メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

活発化の兆し見えるアクティビスト株主

松原 大祐

 今年の株主総会におけるアクティビスト(物言う株主)の動きは、表面上、限定的だったが、水面下では、活動が再び活発化する兆しが窺える。外国人株主の株式保有比率は東証上場企業で約3割に増えたとされ、国内の機関投資家も独自の基準で経営への賛否を決めるようになった。いつ株主提案を受けても不思議ではない時代になったといえる。松原大祐弁護士が、2013年の株主総会シーズンにおける株主提案の状況を振り返り、来年の株主総会シーズンは、アクティビスト株主による株主提案が増加すると予測する。

 

株主提案とアクティビスト株主の動向
~2014年の定時株主総会シーズンへ向けて~

 

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 松原 大祐

1. はじめに

松原 大祐(まつばら・だいすけ)
 2000年京都大学法学部卒業、2001年弁護士登録、2012年デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 M&A、会社関係訴訟をはじめコーポレート分野の案件を幅広く取り扱う。

 我が国においても、2008年のリーマン・ショック後、沈静化していたアクティビスト株主の活動が、今年になって、アベノミクスとともに、再び活発化する気配が感じられる。アクティビスト株主の活動の活発化は、世界的な傾向であり、これは世界的な金融緩和政策の広がりと軌を一にするものと言えよう。もっとも、2013年の株主総会シーズンにおいて、アクティビスト株主による株主提案、或いは委任状争奪戦が世間を賑わすことはなかったが、これは如何なる理由によるものと考えられるであろうか。
 本稿においては、2013年の株主総会シーズンにおける株主提案の状況を振り返るとともに、近時のアクティビスト株主の動向について概説する。

2. 株主提案権とは?

 株主総会においては、会社が、総会の目的事項(議題)(会社法298条1項2号)及びその提案内容(議案)(会社法298条1項5号、会社法施行規則63条7号)を決定し、株主にその賛否を問うのが一般的である。しかしながら、これだけでは、株主は、自ら、総会の目的事項を提案し、他の株主にその賛否を問うことはできない。
 そこで、会社法は、一定の場合に、株主提案権を認めている。即ち、公開会社においては、①総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、一定の事項を総会の目的とするよう請求することができ(議題提案権)(会社法303条2項)、また、②総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、総会の目的事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知するよう請求することができる(議案の通知請求)(会社法305条1項)。議題提案権及び議案の通知請求によって、株主は、株主総会において、自ら、議題を提案し、その議案の内容を予め他の株主に知らしめることが可能となるのである。

 ※ なお、株主提案権としては、これらの他に、株主総会の場において、既に総会の目的とされている事項につき、議案(修正動議)を提出することができるとする議案提案権もある(会社法304条)が、本稿においては、議題提案権及び議案の通知請求を念頭に置いている。

 

3. 2013年の株主提案の状況

 2012年の7月から2013年の6月までに株主総会を開催した上場会社(新興市場を除く)において、株主提案を受けた会社は27社であり、また、提案された議題と議案数の内訳は以下のとおりである(資料版商事法務341号乃至351号及び353号参照)。

定款一部変更 121
剰余金の処分 6
自己株取得 1
取締役の選任 5
取締役の解任 10
監査役の選任 2
監査役の解任 5
役員退職慰労金贈呈 1
役員報酬改定 1
その他 6

 株主提案を受けた会社数は、これまでで最も多かった2012年(2011年7月から2012年6月まで)の38社と比較すると減少しているが、2007年(2006年7月から2007年6月まで)以降、毎年30社前後の会社に対して株主提案がなされている状況に変化はなく、この傾向は今後も継続するものと思われる。

 これらの株主提案のうち、ベリテにおいて、「監査役解任の件」及び「監査役選任の件」が可決されているが、それ以外の会社においては株主提案は全て否決されており、7社において株主提案が可決された2012年からは大きく減少している。
 株主提案に係る議案としては、定款変更議案が圧倒的に多いが、その中でも、例年同様、電力会社各社に対する、原発反対の立場からの定款変更議案が相当数を占め、例えば、関西電力に対しては、5件26個の定款変更議案が提案されている。それ以外の定款変更議案としては、「役員報酬の個別開示」や「白票の取扱い(白票を会社側提案については賛成、株主提案については反対とすることの禁止)」に関するものが散見される。
 定款変更議案以外の株主提案としては、剰余金の処分、取締役及び監査役の選解任を内容とする提案が多い。

 なお、これらの株主提案のうち、アクティビスト株主によるものは、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドによる日本たばこ産業(JT)に対する株主提案のみであり、2013年の株主総会シーズンにおいて、アクティビスト株主による株主提案の増加は見られない。

4. アクティビスト株主の動向

 活動の活発化にもかかわらず、2013年の株主総会シーズンにおいて、アクティビスト株主による株主提案の増加が見られなかったのは如何なる理由によるものであろうか。

 その理由としては、まず、株主提案権を行使するための要件との関係が考えられる。上述のとおり、株主提案権を行使するためには、総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き保有している必要があるが、これは、株主提案権の行使の日から遡って6か月前から株式を保有している必要があると解されている。加えて、株主提案権は、株主総会の日の8週間前までに行使しなければならない(会社法303条2項、305条1項)。従って、株主総会の日の8週間前までに、6か月の継続保有要件を充たす必要があり、例えば、2013年6月下旬に開催される株主総会において、株主提案権を行使しようとする株主は、2012年10月頃から、総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を継続保有している必要がある。そうすると、2013年の株主総会シーズンにおいて、アクティビスト株主は、継続保有要件を充足できず、株主提案権を行使できなかった可能性もあろう。

 また、近時、アクティビスト・ファンドは、会社に対して、「水面下で」増配、自社株買い、或いは、不採算事業の売却等を要求する傾向にある。このような傾向とアクティビスト株主の活動が活発化した時期が相俟って、本年の株主総会シーズンにおいては、未だ目立った動きに発展しなかったということも考えられよう。

5. Third Point v. Sony

 2013年5月、米国のアクティビスト・ファンドであるサードポイントがソニーに対して、そのエンターテインメント子会社の分離上場を提案し、世間の注目を集めたのは記憶に新しいところである。(その後、ソニーは、8月にこの提案を拒否している)
 なお、このサードポイントは、2012年に米国Yahoo!に委任状争奪戦を仕掛け、学歴詐称問題で当時のCEOを辞任に追い込む等、非常にアグレッシブなアクティビスト・ファンドとして有名である。

 仮に、サードポイントが今年に入ってからソニーの株式を取得したということであれば、2013年6月の株主総会においては、継続保有要件を充たさず、株主提案権を行使することはできなかったものと推測される。他方、サードポイントは、来年の株主総会において株主提案権を行使できるよう、他社名義で保有するソニー株式の一部を自社名義に変更する手続を始めたと報じられており、今後の動向が注目される。

6. 終わりに

 ソニーとサードポイントの例は、2013年の株主総会シーズンにおけるアクティビスト株主の動向の典型例といえそうである。活動を再び活発化させつつあるアクティビスト株主は、会社に対して、水面下で、増配、自社株買い、或いは、不採算事業の売却等を要求するものの、未だ株主提案、或いは委任状争奪戦という目立った動きには至っていない。しかしながら、来年の株主総会シーズンにおいては、会社側の対応が不十分であるとした、アクティビスト株主による株主提案が増加するのではないかと思われる。

 企業側においては、現時点で株主提案等の兆候がないとしても、株主提案に係る株式取扱規則等の見直しをしておく必要がないか、確認しておくべきであろう。また、配当政策等についても、株主の理解を得られる水準にあるか、改めて検証しておく必要があるものと思われる。