2014年01月23日
▽取材・執筆: Marina Walker Guevara、Gerard Ryle、Alexa Olesen、Mar Cabra、Michael Hudson、Christoph Giesen
▽この記事は、国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists)が作成した原稿をもとに和訳・再構成したものです。
▽関連リンク: 国際調査報道ジャーナリスト連合のウェブサイト
ICIJは、タックスヘイブンでの会社設立などを代行する専門業者2社の内部資料250万件の電子ファイルを独自に入手し、そこに含まれている顧客企業の株主や役員の住所、氏名、旅券などの情報を分析した。
「トレンド・ゴールド・コンサルタンツ」という名前の企業の記録には、温家宝(ウェン・チアパオ)前首相の息子、温雲松氏の名前があった。記録によれば、同社は、温家宝氏が現職首相だった2006年秋、欧州の金融大手クレディ・スイス香港支店の支援でバージン諸島に設立・登記された。雲松氏はただ一人の取締役に就任し、全ての株を取得したが、記録では、同社は2008年までに解散している。
雲松氏は投資家として知られ、2012年には、アジア最大の人工衛星運営会社となることを目指した国有企業「中国衛星集団有限公司」の会長になった。ICIJの取材申し入れに対し同氏側から反応はなく、クレディ・スイスの広報担当者は守秘義務を理由に「コメントできない」と話した。
「エクセレンス・エフォート不動産開発」という会社の記録には、習近平(シー・チンピン)国家主席の姉、斉橋橋(チー・チアオチアオ)氏の夫である鄧家貴氏の名前があった。同社は2008年3月にバージン諸島で設立され、鄧氏は全株式の50%を所有し、取締役に就任している。
1980年代に全国人民代表大会(全人代)の常務委員長を務めた故・彭真(ポン・チェン)氏の息子、傅亮(フー・リアン)氏が、1997年から2000年にかけてバージン諸島で設立された「サウス・ポート開発」など少なくとも5社を支配していたことを示す記録もあった。2000年にフィリピンのホテルを買収するために同社を利用した。
このほかに、最高実力者だった故・鄧小平(トン・シアオピン)氏、元首相の李鵬(リー・ポン)氏、前国家主席の胡錦濤(フー・チンタオ)氏の親族による法人設立についての情報もファイルに含まれていた。全人代の現職代表2人の名前もあった。
氏名 | 中国の政治指導者との関係 | タックスヘイブンにある関係企業 |
---|---|---|
鄧家貴 | 習近平・国家主席の義兄 | Excellence Effort Property Development Ltd. |
温雲松 | 温家宝・前首相の息子 | Trend Gold Consultants Ltd. |
劉春航 | 温家宝・前首相の娘婿 | Fullmark Consultants Ltd. |
胡翼時 | 胡錦濤・元国家主席のいとこの子 | Charter Best Investments Ltd. |
Morich International Investments Ltd. | ||
Universal Yield Investments Ltd. | ||
李小琳 | 李鵬・元首相の娘 | Tianwo Holdings Ltd. |
Tianwo Development Ltd. | ||
呉建常 | 鄧小平氏の娘婿 | China Nonferrous Metals Holdings (Cook Islands) Ltd. |
Join Truth Ltd. | ||
車峰 | 戴相竜・前中国人民銀行総裁の娘婿 | Cyber Touch Ltd. |
Worthope Innovative Company Ltd. | ||
王軍 | 王震・元国家副主席の息子 | CITIC Petroleum Ltd. |
王之 | 王震・元国家副主席の息子 | Motivator Ltd. |
傅亮 | 彭真・元全人代常務委員長の息子 | Greenway Property Group Ltd. |
Hua Tian Enterprises Ltd. | ||
Powers Mix Group Ltd. | ||
South Port Development Ltd. | ||
Perfect-Union Overseas Inc. | ||
葉選基 | 葉剣英・元全人代常務委員長のおい | Qiao Xing Holdings Ltd. |
Qiao Xing Universal Telephone Inc. | ||
Wu Holdings Ltd. | ||
王京京 | 王震・元国家副主席の孫娘 | Express Journey Ltd. |
粟志軍 | 粟裕・元人民解放軍総参謀長の孫 | Glorious Crown Asia Pacific Development Ltd. |
Globe Palace Holdings Ltd. |
(ICIJ作成のリストから抜粋。呉氏が役員を務める2社はクック諸島、ほかはすべて英領バージン諸島に所在。)
中国の国営企業がタックスヘイブンを活用していたことも浮かび上がっている。
記録によれば、中国の3大国有石油会社は、バージン諸島の数十社とつながっていた。そのうちの一社「中国石油天然ガス集団」の幹部、李華林氏はバージン諸島の2社の取締役だったが、昨年8月、「重大な規律違反があった」として中国当局の取り調べを受けたと報じられた。
国有の海運大手「中国遠洋運輸」も2000年にバージン諸島に会社を設立した。その取締役として名前があった宋軍氏は、のちに着服と汚職の疑いで2011年に裁判にかけられ、資金流用の目的でバージン諸島に会社を設立したと指摘された。
米クレアモント・マッケンナ大学の政治学者、裴敏欣教授は、中国の指導者層の財産が国内外で膨らんでいることについて「違法ではないかもしれない」としつつも、「政府の権力の秘密利用や利益相反にしばしばつながっている」と指摘している。
中国の人たちは、欧米の銀行家、会計士、投資家たちからもタックスヘイブンへと背中を押されてきた。
国際的な法律事務所キャドワレーダー・ウィッカーシャム・タフトの中国担当、ロッキー・リー弁護士は、中国人のタックスヘイブン利用について「それを押しつけたのは、私たち外国人だ」と言う。「中国の規則と規制に対する外国人投資家の漠然とした不安に対応するためだった」
タックスヘイブンでの会社設立を代行するシンガポールの専門業者「ポートキュリス・トラストネット」の資料によれば、同社はKPMGなど欧米の5大会計事務所のすべてと営業会議を開いていた。中国、台湾、香港の顧客のために、大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は400以上の会社をタックスヘイブンにつくるのを支援し、スイスの金融大手UBSは1千件以上のタックスヘイブン案件の組成にかかわった。
「極秘親展」と記された2005年の営業メモに
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