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原子力規制委員会 設置法の要求は実現されているか

今後の原子力規制委員会のあり方

西脇 由弘

 原子力規制委員会は、その発足から1年あまりの短期間に、新しい規制基準を作り、安全審査を再開するなど、懸命の努力を重ねてきたことは評価に値する。しかしその一方、効率を優先するあまり、原子力規制委員会設置法やその趣旨を実現できていない点も散見される。原子力は、その潜在的危険性を顕在化させないため、慎重な規制が行われるべきであり、原子力規制委員会は、法の要求を着実に実施しつつ、誤りのない規制行政が実施できる体制の構築に努めなければならない。

西脇 由弘(にしわき・よしひろ)
 1979年3月、京都大学工学部原子核工学科修士課程修了。2011年4月、工学博士(東京大学)。
 1979年4月、通商産業省入省。資源エネルギー庁、米NRCへの出向、経済産業省 原子力安全・保安院 原子力発電検査課長などを経て、2006年4月、東京大学大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 客員教授。2012年4月から東京工業大学 グローバル原子力安全セキュリティ・エージェント教育院 特任教授。

1. 三条委員会である原子力規制委員会に求められるもの

 1956年に原子力委員会が新設され、推進と規制が同居した形で、我が国の原子力の規制が開始された。原子力委員会は当初、「行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし」と定めた国家行政組織法の第三条に基づき、省の外局である庁と同格の行政機関とする案もあったが、結局、「第三条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる」と「審議会等」の設置を定めた国家行政組織法の第八条に基づく特殊な諮問機関とすることとされた。1978年に、推進と規制を分離するため、原子力委員会から原子力安全委員会が分離・新設されたが、八条機関という位置づけはそのまま維持された。

 現在の原子力規制委員会は、国家行政組織法の三条に基づく委員会に格上げして2012年に新設された。当時与党であった民主党政府案では八条機関として新設されることとされていたのであるが、自民党の原子力規制組織に関するプロジェクトチーム(自民党PT)の検討の結果、規制機関を三条委員会とする原子力規制委員会設置法(以下設置法と略す)案が議員立法法案として策定された。政府案の対抗法案の形で自民党と公明党との共同法案として国会に提出され、この自公案を基として設置法が可決成立した。なお、自民党PTでは、米国の独立規制委員会である米国原子力規制委員会(NRC)を参考としつつ、原子力規制委員会を制度設計した。

 三条委員会は、昭和23年の国家行政組織法の成立時点では、「審査、判定を行う等、独立公正に行う必要がある場合」、「委員に各方面の代表者を選び、専門的知識を集める必要がある場合」、及び「その所掌事務が政策的でない場合」に適当である組織形態であると考えられていた。多くの三条委員会はその後、統合整理されていった。

 現存する三条委員会も、関係省庁や事務局との関係で、多種多様な位置づけや組織運営が行われている。原子力規制委員会は、同じ三条委員会である公正取引委員会とは異なり、設置法に基づいて設立され、また、内閣総理大臣の「所轄」に属するという条文がなく、実態は別として法規定上は内閣や他省庁からの独立性が高いと見ることができる。また、事務局を原子力規制庁と称してはいるが、国家公安委員会とは異なり警察庁を「管理」するのではなく、「原子力規制庁長官は、委員長の命を受けて、庁務を掌理する」とされており、委員長は長官を介して事務局に対する命令を行うこととなっている。更に、原子力規制委員会は審判機能を持たず、これを司法にゆだねている。

 三条委員会がモデルとした米国の独立規制委員会制度については、我が国と比較すると委員会数も多くまた歴史が長いことから、多くの分析がなされている。独立規制委員会に対する批判としては、組織体制の充実と規制客体との安定な関係の構築に伴って「規制の虜」となりやすい、比較的少数の規制客体を対象とするために視野狭窄に陥りがちであるなどの意見がある。また我が国でも過去の経験から、三条委員会は内閣の管理が及ばず独立性が高いがゆえに、説明責任を十分に果たさず、独走に陥る危険性があるとの指摘がある。

 原子力規制委員会設置法案の審議において、設置法案提出者の塩崎恭久議員は、これらの原子力規制委員会の問題点を懸念したのであろう、「あらゆることを事前に決め、そして、裁量の余地をできる限りなくして透明な行政をやっていくということが大事」と答弁している。換言すれば、原子力規制委員会は、法に基づき、裁量の幅の狭い行政を、情報を公開し説明責任を果たしつつ行うことが求められているのである。

 なお米国では、大統領がNRCの委員長を指名し、また現職の委員長に代えて別の委員を委員長に指名することもでき、NRCのヤッコ前委員長は、この大統領の権限を背景として委員長の辞任に追い込まれた。我が国でも、委員長及び委員は内閣総理大臣が任命することとなっているが、委員長と委員はそれぞれ別個の官職であり、委員長を委員とするには一旦委員長を罷免することになるので、現在の設置法では委員長を降格させることはできないと解せられるが、委員会の独立性を守りつつ内閣の統制を強める観点から、米国流の制度設計をとることも可能である。

 本稿においては、上記のような三条委員会の特質や原子力規制委員会の法的性格を踏まえつつ、原子力規制委員会が設置法の要求を未だ具体化していないもののうち、主要なものについて論述する。

2. 設置法の要求は実現されているか

 (1) 研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること

 文部科学省の所掌事務であった原子力利用における研究者及び技術者の養成及び訓練のうち、大学における教育及び訓練を除き、安全の確保に関するものが、原子力規制委員会の所掌事務とされた。

 原子力分野の人材育成に当たって、およそ安全に関連しないものはないといっても過言ではなく、原子力規制委員会には、我が国の原子力に関連する研究者及び技術者の養成を行う責務がある。

 従来これらの業務は、日本原子力研究開発機構が担ってきていたが、原子力安全基盤機構の統合に伴い同機構が所有する原子力安全研修センターを拡張・活用し、緊急時対応や核セキュリティを含めて、我が国の原子力関係者の人材育成に当たる必要がある。

 (2) 独自財源の確保

 設置法附則において、財政的観点からの独立性を高める観点から、独自財源を確保することが求められている。

 IAEAの安全基準においても、各国の規制機関は、その責任を果たすために十分な財政的資源が確保されなければならないとされ、その資金は、政府からあるいは事業者からの費用回収に依ってよいとされている。

 公開されている情報の範囲では、原子力規制委員会では独自財源についての検討はなされていない。現在、全ての原子力発電所が停止しており、検査による手数料収入は多くは見込めないであろうが、再稼動に向けて設置許可変更の申請が提出されており、この傾向は続くと思われる。将来の見通しが出てきたことから、少なくとも、独自財源の確保の枠組みについては検討を開始する必要がある。

 (3) 40年運転期間問題

 当初の政府の原子炉等規制法改正案では、原子炉の運転期間を40年に限り、1回だけ20年間延長できるとされていた。この原子炉等規制法改正案の審議が国会で行われている最中に、原子力学会から40年運転期間は技術的な根拠がないという提言がなされたこともあり、修正法案提出者は、40年というのは科学的根拠がないいわば政治的に出された期間で、法文上は40年という期間は全くニュートラルであり、原子炉等規制法の条文変更は国会では行わないが、委員会が発足した後に専門的な観点から正しく判断し、この期間をゼロベースで見直すことを要求している。

 まもなく運転期間の延長が申請される可能性があり、既存の高経年化対策とどのような整合をとるのか、40年の運転期間について法改正をするのか否か、委員会は待った無しの判断をせまられている。

 (4) 原子力規制委員会と事務局の原子力規制庁の関係

 自民党PTでの設置法案の検討段階で、米国のNRCにならい、原子力規制委員会をチェックする監査機関を法定すべきではないかとの意見があった。

 これに対し、原子力規制委員会と原子力規制庁の関係は、旧原子力安全委員会と旧原子力安全・保安院との関係、すなわち前者が後者の外部監査機関であるのと同じ関係にあり、原子力規制委員会が原子力規制庁を内部監査する機能を持つことから、あえてその他の監査機関を法定して置かなくともよいとし、監査機関を法定しなかった。

 NRCでは、委員会の事務局である運営総局の職員が委員等へ事前に根回しすることが許されず、委員等と運営総局の職員は接触禁止とされており、公開の委員会の場で初めて委員と運営総局が議論するなど、透明性を確保した上で、委員会による事務局の監査機能の実が挙がるよう運営がなされている。

 設置法案の検討段階では、自民党PTはこのような原子力規制委員会の運営形態を想定していたのであるが、現状では、災害対策指針、規制基準、安全審査などにそれぞれ担当委員を割り当て、その検討過程に委員が直接関与し、原子力規制庁を直接指揮し一体となって業務を行っており、委員会は内部監査機能を果たしていない。原子力規制委員会発足後、規制基準の策定など多くの業務が集中した過渡期から、原子力安全基盤機構の統合などにより人員も充実し、将来の業務の見通しもでき安定期の入り口に差し掛かっている現在、委員等のスタッフを充実させ、委員会が原子力規制庁の監査を行う慎重な業務遂行形態に段階的に移行すべきであろう。

 なお、担当委員方式は、委員個人に責任を集中させ明確化が図れる反面、事務局の責任感を低下させる可能性があり、この点からも注意が必要である。

 また、設置法上、原子力規制庁の長官は、委員長の命を受けて庁務を「掌理」することとされている。「掌理」とは、法律上その権限に属せしめられた事務をその権限に基づき専管して処理することである。担当委員が、個別の業務について原子力規制庁の職員を直接指揮することは、設置法上予定されておらず、長官が庁務を「掌理」していない状態になっているともみられ、事務局の体制の立て直しが求められる。

 (5) 原子力規制委員会は合議制委員会として機能しているか

 原子力規制委員会は、設置法にあるように、判断の慎重さや公正さ、民主的正統性が担保されるよう、5人の委員のうち3人の多数で決する合議制を採用している。委員長や委員は、人格が高潔であり専門的知識及び経験ならびに高い識見を有するものから選ばれ、それぞれのバックグラウンドから、原子力規制庁の規制活動について、高い立場から議論し議決することが求められている。

 しかし、現在の原子力規制委員会では、原子力規制庁の提示した案にコメントを発するだけで、委員同士や委員と原子力規制庁との丁々発止の議論が行われていない。

 また、原子力規制委員会で議論されていない事項も多い。以下に事例を示そう。

  1.   原子力安全基盤機構の原子力規制委員会への統合について、同機構の組織文化を維持しつつ如何にして専門家集団の活用を図るかなど、統合後の原子力規制委員会の機能強化について議論がなされていない。
  2.   規制の結果は、事業者の活動の結果として表れるが、原子力の安全確保は単に厳しい規制だけでは達成できず、事業者の自主的安全向上の努力を促すことも重要である。規制の実を挙げるために、原子力産業協会や原子力安全推進協会などを含め、また各種学会の役割も念頭に、我が国の原子力の安全確保にかかわる体制全体が如何にあるべきかについて真剣に議論すべきであろう。また、原子力規制委員会は安全文化の重要性を指摘してはいるものの、被規制者のトップとの面談など形式主義に走るのみで、IAEAの各種報告書やガイドラインをもとに我が国においても策定されている安全文化ガイドラインや原子力安全文化評価項目、また、従来から実施されている保安規定に基づく定期安全レビューにおける安全文化の劣化評価などの既存の手段を、如何に現状に合わせ規制に活用していくかなど、安全文化の具体的な実現方法について議論がなされていない。
  3.   安全目標については、その必要性などについては申し訳程度に委員会で議論されたが、昨今の委員会の議論をみると、委員会で議論するよりも原子炉安全専門審査会(炉安審)に任せて議論してもらう方がよいとの意見が出ている。安全目標は、規制の根幹をなすものであり、また原子力産業のリスクがどの程度であれば国民に受容されるかという社会との契約の観点もあり、NRCでは、政策声明という高い位置づけのものとされていることからも分かるように、原子力規制委員会で議論すべき重要課題である。原子力規制庁が、安全目標の決定までのストラテジィの素案を示せないからといって、炉安審に丸投げするのでは、何のために原子力規制委員会が存在しているか分からない。

 また、原子力規制委員会は、個別の案件について担当委員方式を採用しており、これも委員会の議論を活発化させない大きな要因になっている。旧原子力安全委員会では、炉安審や核燃料安全専門審査会(燃安審)の部会などの担当委員を決めても、炉安審等の審議をオブザーブするにとどめ、委員会では、担当委員は審査会等の審議の状況を報告する役割を担い、炉安審等の独立性確保と、委員会での議論の活性化を図っていた。現在の委員会の担当委員方式の運営は、委員会の審議において、担当委員以外の意見を無視することになりがちであり、担当委員の独走を許す可能性がある。

 (6) 独立性と中立性に関する誤解

 これまでの原子力規制委員会の議論や原子力規制庁が策定した各種取り決めを見ると、委員会は、独立性と中立性について、事業者や推進側から離れることと、とらえているようである。

 NRCの独立性は、政治的組織的独立性と専門技術的独立性から構成されるとされている。原子力規制委員会は、前者の独立性は設置法で担保されていることから、獲得すべきは、事業者などの意見に左右されることなく、自ら判断することを可能とする専門技術的独立性である。

 中立性は、米国では証明が困難なことから使われず、代わって、行政機関の調査等のインプットや審議会などの専門家の構成が、偏りがなくバランスがとれていることが必要とされている。すなわち、ステークホルダーの意見をよく聞き、広範な調査を行い、偏りなく専門家による判断を聞き、その上で、行政機関として独立して判断を下すことが求められているのである。

 原子力規制委員会は、広く社会からの意見を聞き、そして高められた専門技術的専門性によって自ら判断することが重要であり、これによって、「孤立」ではなく、真の「独立」した存在となりうる。

 (7) 炉安審と燃安審の問題

 設置法により設置が義務付けられていた炉安審について、自民党PTから背中を押され、ようやくその設置の検討が開始された。しかし、原子力規制委員会の検討において、炉安審等の機能や役割について、設置法の趣旨と異なる議論がなされていることを指摘したい。

 原子力規制委員会は、「原子力規制委員会が原子力安全規制に関する判断に一義的な責務を有することから、原子力規制委員会に置かれる原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会は、会議や議事録の公開を含む透明性を確保した会議運営の下、原子力規制委員会の判断を代替することなく、その判断に対する客観的な助言を行うに留めるものとすること」という参議院の附帯決議があることから、炉安審等は従前と名称は同じであるものの、その位置付けと性格づけが従前のものとは異なっていると主張している。

 そもそも、法が何を求めているかは、法文と国会答弁によらなくてはならない。また、附帯決議は、法に附帯する国会の意思を示すものであり、その意味するところは、法や国会答弁に立ち戻って附帯決議を解釈しなければならない。

 まず、法については、設置法と旧の原子力委員会及び原子力安全委員会設置法では、条文の順序等は異なるものの、炉安審等についての法文の記載ぶりは同一である。したがって、設置法は、炉安審等の役割などを変えることは予定していない。

 また、国会答弁については、平成24年6月18日の参議院環境委員会において、谷岡郁子委員の「事務局が専門性を持つのであるから炉安審をアリバイつくりに利用されないよう廃止すべきではないか」との趣旨の質問に対し、法案提出者として横山北斗衆議院議員は「委員会の委員長等は専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者であるものの、原子力は多岐にわたり、委員長等で全てをカバーするのは難しいことから、日常的な規制が滞ることがないように審議会等を常設して担わせる」と、炉安審等の役割などは従前と変わりない旨の答弁を行っている。

 その上で参議院において前記の附帯決議がなされたのであり、この附帯決議が意味するところを法案と法案提出者の答弁とを合わせ考えると、「炉安審等の審議の透明性を確保した上で、原子力規制委員会は炉安審等の結論を丸呑みすることなく責任主体としてもう一度よく判断しなさい」という、いわば当たり前のことを言っているに過ぎない。

 なお、この横山議員の答弁は、原子力の技術分野は多岐にわたり、5人の委員長等では全分野をカバーできず、多くの専門家からなる審査会に専門的見地から検討させるという炉安審等の性格を明確に述べており、現在原子力規制委員会がとっている担当委員法式は、この答弁の趣旨から逸脱しているのではないかと考えられる。

 もっとも、従前は、旧原子力安全・保安院の外部監査(諮問と答申)を旧原子力安全委員会が行う際に、両者は組織が異なることから、旧原子力安全・保安院が行ったことを更にもう一度旧原子力安全委員会が行う、いわゆるダブルチェックが行われていたが、原子力規制委員会と原子力規制庁が一体化されたことから、炉安審等の機能や役割は変わらないとしても、同じ事を2度行うダブルチェックは生産的ではない。米国NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)のように、安全審査や基準の策定・改正にあたっては、ACRSが日常的に運営総局の業務遂行を監視(内部監査)し、専門的な点について多数のACRSの委員の目を経たものについて、高い立場から委員会で審議するというスタイルをとるべきであろう。従来ダブルチェックが旧原子力安全・保安院と旧原子力安全委員会の両者の審議を直列で行っていたことから、2倍の時間を要したのであるが、炉安審等が原子力規制庁の業務の常時監査を行うことによって、同時並行に作業が進められることになる。

 もとより、原子力の利用には潜在的危険が伴い、それゆえ慎重な判断が必要とされる。このため、各国の規制機関は諮問委員会を持っており、米国の原子炉安全諮問委員会(ACRS)、フランスの原子炉専門委員会(GPR)、ドイツの原子力安全委員会(RSK)などが存在する。

 我が国においても、炉安審が、米国のACRSをモデルとして、昭和35年5月の国会の附帯決議に基づき昭和36年に設置された。その設置の背景には以下のような事情があった。すなわち、原子力委員会(当時、原子力安全委員会は原子力委員会から分離されていなかった)が、コールダーホール型原子炉などの審査で、学会の疑問や意見を無視し独走したため、原子力の審査には多数の専門家と慎重な審議が必要であり、また、審査にあたって法的位置づけが明確ではない専門委員に多くを依存していたため責任を明確にする必要があると考えられた。こうした事情を背景として、国会審議の結果、法定の審査会として炉安審は設置された。また、昭和53年にも、原子力安全委員会の原子力委員会からの分離・新設に伴い所要の法改正が行われた際に、当初の政府案では、炉安審等は法定化されず政令で定められることとなっていたが、衆議院における修正により従来通り法律に規定されることとなった。

 なお、炉安審等を復活させるにあたって、福島第一原子力発電所事故との関連を考察しておくことは重要であり、国会事故調査委員会報告書から、炉安審等の関連の指摘をみてみる。

 まず、安全審査については、昭和41年の設置許可における福島の基準地震動が「著しく甘い」ものとの指摘はあるが、国会事故調は、当時としてはやむをえない面があったとしている(国会事故調 報告書64頁)。

 津波については、国会事故調査報告書は、2009年に、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会の専門家会合において、貞観地震で非常に大きな津波が来ていたことが委員から指摘されたにもかかわらず、旧原子力安全・保安院は対策をとらなかったことを指摘しているが、これは炉安審とは関係がない。

 また、SBO(全交流電源喪失)については、旧原子力安全委員会のもとに設置された原子力施設事故・故障分析評価検討会が、長時間の全交流電源喪失を考えなくてよい作文づくりを電気事業者に依頼したことが問題だと国会事故調は指摘している(同501頁)。同検討会は、旧原子力安全委員会のもとに直接設置されており、炉安審のもとには位置づけられてはいない。現在、地震地盤関係や基準作成などでもたれている原子力規制委員会の有識者会合のような、法に基づかない一時的に設けられる私的諮問機関のようなものであった。

 上記のように、国会事故調によれば、炉安審は福島事故との関連はないものとされており、むしろSBOのような基準を作成・改正する場合、法定の審査会のもとで責任を持たせることが重要であることを示唆する内容を含んでいる。炉安審は、安全審査と共に、安全審査の手引きを策定してきたが、今後は、米国のACRSにならい、安全基準類の策定・改正に係る事務局の監査も、その機能や役割に加えるべきであろう。なお、炉安審等という法定の審査会を設けるのであるから、現在行われている法に根拠がない有識者会合などは、炉安審等の下で責任を明らかにして実施する必要がある。

3. 設置法の実現

 原子力規制委員会は、遅まきながら、設置法で要求されている原子力安全基盤機構の原子力規制委員会への統合に踏み出した。しかしながら、設置法が自民党と公明党の法案をもととして作られたにもかかわらず、同委員会が民主党政権下で新設されたことから、前述のように、設置法の要求や法案提出者の意思を実施していない事項も多く、この点については、昨年の平成25年12月3日に自民党の原子力規制に関するPTの「原子力規制行政強化に向けての緊急提言(注)」においても指摘がなされている。原子力規制委員会には、設置法とその趣旨に立ち戻り、透明性が高く裁量の幅が狭い規制行政を行うようことが求められる。更に原子力規制委員会は、我が国の原子力に係わる有識者を糾合し、過ちが許されない原子力規制行政の重層的な体制の整備に努めるべきである。

 また、我が国では合議性委員会についての経験も浅く、原子力規制委員会の活動を注視しつつ、原子力規制委員会の外部監査的機能を持つ国会がその在り方に関して議論を更に活発化させる必要があろう。炉安審等は、設置は法定されているが、米国ACRSとは異なり、機能や役割は法定されていない。原子力規制委員会の3年以内の内閣府への移行などの設置法改正を含めて、今後国会が果たす役割は大きい。

 ▽注:「原子力規制行政強化に向けての緊急提言」、自由民主党 原子力規制に関するPT 2012年12月3日、https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf125_1.pdf