2014年04月21日
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 戸田 裕典
平成24年3月5日から業務が開始された。震災支援機構の業務内容は、主に被災事業者の二重ローン対策にある。具体的には、被災したため追加の借入が必要になった事業者に対して、震災支援機構が、最長15年間の事業計画の策定を支援し、震災前の借入に対応する部分を金融機関から時価で買い取り、返済猶予、利息の減額、(場合によっては)一部債権放棄などを行い、返済負担を軽減させることによって事業を改善させる。その他、新規融資のための保証やつなぎ融資、出資などの機能も備えている。
業務開始当初は、官公庁や地元の金融機関、商工会議所、商工会を巡り震災支援機構の周知に駆け回った。いくら立派な支援制度があったとしても、利用してもらえなければ何の役にも立たない。被災地の事業者は、震災支援機構の存在を知らないことがほとんどで、国が支援制度を創設するだけでは無意味であり、制度を周知させることの重要性を強く認識した期間であった。今では、官公庁や地元の金融機関の協力もあり、事業者に対する認知度もある程度上がり、平成26年3月末時点において、相談件数はゆうに1,500件を超え、支援決定件数も400件を超えた。
私は岩手県の担当となり、主に沿岸地域に足を運ぶことで、数十社の事業者とかかわりを持たせてもらった。岩手県沿岸地域の被災状況はすさまじく、石巻沿岸部と同様、街そのものがなくなっていた。しかしながら、震災支援機構へ相談に来た、地元の多くの事業者は自分の仕事に誇りを持ち、震災からわずかな期間で、自らの力で立ち上がり、事業を再開しようと奮闘していた。被災をしていない私には想像もつかないような覚悟がそこにはあったのだと思う。被災地の事業者の話を聞き何度も目頭が熱くなった。
震災支援機構にいる間、担当先の事業者の事業計画を作成するため、何度も沿岸地域に通った。仙台駅から盛岡駅まで新幹線で行き、そこからバスで2時間半もかかる場所であったため、出張の数は必然的に多くなった。多いときは月曜日から金曜日まで滞在することもあり、仙台に住居を備えていることに疑問を持つことも少なくなかった。
事業計画策定に必要な資料が津波で流出していたり、利害関係人の調整が複雑だったりし、決して楽な仕事ではなかったが、支援を決定した事業者から感謝の言葉をかけられると今までの苦労はどこかに飛んでしまうほど充実感を得ることができた。支援決定後の事業者の明るい笑顔を見ると、私が震災支援機構に出向した意味を再確認することができ、次も頑張ろうと心から思うことができた。
震災支援機構は、メガバンクをはじめ、全国の地銀、法律事務所、監査法人、整理回収機構など様々な職場からの出身者で組織され、地域ごとにチームを組み業務を進めている。同じ案件を見ても、出身母体が異なれば様々な意見が出てくるので、私自身も非常に勉強になった。夜遅くまで案件のまとめ方について意見をぶつけあった数はもはや数えきれない。
売却損を抱えることになる金融機関も事業者を救いたい気持ちはあるものの、同時に被災者でもあり、納得できる計画でなければ、事業再生計画に対する同意を得られず、震災支援機構による支援を行うことができない。一方で、事業者の資金繰りも決して楽ではないことから、早期の支援決定が求められていた。スピードが要求される中、「Debt Debt Swap(DDS)」を利用すべきかどうか、債権放棄額をどうするか、無税償却が可能か、第二会社方式を採用するかなど、多くのことについて様々な専門家と毎日のように意見をぶつけあわせ、案件をまとめていった。一見すると対立する利害関係者を同じ方向に向かせる事業再生業務はまさに人と人のぶつかり合いであり、非常にやりがいがあった。
被災地の復興という一つの目標のもと一体となって業務に取り組むことで、震災支援機構の中だけにとどまらず、かけがえのない仲間に出会うこともできた。各人の出向期間も終わり、元の職場に戻る人間も多いが、今後も継続して付き合っていけたらと心から思っている。
みなさんに心に留めておいてほしいことがある。被災地には、防潮堤や区画整理、地域の嵩上げの問題など、まだまだ解決しなければならない問題が山積している。被災地を巡っていた者として一番恐れているのは、被災地以外の人々が震災を風化させてしまうことである。風化させてしまうことで、被災地の数々の問題解決が棚上げされ、どんどん被災地が全国から取り残されていってしまう。取り残されてしまえば、過疎化はさらに進み産業の衰退を招いてしまう。このような負のスパイラルに陥ることは避けたい。私自身も目で見て触れたことを覚えていたいと思う。
ここで、事業者から言われた言葉で強く印象に残っている言葉を書き留めておきたい。
「私たちは被害者ではない。私たちはリスクを承知でこの街が好きで住んでいた。だから、自分の力でできることは必死でやらなければ、助けてくれた人に申し訳ない。」
平成26年2月26日をもって出向期間が終了し、事務所に戻ってきたが、あれほどの大災害に見舞われても、こうした思いを胸に頑張っている人がいることを忘れないためにも被災地には通って、遠くからでも支援を続けていきたいと思う。この記事が、みなさんが被災地への関心を持つきっかけになることを願う。
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