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今年6月の株主総会 社外監査役の独立性に注目、反対が増える

依馬 直義

2013年6月総会を振り返って
  ~機関投資家の議決権行使状況~

 

三井住友信託銀行株式会社
証券代行コンサルティング部
IR・SRチーム
チーム長 依馬直義


依馬直義依馬 直義(えま・なおよし)
 三井住友信託銀行株式会社 証券代行部 証券代行コンサルティング部 IR・SRチーム チーム長。
 1991年中央大学法学部卒、中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月より現職。
 2013年6月の株主総会における国内外の機関投資家の議決権行使状況についてまとめた。

 本年の特徴としては、国内機関投資家の議決権行使ガイドライン自体に大きな変更はなかったものの、海外機関投資家の議決権行使に大きな影響力を与える米大手議決権行使助言会社のISS(Institutional Shareholder Services)が取締役選任議案について、「監査役設置会社の取締役会に社外取締役の選任を必須」とするガイドラインに変更した影響を受けて、社外取締役の選任に注目が集まった。また、監査役選任議案については、特に社外監査役の独立性がクローズアップされ、反対を行使する機関投資家が増えた。機関投資家から、株主総会における議決権行使という手段を通じてコーポレート・ガバナンスの強化を求める声は一層高まっている。

 1.議決権行使率

 弊社(三井住友信託銀行)に証券代行業務を委託している会社のうち、2013年6月に株主総会を開催した上場会社の集計データによれば、議決権行使率(前日集計ベース)は全体で5割半ばとなった。所有者別にみると、信託銀行9割、外国人7割、個人3割強となった。

 2.本年6月総会のトピックス

 (1)取締役選任議案

 最大の注目点は、社外取締役の選任であった。米大手議決権行使助言会社のISSは、既に1年前からガイドラインの変更を予告し、実際、「監査役設置会社の取締役会に少なくとも1名の社外取締役が選任されない場合、経営トップに反対を推奨する(ただし社外取締役の独立性は問わない)」とした。このため、社内取締役のみで取締役会が構成されていた企業では新たに社外取締役を導入する事例が相次いだ。特に外国人持株比率の高い企業では、ガイドライン変更の影響を受けて海外機関投資家からの反対行使が増えると予想されたことから、新たに社外取締役を選任するケースが目立った。一方、社外取締役の選任を見送った企業では、経営トップの取締役選任に対する賛成の比率が前年に比べて低下するケースもあった。なお、ISSは社外取締役候補者に対して反対を推奨しない場合でも、その候補者を「関係のある社外者」(Affiliated Outsider)に分類し、独立性がない事実を海外機関投資家に伝えることがあった。

 (2)監査役選任議案

 社外監査役の独立性についても、特に注目が集まった。監査役の任期は4年であるため、2009年の前回改選時においては当該候補者に対する議決権行使結果の開示がなかったが、開示府令の改正に伴い2010年以降は制度的に開示されるようになった。反対比率の高さが目立つケースもあった。ISSは、社外取締役の場合には独立性を問わないため、社外取締役を選任してさえすれば特段問題としないが、社外監査役の場合には必ず独立性をチェックするため、反対を推奨するケースが多くみられた。社外監査役の独立性については、海外機関投資家ばかりでなく、国内機関投資家も重視していることから、より厳しい基準を適用するケースが増えた。特に、[1]大株主・親会社の出身者、[2]主要な借入先の出身者、[3]主要な取引先あるいは株式持合い先の出身者、[4]顧問契約のある弁護士あるいは会計士事務所の出身者、[5]親族等に該当する場合には、反対行使する事例が数多くみられた。なお、ISSは賛否推奨の判断にあたって、情報ソースとして招集通知ばかりでなく、有価証券報告書や独立役員届出書といった開示情報も参考にしている模様であり、当該企業が寄附金を供与している地方公共団体あるいは大学の出身の候補者に対しては独立性がないと判断し、反対を推奨するケースもみられた。

 (3)退職慰労金支給議案

 退職慰労金支給については、対象者に社外取締役あるいは社外監査役が含まれている場合に、国内外の機関投資家を問わず反対を行使するケースが多くみられた。ただし、ISSは、社外取締役あるいは社外監査役が含まれていても支給額が個別開示され、それが過大でない場合、例外的に賛成をする事例もあった。一方、グラスルイスは、今年から打ち切り支給を含む全ての退職慰労金支給議案に反対を推奨するガイドラインに変更したため、賛成推奨はみられなかった。

 (4)賞与支給議案

 日本企業の場合、支給金額を過大と判断して反対を行使する機関投資家はほとんどいないが、業績・株価パフォーマンスや不祥事の発生等を考慮して反対を行使するケースがみられた。また、グラスルイスは、社外取締役および社外監査役に対する支給が多額の場合には反対としていたが、今年から社外取締役および監査役(社内外を問わず)に支給する場合、反対を推奨すると変更したため、社内監査役に対する支給にも反対推奨するケースがみられた。

 (5)買収防衛策議案

 買収防衛策の有効期間は3年に設定するケースが多いが、今年の総会で更新期限が到来する買収防衛策が増えたことから、前年よりも上程される議案数が増えた。米大手議決権行使助言会社によれば、賛成推奨した事例は、ISSが1社のみ、グラスルイスは1社もなかったとのことである。

 【表】買収防衛策議案に対する議決権行使助言会社の賛成推奨の推移

 2010年2011年2012年2013年
ISS 0社 2社 1社 1社
グラスルイス 0社 3社 0社 0社

    (出所)弊社調べ


 3.議決権行使助言会社のガイドライン変更

 (1)ISS

 ISSは、取締役選任議案について前述のとおり、「監査役設置会社に対し、総会後の取締役会に社外取締役

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