2014年02月05日
西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉
金融庁は、平成26年1月27日に貸金業法施行令および貸金業法施行規則等の改正案(以下「本件改正案」という)を公表した。本件改正案は、グループ会社間で行われる貸付けや、合弁事業において共同出資者から合弁会社に対して行われる貸付けについて、一定の範囲で貸金業法に基づく規制の適用対象から除外することを内容とするものである。後述のとおり、現行の法制度の下でも、一定の資本関係を有する会社の間で行われる貸付けについては、解釈によって貸金業規制の対象外と整理されてきたが、本件改正案によって、より広い範囲の貸付けが貸金業規制の対象外として取り扱われることになり、グループ会社間や合弁会社への資金融通を柔軟かつ円滑に行いやすくなることが期待される。
以下では、現行の貸金業規制および本件改正案の内容を概観した上で、本件改正案が、(1)企業グループ内のキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)および(2)合弁会社に対する資金供給の実務に与える影響を解説する。
「貸金業」を営もうとする者は、貸金業法に基づく登録を受けなければならない(貸金業法3条1項)。そして、「貸金業」とは「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介」を「業として」行うこととされており(同法2条1項)、この「業として行う」とは、「反復して社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のものである場合を指す」と解されている。また、判例上、反復継続の意思をもって貸付けを行えば足り、必ずしも報酬利益を得る意思や、実際にそれを得たことは要せず、貸付けの相手方が不特定多数であることも要しないとされている。
そのため、ある当事者が複数回に亘って(すなわち、反復して)貸付けを行う(あるいは、そのような意思を有して貸付けを行う)場合には、その行為が「貸金業」に該当し、登録を受けた上で、一定の書面交付などの行為規制に服する態様でないと貸付けを行うことが認められない可能性がある。また、実務上、いわゆる「貸付金」あるいは「ローン」の名目で行われる場合に限らず消費貸借により資金の授受が行われる場合には、貸金業規制の対象となるという考え方が一般的であり、企業グループ内での資金融通などについても貸金業規制の適用関係が論点となりうる。
この点、一定の資本関係を有する会社の間での貸付けが貸金業規制の対象となるかという論点について、これまでにノーアクションレターなどを通じて概ね次のような金融庁の解釈が示されている。
上記(1)および(2)の金融庁の考え方は、「業として行う」ものではないという解釈を前提としているものと考えられ、実務のニーズに一定の配慮をした運用であると評価することができる。
もっとも、上記(3)~(5)のような場面でも貸金業の登録を行うことなく貸付けを行うことが認められるようにしてほしいという実務上のニーズが存在している。一方で、上記(3)~(5)のような場面も借入人を保護するために貸付けを行う者に貸金業規制を適用する必要性が(上記(1)および(2)の場面と比べても)高いとはいえないように思われ、また、現行の貸金業法の解釈として、上記(1)および(2)については貸金業に該当しないとする一方で、上記(3)~(5)について貸金業に該当すると整理する理論的根拠は明確ではないと言わざるを得ない。このような状況から、グループ会社間で行われる貸付けなどに関して、貸金業規制を緩和するための立法的な対応も望まれていたところである。
そして、金融庁・財務省を事務局とする「金融・資本市場活性化有識者会合」が平成25年12月13日に取りまとめ、公表した「金融・資本市場活性化に向けての提言」では、「アジア各国における企業の資金調達・貸出等の一層の円滑化」の項目の一要素として、「本邦企業の資金管理の効率化の観点からは、本邦企業の海外拠点を含めた企業グループ全体としての最適な資金管理(キャッシュマネジメント)システムの構築に資するよう、規制の見直しを検討することが必要である」ということが提言された。かかる提言を受け、立法的な対応として提案がなされたのが、本件改正案である。
前述のとおり、本件改正案の中心的な内容は、(1)グループ会社間で行われる貸付けと(2)合弁事業において共同出資者から合弁会社に対して行われる貸付けについて、一定の範囲で貸金業規制の適用対象から除外することである。
まず、(1)の類型について、具体的には、ある会社等(会社、組合その他これらに準ずる事業体をいい、外国におけるこれらに相当するものを含む。以下同じ)と当該会社等の子会社等(会社等がその総株主の議決権の過半数を保有する会社など会社法上の「子会社」に相当するもの。ただし、会社法施行規則3条3項3号により子会社に該当する類型は除かれている)の集団をグループと捉え、同一のグループに属する2つの会社等の間で業として行う貸付けを貸金業の対象から除外することとされている(本件改正案による改正後の貸金業法施行令1条の2第6号イ、貸金業法施行規則1条2項~4項)。なお、この特例の対象となるグループの判定基準から、会社法施行規則3条3項3号の類型を除外しているのは、そのような会社等まで対象として特例を認めると、過度に貸金業規制の適用除外範囲が拡大することにより資金需要者の利益を損なうような貸付けが行われる可能性があるからであると説明されている。
(2)の類型については、(a)2社以上の会社等(共同出資者)が共同で営利を目的とする事業を営むための契約に基づきある会社等(合弁会社)の経営を共同して支配している場合であって、(b)20%以上の議決権を保有する共同出資者から合弁会社に対して行われる貸付けであり、かつ、(c)その貸付けが合弁会社の総株主・総出資者の同意に基づくものである場合には、業として行われる場合であっても貸金業の対象から除外することとされている(本件改正案による改正後の貸金業法施行令1条の2第6号ロ、貸金業法施行規則1条1項・5項)。
CMSとは「グループを形成する企業に対して、コンピュータや通信回線などのITインフラを用いて資金の一元的な管理・運用を提供するサービスの総称」と説明されるものである。CMSの機能にはネッティング(債権・債務を帳簿上で相殺し、差額分だけ現金決済を行うこと)や支払代行などがあるが、これらと並ぶものとしてキャッシュ・プーリングの機能がある。キャッシュ・プーリングは、企業グループ内の各会社の資金管理を一元化し、ある会社の余剰資金を資金が不足する他の会社に送金したり、各会社の銀行口座の残高の配分を自動的に行う仕組みであり、企業グループ内での資金効率の向上、機動的な資金管理、金利負担の軽減などを目的とするものである。
このキャッシュ・プーリングにおいて、企業グループ内の会社間で資金を移動する行為が、貸金業に該当するものとして、貸金業規制の適用対象となるかが論点となる。現行規制の下では、前述の金融庁の解釈を前提に、過半数の議決権を保有する関係にある親子会社間または共通の100%親会社を株主とする兄弟会社間でのみ資金融通を行うか、企業グループ内の貸金業登録を行った会社を通じて資金融通を行うスキームとすることが現実的な対応となっていた。しかしながら、近時、企業グループのグローバル化が進展する中で、我が国の企業が海外現法も対象に含めたキャッシュ・プーリングの実施を検討するケースや、我が国に進出している海外企業が日本法人を対象に含むキャッシュ・プーリングを導入しようとするケースも増えてきたこともあり、親子会社間に限らず、より柔軟に企業グループ内で資金融通を実施するニーズが高まってきていた。
本件改正案による改正後の貸金業法施行令1条の2第6号イの規定により、総議決権の過半数保有などの関係でつながった企業グループ内で資金融通を行うのであれば、直接の親子関係にある会社の間で資金融通を行う場合に限らず、貸金業の登録を行うことなく資金融通を実行することが可能となる。したがって、キャッシュ・プーリング機能を含むCMSの設計について、大幅に柔軟性が高まるものと考えられる。
また、本件改正案による改正により、一定の範囲で直接の親子関係にないグループ会社間の貸付けについても貸金業規制の対象外となることは、CMS以外の場面での企業グループ内の資金融通の円滑化にもつながるものと期待される。
合弁事業においては、共同出資者が合弁会社に対して出資を行うことに加えて、資本政策、税務効果、資金供給・回収の機動性などの観点から、共同出資者が合弁会社に対して貸付けの形式で資金供給を行うニーズが生じることがある。このようなニーズが生じた場合に、共同出資者が合弁会社に対して貸付けを行うことが、貸金業に該当するものとして、貸金業規制の適用対象となるかが論点となる。合弁事業において、共同出資者と合弁会社が過半数の議決権を保有する関係にあることは必ずしも一般的ではなく(少なくとも共同出資者の一部は合弁会社の過半数の議決権を保有しないことになるはずであり)、また、前述のとおり、一定の場合には共同保有者による合弁会社に対する貸付けが親会社による貸付けと同視でき、貸金業に該当しないという解釈が金融庁から示されているものの、そのような解釈の前提となる条件を満たす場面は限定されている。そのため、現行規制の下では、共同出資者による合弁会社に対して貸付けを行おうとしても、貸金業規制により実現が困難となっている事例が見受けられた。
本件改正案による改正後の貸金業法施行令1条の2第6号ロの規定により、合弁事業において、共同出資者の全員が同意をしている限り、20%以上の議決権を保有する共同出資者は、貸金業の登録を行うことなく、合弁会社に対して貸付けを行うことが可能となる。何らかの事情で共同出資者の同意が得られない場合や、出資割合が20%未満のマイナー出資者が参加している合弁事業の場合などを除くと、上記の要件を満たすことは可能であると考えられ、実務上、相当な範囲の合弁事業において、共同出資者による合弁会社に対する貸付けが可能になるものと見込まれる。
なお、本件改正案の文言を前提とすると、実務的には、(a)どのような場合に貸金業法施行令1条の2第6号ロに規定する「共同で営利を目的とする事業を営むための契約」や「当該会社等の経営を共同して支配している場合」に該当するのかといった点や、(b)貸金業法施行規則1条1項で求められている共同出資者の全員の同意は、どの程度、包括的、抽象的なものが認められるのかといった点が解釈論として論点になるものと考えられる。これらの点については、パブリックコメントの回答などによって解釈が明確になることが期待される。
本件改正案は平成26年1
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください