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トラブル相次ぐプロ向けファンド、出資要件の規制強化へ

河俣 芳治

 金融庁は5月14日、プロ向けファンド「適格機関投資家等特例業務届出者」への出資要件を厳格化する制度改正案を公表した。プロ向けファンドは、本来、ベンチャー企業等の資金調達をしやすくするため、金融庁に届け出るだけで出資金を集めて運用できるようにしたものだが、お年寄りに「必ず儲かる」「元本保証」などと虚偽の説明をして勧誘したり、集めた資金を流用する悪質業者が続出したためだ。河俣芳治弁護士が改正案の概要や狙いについて詳細に解説する。

 

適格機関投資家等特例業務における出資者要件の厳格化

西村あさひ法律事務所
弁護士 河俣芳治

1  はじめに

河俣 芳治(かわまた・よしはる)
 2002年慶応義塾大学法学部卒業。2004年弁護士登録。2011年ボストン大学ロースクールLL.M.(Banking & Financial Law)修了。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2011年~2012年三菱東京UFJ銀行米州法務室(在ニューヨーク)出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。投資ファンドの組成を含む金融取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を主要な業務分野とする。

 適格機関投資家等特例業務は、簡単に言えば、本来、金融商品取引法上の登録をしなければ行うことができないファンドの勧誘行為(自己募集)と運用行為(自己運用)を、適格機関投資家等のみを相手方とすること等を条件として、より簡易な届出のみを行うことにより、金融商品取引業者とはならずに行うことができる業務類型である。平成18年に証券取引法が改正され金融商品取引法となった際(以下「平成18年の金融商品取引法の改正」という)に初めて、組合等のファンドが行う勧誘行為(自己募集)と運用行為(自己運用)が金融商品取引業の対象に含まれることになったことと同時に、金融イノベーションを阻害しないよう、いわゆるプロ向けファンドについてはより簡易な方法が可能となるような、適格機関投資家等特例業務が新設された。適格機関投資家等特例業務は、広く利用されており(注1)、金融庁の届出業者リストには、平成18年の金融商品取引法の改正の経過措置に基づくものも含め、2900を超える事業者が掲げられている(平成26年4月末日時点)。その中には、海外の事業者も多い。

 一方、適格機関投資家等特例業務の届出を行った者による一般投資家への投資被害が近年多数発生し社会問題となっている(注2)。証券取引等監視委員会は、平成26年4月18日、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、適格機関投資家等特例業務における出資者要件の厳格化等を求める建議を行った。内閣府に設置されている消費者委員会も、同月22日、適格機関投資家等特例業務における出資者の範囲の見直し等を求める提言を行った。これらを背景にして、金融庁は、平成26年5月14日、適格機関投資家等特例業務における出資者要件を厳格化することを内容とした、「適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案等」(以下「本件改正案」という)を公表した。本件改正案は、パブリックコメントの手続を経て、今後最終的に内容が確定する。本件改正案の施行予定日は、同年8月1日である。

 本稿では、適格機関投資家等特例業務の概要(注3)、これまでになされた主な改正事項、本件改正案の概要について検討したい。

2  適格機関投資家等特例業務の概要

 (1) 適格機関投資家等特例業務の趣旨

 金融商品取引法施行前の証券取引法においては、発行者が自ら行う有価証券の勧誘行為(自己募集)は、一切、証券業の対象とはされていなかった(注4)。これに対して、金融商品取引法の下では、組合等のファンドの出資持分を含む、一定の有価証券についての発行者による勧誘行為(自己募集)が金融商品取引業の対象に加えられ、組合等のファンドの出資持分の発行者(例えば、投資事業有限責任組合の場合には無限責任組合員)による勧誘行為(自己募集)は、金融商品取引業のうち、第二種金融商品取引業に該当することになった(金商法2条8項7号ヘ、28条2項1号)。

 また、組合等のファンドが行う運用行為(自己運用)についても、証券取引法においては、証券業の対象とはされていなかった(注5)。これに対して、金融商品取引法の下では、組合等のファンドが行う運用行為(自己運用)、すなわち、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて、主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、組合等のファンド等の出資者から出資を受けた金銭等の運用を行うことが、金融商品取引業の対象に加えられ、金融商品取引業のうち、投資運用業に該当することになった(金商法2条8項15号ハ、28条4項3号)。

 その結果、金融商品取引法の下では、組合等のファンドによる勧誘行為(自己募集)と運用行為(自己運用)を行う者は、金融商品取引法上の登録(金商法29条)が必要となり、各種の業規制(注6)や行為規制が課されることになった。

 もっとも、金融商品取引法の下では、プロを相手方とする一定のファンドが行う勧誘行為(自己募集)と運用行為(自己運用)については、金融イノベーションを阻害しないよう、規制の横断化とともに規制の柔軟化も図られており、特例(すなわち、適格機関投資家等特例業務)も認められている。具体的には、適格機関投資家等特例業務に係る特例の適用がある場合、金融商品取引業に係る登録義務の適用は免除され、それに代わって一定の事項を届け出れば足りることとなった(金商法63条1項、2項)。また、適格機関投資家等特例業務を行う者に対して、業規制は課されず、金融商品取引業者に適用のある行為規制の大半は免除され、虚偽告知の禁止(金商法38条1号)及び損失補てん等の禁止(金商法39条)並びにこれらの規定に係る罰則の規制が課されるのみである(金商法63条4項)。

 (2) 適格機関投資家等特例業務の要件

 適格機関投資家等特例業務に係る特例の適用を受けるための要件は、簡単に記載すると、以下のとおりである。すなわち、①1名以上の適格機関投資家(いわゆるプロ)が存在すること、②適格機関投資家以外の者が49名以下であること、③不適格投資家(匿名組合契約で適格機関投資家以外の者を匿名組合員とするものの営業者等)が存在しないこと、④ファンドが行う勧誘行為(自己募集)について、私募であり、かつ、ファンドの出資持分に一定の譲渡制限(適格機関投資家であれば他の適格機関投資家への譲渡のみ、適格機関投資家以外の者であれば出資持分の一括譲渡のみ許容)が付されていることである(金商法63条1項、金商法施行令17条の12)。

 上記①から③が適格機関投資家等特例業務の出資者に係る要件であり、特に②の要件について、適格機関投資家等特例業務の新設時の立法担当官の解説では、「基本的に適格機関投資家が出資者となるファンドであっても、当該ファンドと関係の深い一般投資家(たとえば、ファンド運営会社の役員等)も出資している場合が多いとの実態を踏まえ、そうした者が少人数に限られる場合には、一般投資家を念頭においた規制を一律に適用するのではなく、プロ向けファンドとして簡素な規制とすることとしたものである」と説明されていた(注7)。現行法上、不適格投資家に該当しないのであれば、49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲に限定はなく、例えば、個人投資家も、その保有する投資性金融資産の多寡、投資経験の有無、ファンドとの関連性を問わず出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲に含まれる。不適格投資家は、実質的に多数の一般投資家がファンドに出資しているにもかかわらず、投資家保護のための規定が適用されなくなることを避けるため、一般投資家が背後にいるような一定のファンド・オブ・ファンズを除外するための規定であり、個人投資家が直ちに不適格投資家に該当するわけではない。

 (3) 適格機関投資家等特例業務の届出

 適格機関投資家等特例業務を行う者は、あらかじめ、その商号・名称・氏名、資本金の額又は出資の総額(法人であるとき)、役員の氏名・名称(法人であるとき)等の一定の事項を管轄する財務局長に届け出なければならない(金商法63条2項、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という)236条1項)。届出事項に変更が生じたときは、届出者は、遅滞なく、変更届出書を管轄する財務局長に提出しなければならない(金商法63条3項)。変更が生じた日から1ヶ月以上、変更届出の提出が延滞した場合、届出者は、変更届出書に加えて、遅延理由書の提出を要求されるのが実務である。英文による新規・変更届出書の作成も認められており(金商業等府令236条2項、239条2項、3項)、添付書類の和訳も不要である(業等府令2条本文括弧書き)。なお、投資家が各業者の属性(登録業者と届出業者の別)に関する情報を把握できるよう、金融庁のホームページにおいて、届出をした適格機関投資家等特例業務を行う者等のリスト(届出者名、届出日、管轄財務局等)が公表されている(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という)Ⅸ-2-2(1))。

 (4) 行政当局による監督(報告徴求・検査)

 適格機関投資家等特例業務の届出者は、金融商品取引業者ではないが、行政当局による一定の監督に服する。具体的には、①適格機関投資家等特例業務の届出者(届出者と取引をする者及び届出者から業務の委託を受けた者を含む)は、報告・資料提出命令の対象となり得る(金商法63条7項)。国内所在の適格機関投資家等特例業務の届出者については、ファンドに関するモニタリング調査表の提出が求められている(監督指針Ⅸ-1-2(1))。また、②自己運用を行う適格機関投資家等特例業務の届出者(届出者から業務の委託を受けた者を含む)は、質問・検査を受ける対象となり得る(金商法63条8項)。

 もっとも、適格機関投資家等特例業務の届出者に対する行政処分の規定は置かれておらず、仮に違反があったとしても、刑罰の対象となり得るのは別論、行政処分の対象とはならない(注8)

3  これまでになされた主な改正事項

 以上が適格機関投資家等特例業務の概要であるが、本件改正案の内容を検討するにあたり、これまでになされた主な改正事項について検討したい。平成18年の金融商品取引法の改正により適格機関投資家等特例業務が新設されて以降、これまでになされた適格機関投資家等特例業務に影響のある主な改正事項は、以下のとおりである。

 (1) 平成22年の監督指針の改正

 平成22年の監督指針の改正では、適格機関投資家等特例業務に基づくものも含め、幅広いファンドに係る基礎的な情報の収集を充実・強化するため、ファンドモニタリング調査の対象項目が追加された(監督指針Ⅸ-1-2(1))。

 (2) 平成23年の金融商品取引法の改正に伴う金商業等府令の改正等

 平成23年の金融商品取引法の改正に伴う金商業等府令の改正では、新たな届出事項として、適格機関投資家等特例業務におけるファンド名(出資対象事業持分の名称)及び適格機関投資家の名称が追加された(金商業等府令238条2号、3号)。当時、適格機関投資家等特例業務として運用するファンドによる投資者被害のうち、1名以上の適格機関投資家が存在することという要件を満たしていないケースが認められたことを背景に、適格機関投資家等特例業務の要件充足を確保するため、ファンド毎に少なくとも1名以上の適格機関投資家の名称を届け出ることとされた。これまで、ファンドの投資家側の情報は届出事項として要求されていなかったが、この改正により、投資家側の情報が届出事項として提出されることになった。

 また、届出者自身の実態を把握するため、適格機関投資家等特例業務の届出書の添付書類として、届出者の登記事項証明書(個人の場合は住民票の抄本)又はこれに代わる書面の提出が追加された(金商業等府令236条3項)。海外の法人の場合には、実務上、宣誓供述書(affidavit)によって代替されることが多い。

 かかる改正を受けた監督指針の改正では、①届出事項等の確認の際の留意事項の追加(監督指針Ⅸ-1-2(2)、Ⅸ-2-1(1))、②投資者保護上問題のある行為を行っていると認められた場合の警告書の発出・警告書の様式の新設(監督指針Ⅸ-1-1(2)①)、③警告書を発出した業者等について、「問題が認められた適格機関投資家等特例業者リスト」の公表等の改正がなされた(監督指針Ⅸ-1-1(2)②)。

 (3) 平成25年の金融商品取引法の改正

 平成25年の金融商品取引法の改正では、投資運用に関する契約締結・勧誘にあたっての虚偽告知の罰則が、1年以下の懲役・300万円以下の罰金、又はその双方(法人重課2億円以下の罰金)から、3年以下の懲役・300万円以下の罰金、又はその双方(法人重課3億円以下の罰金)に引上げられた(金商法198条2号の2、207条1項3号)。かかる改正は、年金基金等を顧客とする投資一任業者であるAIJ投資顧問が、投資運用を受託していた資産の大部分を消失させ、顧客・監督官庁に虚偽の事実を報告等していたとされる、いわゆるAIJ事案を踏まえた改正の一部である。この改正は、適格機関投資家等特例業務を行う者ではなく、年金基金等を顧客とする投資一任業者等を主たる対象とした資産運用規制の見直しではあるが、その中には、適格機関投資家等特例業務のうちファンドが行う運用行為(自己運用)にも適用のあり得る、投資運用に関する契約締結・勧誘に当たっての虚偽告知の罰則の引上げも含まれていた。

 (4) 裁判所による緊急差止命令に係る一連の改正

 裁判所による緊急差止命令は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときに、申立てにより、裁判所が、金融商品取引法又は同法に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずる制度である(金商法192条1項)。裁判所による緊急差止命令は、近年まで一度も利用されることがなかったが、できるだけ事前に違反行為を抑止する観点から、平成20年(証券取引等監視委員会への権限委任)、平成22年(両罰規定の整備、財務局長等への権限委任)、平成23年(裁判管轄の拡大)と順次、本制度の利便性・実効性を向上させる改正がなされた。このような改正が進む中、平成22年11月、初めて緊急差止命令が裁判所において認められ(注9)、平成23年5月には、適格機関投資家等特例業務の要件を逸脱した届出者に対する緊急差止命令が、初めて認められた(注10)。適格機関投資家等特例業務の届出者は行政処分の対象外であることから、裁判所による緊急差止命令の利用が注目されており、平成26年度証券検査基本方針(注11)においても、金融商品取引法違反行為を行う適格機関投資家等特例業務の届出者に対する裁判所による緊急差止命令等の活用が言及されている。

 (5) 小括

 このように、適格機関投資家等特例業務については、順次規制を厳しくする方向での改正がなされてきたが、その内容は調査対象事項の拡充、届出事項の追加、エンフォースメントの改善・強化等という既存の枠組みを前提とした改正であり、適格機関投資家等特例業務の要件そのものを厳格化する等、その建て付け自体を変更するような改正はこれまでなされてこなかった。

4  本件改正案の概要

 (1) 出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲

 本件改正案は、適格機関投資家等特例業務の要件を初めて改正し、適格機関投資家等特例業務における出資者要件を厳格化するものである。すなわち、本件改正案では、適格機関投資家等特例業務の要件のうち、これまで範囲に限定がなかった、出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲に限定が加えられた。出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲は、簡単に記載すると、以下の者に限定されることになった。

 ① 金融商品取引業者等である法人

 ② ファンド資産運用業者(組合等のファンド持分の自己運用を行う者)

 ③ 当該ファンド資産運用業者と密接な関係を有する者(当該ファンド資産運用業者の役員、使用人、親会社等)

 ④ 上場会社(金融商品取引所に上場されている株券の発行者)

 ⑤ 資本金の額が5000万円を超える株式会社

 ⑥ 特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(注12)

 ⑦ 資産流動化法上の特定目的会社

 ⑧ 存続厚生年金基金又は企業年金基金(取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する有価証券、デリバティブ取引に係る権利等のいわゆる投資性のある金融資産の合計額が100億円以上であると見込まれるもの。存続厚生年金基金については、さらに、年金給付等積立金の管理及び運用の体制が整備され、かつ、厚生年金保険法上の届出がされているもの)

 ⑨ 外国法人

 ⑩ 取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する有価証券、デリバティブ取引に係る権利等のいわゆる投資性のある金融資産の合計額が1億円以上であると見込まれ、かつ、有価証券の取引又はデリバティブ取引を行うための口座を開設した日から起算して1年を経過している個人ほか

 ⑪ 取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する有価証券、デリバティブ取引に係る権利等のいわゆる投資性のある金融資産の合計額が3億円以上であると見込まれる法人ほか

 ⑫ 金融商品取引業者等である法人、上場会社、資本金の額が5000万円を超える株式会社の子会社等又は関連会社等

 ⑬ 一定の要件を満たす個人資産の保有会社

 ⑭ 海外の組合等のファンド(当該権利を有する者が適格機関投資家、又は上記①から⑬に掲げる者である場合に限る)

 なお、本件改正案では、出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲が限定されたことを除き、1名以上の適格機関投資家が存在すること、出資可能な適格機関投資家以外の者の人数が49名以下であること、不適格投資家が存在しないこと等の適格機関投資家等特例業務の要件については、変更されていない。

 (2) 経過措置

 本件改正案では、改正法の施行の際、現に、運用行為(自己運用)を行っている適格機関投資家等特例業務の届出者及び金融商品取引業者等が行う、施行日前に取得の申込みの勧誘を開始した権利についての運用行為(自己運用)については、当該行為が終了するまでの間は、なお従前の例によるとされている。すなわち、この場合には、本件改正案による出資者要件の厳格化は適用されず、出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲に限定はない。したがって、それまでの間は、従前どおり、適格機関投資家以外の出資者が上記①から⑭に該当するか否かにかかわらず、運用行為(自己運用)を継続することができる。もっとも、経過措置の適用は、施行日前に取得の申込みの勧誘を開始した権利(注13)についての運用行為(自己運用)に限定されているため、施行日後に新たに取得の申込みの勧誘を開始した権利についての運用行為(自己運用)や施行日後の勧誘行為(自己募集)については、本件改正案による出資者要件の厳格化の適用があり、適格機関投資家以外の出資者に上記①から⑭以外の者がいる場合には適格機関投資家等特例業務に係る特例の適用は認められない。

 (3) 監督指針の改正

 本件改正案では、主として、以下の監督指針の改正がなされている。すなわち、勧誘・説明態勢の主な着眼点として、①投資者が適格機関投資家等であること、及び適格機関投資家以外の者が49人を超えていないことの確認の有無、並びに②確認内容についての社内記録の作成・保存の有無が監督指針に追加された。また、モニタリング調査及び届出書類の事後確認等を通じて行う実態把握の際の留意点として、①適格機関投資家等である旨が適切に確認された者以外の者に対するファンドの勧誘が行われていないこと、②適格機関投資家以外の者が49人を超えていないこと、③虚偽告知や損失補てん等法令違反が行われていないこと、④顧客資産の流用や運用内容に係る虚偽報告等、投資者保護上問題のある行為が行われていないことがそれぞれ監督指針に追加された。

5  おわりに

 本件改正案では、投資家保護と同時に、過剰な規制により金融イノベーションが阻害されないよう配慮がなされている。もっとも、出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者の範囲の外延については更なる議論の余地もあろう。例えば、本件改正案では、ファンド運用者と密接な関係を有する者として、一定の役員、使用人、親会社等が規定されているが、その「密接な関係を有する者」の範囲は、当該ファンドの運用行為(自己運用)を行う者(例えば、投資事業有限責任組合の場合には無限責任組合員)の役員、使用人、親会社等だけを想定しているようである。しかしながら、実務上は、当該ファンドの運用行為(自己運用)を行う者の役員、使用人、親会社等だけではなく、運用行為(自己運用)を行う者のグループ会社や当該ファンドのアドバイザー等、並びにそれらの役員・使用人も当該ファンドに直接又は間接的に出資をすることがあるようである。また、本件改正案では、ファンド運用者を退職した役員・使用人が引き続き出資可能な49名以下の適格機関投資家以外の者に該当するのか明確ではないが、このような退職した役員・使用人が引き続き出資を継続する場合もあろう。これらの場面は、実際の被害例として公表されている投資者被害の場面(注14)とは質的に異なるようにも思われる。パブリックコメントの手続を経て、より合理的な範囲内で適格機関投資家等特例業務における出資者要件の厳格化がなされることを望む。

 ▽注1:平成25年3月末日時点の運用額は9兆4409億円ともいわれている(内閣府消費者委員会事務局「消費者委員会第155回本会議議事録」(平成26年4月22日開催)3頁)。

 ▽注2:独立行政法人国民生活セ

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