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裁判官:東京は勤勉、大阪は人情、地方はじっくり検討?

全国各地の裁判所を歩いて感じるそれぞれの特色

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 赤川 圭

赤川 圭弁護士赤川 圭(あかがわ・けい)
 2000年3月、東京大学法学部卒。2003年10月、司法修習(56期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、現事務所入所。
 2009年9月から2010年3月までフランス パリのHerbert Smith法律事務所勤務。2010年4月、当事務所復帰。2013年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。
 7月17日に当事務所が元赤坂に移転した。赤坂見附交差点のそばで、国道246号線に面する。私のオフィスからは外堀(弁慶堀というらしい)に浮かぶ船と藻がよく見える。日中この貸し舟に乗って釣りをしている人たちは普段どんなことをしているのだろうと興味を惹かれる。また、あの藻の下にどんな生き物がいるのだろうなどと想像し始めて、皇族に生物研究に熱心な方が多い理由を垣間見た気がした。あまり人の関心を惹くような紹介になっていないが、それ以外にも見所はたくさんあると思うので、お近くにお越しの際は是非お立ち寄りを。

 閑話休題

 私は裁判の仕事が多い。弁護士なのだから当たり前だと思われるかもしれないが、当事務所のような各法律分野に特化した弁護士が集まる事務所では実はそうでもない。私は、そういった法律分野の一つとして裁判(紛争解決)を扱っている。そのおかげで、日本国内各地の裁判所へ出張する機会が頻繁にある。それで諸国を漫遊していて思うことの一つが、裁判官にもお土地柄みたいなものが少なからずあるということである。それがどういうことなのか、少し書かせていただく。

 想像しやすそうなところとして、東京は山積みの事件を勤勉実直にこなそうとしている人が多いが、同じように事件数が多いであろう大阪はなんとなく人情で解決しようという傾向がやや強いような印象がある。名古屋などはまた別で、ややさばさばしている印象がある。地方に行くと、じっくり事件の内容を検討する人が多いように思う。誤解を恐れずに言えば、地方ではある程度落ち着いて考える余裕があるのではないかと思うし、周りの自然環境等で心のゆとりも大きくなったりするのではないかと思う。もちろん私の独自の印象なので、勝手な思い込みもあると思うし、個々の裁判官の人となりはこんな言葉で言い表せるはずもないので、不快に思われる方がいたら、なにとぞご容赦いただければと思う。

 他方、地域によって、裁判官が触れている情報が違うということは客観的に言えるかもしれない。インターネット等の情報通信が発達したとはいえ、地域によって、裁判官が仕事上または日常接する情報の内容、量が違うので、判断の背景となる情報にも差が生ずることは当然にある。たとえば、金融商品を巡る裁判などは、今でこそ多数提起され、各所の裁判所で審理されるようになったが、少し前までは金融機関の本店が集中している東京で見られる程度だった。したがって、同種事件の審理の経験があるのは主に東京の裁判所ということになりがちだった。裁判官(や我々弁護士)は、特別な経歴を持っている人を除き、特殊な知識経験を、事件処理を通じて身につける人が多いので、実際に事件処理をした経験がある人かどうか、そういう人が近くにいるかどうかで、だいぶ予備知識にも差が出る。

 判断を仰ぐ側に立つと、その裁判官の人となりを(勝手に)察して、こういうものの伝え方がよいだろうと考えてみたり、予備知識に相当するような情報をどの程度こちらから提供すべきか、煙たがられて反感を買わないかなど、案外いろいろ気を使ったりするものである(実際に奏効しているかどうかは、はっきりわからない。)。

 日本の裁判官は、数年に一度転勤があり、特に若手の裁判官は地域的な制限なく異動がある。これは、裁判所の機能の均質化を図ることを一つの目的としているといわれている。しかしながら、裁判官も年齢が上がれば、家庭の事情等を考慮して転勤の地理的範囲が限定されてくることが多く、そういう年次の高い裁判官が一定の地域にとどまることで、その地域の傾向みたいなものがある程度出てくることはあると思う。また、裁判官を支える書記官、事務官等の職員は、裁判官ほど異動が多くないので、そういった職員の気質に影響されるところもあるのかもしれない。というわけで、私は、個々の裁判所というのは、ある程度その地域の特殊性を反映した場所だということを頭に置きながら、諸国を周っている。

 日本全国ほぼどこでも日帰りに

 ところで、諸国を漫遊と書いたが、実際のところ、それほど優雅なものではない。

 最近は、交通アクセスがよくなって日本全国ほとんどどこでも日帰りできるようになった。景気もしばらく悪かったので、それが原則のようになった気すらする(そういった意味でも、景気は早く回復してほしい。)。裁判といっても、一日に裁判所で行う手続のためにそれほど長時間拘束されることはそれほどない。ただ、そうは言っても緊張感をもって臨み、集中力を使うものなので、前後に余裕があるに越したことはない。しかしながら、ぎりぎり行って帰ってくることはできるという詰まったスケジュールを自分でもついつい組んでしまって、後悔することがしばしばある。例えば、午前7時に羽田を出て、札幌で裁判に出席して、千歳空港で立ち食い寿司を食べ、午後2時半に東京で会議に出席して夜中まで働いた日など、もうこういったスケジュールは控えようと思ったが、つい先日も、午前7時半に東京駅を出て、大阪で裁判に出席して、帰りの新幹線でたこ焼きを食べ、午後2時半に東京で会議に出席するということがあった。あれほど後悔したのに30分しか改善していないことに気がついたときには、自分の学習能力のなさを悔いた。

 世の中には、この程度はものともしないビジネスマンもいらっしゃるだろうと思うが、私はこれくらいでもう十分である。これ以上交通の便がよくなったらと思うと、いささかぞっとする。

 夏の暑さ、水分補給を

 今年は、事前予想では猛暑といわれていたように思うが、今のところ予想に反して気温がそれほど上がっていないようだ。昆虫類の発生も少なめなようで、近所でもセミの声が少なめな気がするし、カブトムシ、クワガタも少ないようだ。夏休みであるし、こういった象徴的な存在にはもっと活躍してほしいが、人間にとっては多少暑さが控えめなほうがよいか。小学校の子供は、先生から外でたくさん遊ぶように言われたとうれしそうに言っていたけれど、あわせて水分補給をしっかりするようにともご注意いただいたらしい。皆様におかれても、お体にはくれぐれもお気をつけて。

 赤川 圭(あかがわ・けい)
 2000年3月、東京大学法学部卒。2003年10月、司法修習(56期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、現事務所入所。
 2009年9月から2010年3月までフランス パリのHerbert Smith法律事務所勤務。2010年4月、当事務所復帰。2013年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。
 著書に「Introduction to Japanese Business Law & Practice」(LexisNexis Hong Kong 2012年12月)(共著)、「IBA国際仲裁条項ドラフティング・ガイドライン(日本語訳)」(日本仲裁人協会 2011年12月)(共同プロジェクト)、「日本ビジネス法実務」(アンダーソン・毛利・友常法律事務所編著、法律出版社(中国)、2009年5月)、「新会社法の読み方−条文からみる新しい会社制度の要点−」(社団法人金融財政事情研究会 2005年)(共著)がある。