株主の権利弁護団の現在の活動 (2)
2014年01月24日
弁護士 影山 秀樹
⑴ 事件の概要
川崎重工業株式会社は、防衛省が発注する陸上自衛隊新多用途ヘリコプター開発事業に関し、下記契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
記
平成24年4月頃、本件契約の受注過程で不正が行われているとの情報を得た防衛省が調査した結果、技術研究本部の職員が、企画競争(複数の者に提案書の提出を求め、その内容について審査し、契約の相手方として最適な者を特定する方法)において川崎重工の提案が採用されるようにするために不正を行っていた事実を確認し、この調査結果を東京地方検察庁に説明した(その後、防衛省は平成24年9月27日に刑事告発をしている)。
平成24年9月4日、東京地方検察庁が競争入札妨害の疑いで防衛省の技術研究本部や川崎重工など複数の箇所を一斉捜索したことにより、川崎重工は、本件契約の企画競争入札の段階で、防衛省技術研究本部に所属する2等陸佐らから不正に入札情報の提供を受けて落札したものであることが明るみに出た(以下「本件官製談合事件」という)。
具体的には、捜査の結果、防衛省技術研究本部に所属する二等陸佐ら佐官級幹部は、平成23年9月の入札公示に先立ってメーカー側の提案内容を省内で審査するポイントをまとめた評価基準書の内容やメーカー選定の日程、ライバル社である富士重工業株式会社の内部資料などの情報を川崎重工に漏洩したことにより公正な入札を害したことが判明した。
そして、上記2等陸佐らは、本件契約に至る過程で入札の公正を害する行為をしたとして官製談合防止法(入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)違反の罪で起訴され、平成25年1月18日、東京簡易裁判所において罰金100万円の略式命令を受けた。
また、川崎重工は、平成25年2月8日付けで防衛省から本件契約を無効とされ、同月13日付けでその旨の通知を受けた。
これにより川崎重工には、上述した本件契約に伴う受注額35億2800万円に加えて上記ヘリコプターの研究開発費及び信用毀損の損害として合計46億2800万円の損害が発生した。
⑵ 弁護団の活動
弁護団は、株主からの委任を受け、平成25年7月24日付け請求書により、川崎重工に対して、本件官製談合事件について十分な調査を行い、取締役であった者らに善管注意義務違反となる事実が存在すると判断した場合は責任追及等の訴えを提起するよう請求した。具体的には、取締役であった者らが本件官製談合事件に故意に関与し、又はこれを知り得たにもかかわらず看過黙認して本件官製談合事件を放置した過失及び談合防止のための適切な内部統制システムを構築しなかった過失を責任原因として、これらの過失があると判断した場合には責任追及の訴えを提起するよう請求したものである。
川崎重工は、弁護団に対し、平成25年9月20日付けで不提訴理由通知書を送付し、取締役であった者らの責任を追及する訴えを提起しないことを通知してきた。
⑶ 今後の展望
弁護団は、現在、川崎重工の取締役であった者らの責任を追及する株主代表訴訟を提起する準備をしている。
川崎重工の取締役会議事録(取締役会議事録閲覧謄写許可申立事件が神戸地裁に係属中)や上記官製談合防止法違反事件の刑事記録を入手・分析して、取締役であった者らの責任を立証する予定である。
⑴ 事件の概要
第一生命保険株式会社は、以下ア~ウのとおり、特定の政治家に対し、パーティー券の購入、接待、選挙応援等の「利益供与」を行い、その特定政治家から生命保険会社が「便宜供与」を受ける関係=「企業と政治家との癒着関係」を築いていた疑いがある。
会社によるこのような政界工作活動は、政治資金規正法等の法令や会社の定款、取締役の善管注意義務等に違反する違法なものであると思料されるため、会社法847条3項・同423条1項等に基づき、当時の担当取締役(現在の代表取締役)に対し、株主代表訴訟を提起した。
弁護団が問題視している第一生命の活動は以下のとおりである。
ア 一部特定議員からのパーティー券購入
第一生命は、山本明彦金融副大臣をはじめ、生命保険会社に協力してくれる一部国会議員(以下「協力議員」という。)にランク付けをし、第一生命ないし生命保険業界にとって有利な取り計らいを受けることを目的として、協力議員のパーティー券を計画的・継続的に購入し、代金として、平成19年7月1日から平成23年3月31日の間に、少なくとも合計5161万7000円を協力議員の側に対して支払った。
イ 協力議員への接待
第一生命は、協力議員を接待し、第一生命ないし生命保険会社への協力を要請した。平成19年7月頃から平成23年1月末日までの期間に、このようにして支出された接待費の総額は、少なく見積もっても448万5913円を下らない。
ウ 選挙応援
第一生命は、平成21年8月の総選挙で、協力議員の選挙応援のため、担当取締役らにおいて、本来の会社業務を放置して、9日間、17都道府県に存在する選挙事務所を行脚した。
このような選挙応援によって、第一生命が受けた損害は、期間中に対応する担当取締役の報酬を含め、合計185万4955円である。
⑵ 弁護団の活動
弁護団は、株主からの委任を受け、平成23年2月25日、第一生命に対して、代表取締役の責任を追及するよう提訴請求を行った。
しかしながら、第一生命は、代表取締役に対する責任追及の訴えを提起しなかった。
そこで、弁護団は、平成23年6月27日、当時の担当取締役に対して、責任を追及する株主代表訴訟を提起した(なお、第一生命から違法に支出されたと考えられる金額が訴状記載の金額よりも多いことが後で判明したため、平成24年6月18日、請求の趣旨を拡張している)。
本訴訟は、生命保険会社が、特定の政治家に対し、パーティー券の購入、接待、選挙応援等の「利益供与」を行い、その特定政治家から生命保険会社が「便宜供与」を受ける関係=「企業と政治家との癒着関係」が許されるのかどうかを問う初めての代表訴訟としての意義を有する。
訴訟の審理が進行する中で、第一生命は、一部国会議員について、毎回10枚以上のパーティー券を購入していたにもかかわらず、実際には1、2名しかパーティーに出席していなかった可能性が明らかになった。仮にそれが事実であるとすれば、参加予定のない人数分のパーティー券の購入は、パーティー券購入を仮装した政治家個人に対する「寄付」として政治資金規正法に違反する可能性があるため、パーティーへの実際の参加人数を明らかにすべく、弁護団は、第一生命が所持する政治資金パーティーへの参加状況が記載された文書について、文書提出命令を申し立てた。
⑶ 今後の展望
しかしながら、東京地裁においては、対象文書が会社の内部文書であること等を理由に、文書提出命令申立てが却下されたため、弁護団は、東京高裁に即時抗告を行った。
弁護団が文書提出命令申立ての対象とした文書は、本件における担当取締役の責任を明らかにする上で必要不可欠な文書であることから、弁護団は、抗告審において、文書提出命令申立てが認められるための主張・疎明活動を行っている。
株主代表訴訟の審理は、文書提出命令申立てに係る抗告審の審理が東京高裁に係属中のため、事実上中断した状態となっている。文書提出命令申立てについての最終的な判断を待って、株主代表訴訟についての本案の審理が再開される予定である。
⑴ 事件の概要
NTN株式会社は、平成23年7月26日、公正取引委員会から、日本精工株式会社、株式会社不二越及び株式会社ジェイテクトの事業社と自動車用ベアリング及び産業機械用ベアリングの販売に関してカルテルを結んでいた疑いで立入調査を受け、平成25年3月29日に独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)3条に違反する行為があったとして、排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という)及び72億3107万円もの課徴金納付命令(以下「本件課徴金納付命令」という)を受け、同年7月1日までに同額を支払った。
本件排除措置命令によると、NTNは、平成16年頃から、ベアリングの原材料である鋼材の仕入価格の値上がり分をベアリングの販売価格に転嫁するため、日本精工、不二越及びジェイテクトと共同し、各社の本社営業責任者級の者による会合、本社営業部長級の者による会合、販売地区ごとの支社・支店の長等による会合、需要者ごとの営業担当者による会合を開催することなどを通じ、ベアリングの値上げの方針や需要者ごとの値上げの要請の内容等についての情報交換を行った上、値上げ価格又は値上げ率を決定し、NTN、日本精工、不二越及びジェイテクトの4社がこの決定に対し相互に拘束していたことが、違法行為にあたるとされた。
公取委が認定した違反事実の概要は以下のとおりである。
NTNは、平成22年5月下旬から同年8月下旬までにかけて、日本精工、不二越及びジェイテクトと共同し、同年7月1日以降に納入する産業機械用ベアリングの販売価格について、同年6月時点におけるNTN、日本精工、不二越、ジェイテクトの販売価格から、一般ベアリングにつき8パーセントを、大型ベアリングにつき10パーセントを、自動車用ベアリングの販売価格については、同年6月時点における4社の販売価格からベアリングの原材料である鋼材の投入重量1キログラム当たり20円を目途に引き上げることを合意し、公共の利益に反して産業機械用ベアリング及び自動車用ベアリングの販売分野における競争を実質的に制限したものである。
⑵ 弁護団の活動
ア 株主代表訴訟の提起
弁護団は、株主からの委任を受け、平成25年7月1日付け請求書により、NTNに対して、取締役であった者らに対し、責任を追及するよう提訴請求を行った。 しかし、NTNは、同年9月2日までに取締役であった者らに対する提訴を行わなかった(NTNは、公正取引委員会に対して、カルテルに関わっていないと主張し、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令について、審判請求を行っている)。
弁護団は、同日、取締役であった者らに対して、NTNが被った課徴金72億3107万円の損害賠償を求める株主代表訴訟を提起した。
イ 取締役会議事録閲覧謄写許可申立
弁護団は、株主代表訴訟に先立ち、その準備として、平成25年7月22日、NTNの取締役会議事録閲覧謄写許可申立てを行った。
同申立事件は、現在、大阪地方裁判所に係属中である。
⑶ 今後の展望
ア 株主代表訴訟提起後の進捗状況
平成25年11月13日、第1回口頭弁論期日が開かれた。
被告らの詳細な主張は、次回期日以降に行われる予定である。
イ 弁護団の立証予定
弁護団は、本件カルテルに関する公正取引委員会の記録及び刑事記録等を入手して分析した上で、今後の主張・立証を行う予定である。
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