2013年09月11日
「経営陣の特別背任に相当する案件があると確信し、最初は内部通報制度を利用しようと思いました。しかし、その時……」
1千億円を超えるオリンパスの損失隠しは2011年、月刊誌ファクタの報道で発覚した。同社は過小資本に陥り、元会長らが逮捕されて今年7月に有罪判決を受けた。今月4日には英国の捜査当局からの訴追も発表された。
取材に応じた社員は、会社の不正経理に気づき、当初、「コンプライアンスヘルプライン」という同社の内部通報制度を使おうと思ったという。会社は、法令違反と思われる行為があれば、社のコンプライアンス室に内部通報するように社員に呼びかけていた。
2010年11月には、尖閣諸島沖での中国船と日本の巡視船の衝突を映したビデオが動画サイト「ユーチューブ」で暴露された事件で、投稿者の海上保安官が突き止められてしまう出来事があった。「ネットを使った告発も結局はリスクが大きい」と思った。
ファクタの記事を執筆したフリーのジャーナリストの山口義正さんの著書『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』によれば、情報源のオリンパス社員から不正経理疑惑について初めて相談を持ちかけられたのは2009年8月。決定的な証拠となる取締役会などの資料を渡されたのは2011年2月ごろのことだったとされている。
記事は2011年7月、情報源を伏せて世に出た。当時の社長はそれを読んで会長ら担当役員の責任を追及しようとした。ところが10月、その社長が逆に解任された。不正を追及しようとする人間は社長でさえ解職するという会社の強い姿勢を前に、社員は「いずれにしろ、内部通報制度の利用は無理」と改めて思ったという。
「そもそも、現行の公益通報者保護法は、トップが関与した犯罪に関しては、効力がないということです。オリンパスも、取締役会、監査役会、監査法人など、会社法で定められた強力なチェック機構が全て無力化されました。それだけ、日本企業のトップが持つ経営権は強いのです。ですから、最初、内部通報制度を利用しようとした自分は、全く認識が甘かったと思いますし、浜田さんの事件のおかげで、目を覚まされましたと言ってよいでしょう」
「結果からしても、信用の置けるジャーナリストへの匿名通報を選ばざるを得なかったし、今でもそれが最良の方法だったと思っています」
■オリンパス不正経理の内部告発の経緯
2006年4月、公益通報者保護法施行
2009年3月、オリンパス社員の浜田さんが内部通報への報復人事で人権救済申し立て
2010年12月、尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で海上保安官が処分される
2011年7月、オリンパスの巨額不正経理疑惑を月刊誌ファクタが報道
2011年10月、社内で疑惑を追及した社長をオリンパスが解任
2013年6月、消費者庁が公益通報者保護制度の実態調査の結果を公表
2013年7月、巨額不正経理でオリンパスに有罪判決
2013年7月、内閣府の消費者委員会が公益通報者保護制度について「法改正を含めた措置の検討を」と意見
公益通報者保護法は2006年4月に施行された。施行5年後をめどに施行状況を見直すとの付則があり、2011年3月11日、内閣府の消費者委員会は消費者庁に実態調査を求めた。消費者庁が昨年から実態調査を進め、今年6月、報告書を公表した。これを受けて、内閣府の消費者委員会が7月23日、「法の改正を含めた措置を検討されたい」と消費者庁に求める意見書をまとめた。
具体的には、同法に違反して内部告発者に報復した企業について「会社名を公
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください