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「本人の努力不足から残念な結果」とオリンパス社内メール、社員が提訴

奥山 俊宏

 精密機器メーカーのオリンパスが自社の社員の浜田正晴さん(53)について「本人の努力不足から人事評価が残念な結果となっている」などと断ずる電子メールを本部長、部長、営業所長ら幹部社員に送ったのは違法な名誉棄損にあたるとして、浜田さんは21日、同社を相手取って、名誉を回復するためのメールを全社員に送ることを求める訴訟を東京地裁に起こした。また、「メールが撤回されないままでいるため、名誉を侵害され続け、孤独な職場環境に置かれている」として、笹宏行社長を相手取って330万円の損害賠償を求めた。浜田さんは「社内には会社が流したデマが今も真実かのように残ったまま」と指摘し、スムーズに他の社員と仕事ができるように「デマ」の是正をしてほしい、と話している。

▽筆者: 奥山俊宏

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記者会見する浜田正晴さん=21日午後5時32分、東京・霞が関で
 浜田さんは2007年6月、会社の内部通報制度に基づき、企業倫理に反すると思われる上司の行動を会社のコンプライアンス室(ヘルプライン)に通報した。ところが、その情報が上司や人事部長に伝えられ、浜田さんは同年10月、不本意な役職に異動(配転)させられた。浜田さんはこれを不服として、会社を相手取って2008年2月に訴訟を起こした。この経緯は2009年2月27日、読売新聞朝刊の一面で「告発者名を社内窓口明かす オリンパス社員『制裁人事』」「近く東京弁護士会に人権救済を申し立てる」などと大きく報じられた。

 訴状によると、オリンパスの総務部は2009年3月2日、総務部名で「社員の人権救済申立てに関する一連の報道について」と題するメールを社内の本部長、部長、支店長、営業所長に送った。そのメールは「報道内容に対する会社の見解について補足させて頂きます」「管轄する部門の社員に対し、本件報道に動揺せず、安心して業務に専心するようにご指導頂きたくお願い申し上げまます」と前置きした上で、「当該人事異動は、ヘルプラインに対する通報とは関連がありません」「異動後の人事評価についてですが、当該職場における評価の公正さに問題はなく、この社員につきましては本人の努力不足から、残念な結果となっています」と記載した。

 しかし、その後、裁判で浜田さんは全面的に勝訴した。最高裁で2012年6月に確定した東京高裁判決は、浜田さんに対する人事評価について「著しく低い評価を受けるべき事情があったことを認めるに足りる証拠はない」「評価は不当に低いといえる」「配転前においては合格点を下回る評価を受けたことはなかったのであるから、上司らの不法行為がなければ、賞与支給額の減額を受けることがなかったものと推認できる」と判断した。同判決はまた、「いわば制裁的に配転命令をしたものと推認できる。そして,控訴人が本件内部通報をしたことをその動機のーつとしている点において、配転命令は、通報による不利益取扱を禁止した社内の運用規定にも反するものである」などと指摘し、配転(異動)を無効とした。

 この確定判決を前提に、浜田さんの側は、21日に東京地裁に提出した訴状の中で、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」と定めた民法723条に基づき、2009年3月2日の総務部名のメールを撤回するメールを全社員に送るよう会社に求めた。

 また、笹社長について、浜田さんの側の訴状は、メールを放置して浜田さんの名誉を侵害し続け、浜田さんや会社に重大な損害を及ぼしていると指摘。「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めた会社法429条の規定に基づき330万円の損害賠償を請求した。

記者会見する浜田正晴さんと弁護士=21日午後5時32分、東京・霞が関で
 浜田さんは21日の提訴後に記者会見を開き、「大企業が社員を中傷するメールを社内に流した」「デマが訂正もされないために、そのデマを信じ込んでいる社員がいる」などと指摘。「一度でも組織に刃向った社員は、たとえデマであっても、ずっと受け入れ続けなくてはならないのでしょうか」と
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