と、一緒に仕事をさせて頂く貴重な機会に恵まれている。

 国際会議の場において、弁護士である筆者が活発に議論に参加させて頂く場面は、当然のことながら、天文学的な側面を少し離れ、法律的な問題点及び各国のプロジェクト参加者の権利義務関係を調整する議論が中心となるものの、それ以外の場面においては、普段接する機会の少ない大変興味深いお話を、このような方々の直接の体験談として伺うことができる。

 例えば、上述の夕食の席では、宇宙探査機ボイジャーの現状について話に花が咲いた。不勉強な筆者は知らなかったのであるが、現在ボイジャーはなんと太陽系の淵に到達しており、間もなく「太陽系の外側」に出ることが見込まれているとのことである。そして、何故それが分かるかというと、ボイジャーは、地球から約180億キロメートル離れている場所から、地球を出発してから40年経った今でも、なんと「毎日」報告を送ってきているからであるという。そのデータを解析することによって、ボイジャーが現在どういう状態にあるのか分かるというのである。

 このように、ボイジャーは、今もなお、我々の想像がつかないような発見をしてくれている。そして、TMTも、「人類が今まで見ることの出来なかったものを見る」ための望遠鏡として、宇宙誕生の最初期の銀河の形成過程や、太陽系外惑星に生命存在の兆候を探ることが期待されている。

 TMTの公式ホームページにはこのようにある。「これらの惑星に生命は存在するのか— この疑問にいよいよ挑戦するときです」。何ともわくわくする話ではないか。

 なお、国立天文台では、TMTプロジェクトへの寄付を募集しており、今年12月末まで寄付した人は、名前のプレートが、建設中はハワイ観測所山麓施設ロビーにて、TMT観測所完成の暁には当該施設にて掲示(後者については現在企画中)されるとのことである。本稿をお読み頂いている読者の方々におかれても、「TMTプロジェクトに寄付をしてみようかな」と思う方がいらっしゃれば、下記のリンク先をお読み頂ければ幸いである。   http://tmt.mtk.nao.ac.jp/donation-j.html

 個人の場合の寄付は一口1,000円から可能とのことだったので、筆者も早速寄付をさせて頂いた。壮大なプロジェクトに少しでも参加している気持ちになることができ、大変夢のある企画であると思う。将来、TMTプロジェクトが大発見をした場合は、子供か孫にでも「お父さんの名前が、この観測所に掲げられているんだよ。」と、ちょっとした自慢をしようと思っている。

 石原 仁(いしはら・ひとし)
 2000年3月、慶応義塾大学法学部卒。2003年10月、司法修習(56期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、現事務所入所。2008年9月から2009年9月まで 米国ニューヨークのDewey & LeBoeuf法律事務所勤務。2009年10月、現事務所復帰。2012年5月、留学を経ず独学にてカリフォルニア州司法試験合格。2013年1月、現事務所スペシャル・カウンセル就任。
 共著論文に「The International Comparative Legal Guide to: Corporate Governance 2008」(Japan Chapter)(Global Legal Group Ltd、 2008年)、「The International Comparative Legal Guide to: Corporate Governance 2009」(Japan Chapter)(Global Legal Group Ltd、 2009年)がある。