2014年06月16日
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 長田 真理子
少し話がそれたが、それまで法律とは無縁の日々を送っていた私が、法律の勉強を始めてからはロースクールを卒業し、司法試験を受け、司法修習を修了し、法律事務所で働く、という、法律家としてはごく一般的な道を歩んできた。働き始めてから2年ほど経ったころ、これから自分は一体どのような弁護士になるのだろう、などと考えていた矢先に、ベトナムに出向に行かないか、という話が舞い込んできた。これまでにアメリカと中国に住んでいた経験から、アジアの発展に寄与する仕事に携わってみたいという思いがあり、機会があれば是非アジアに行きたいと考えていたため、迷うことなくベトナム行きを選択した。
ベトナムといえば近頃は南シナ海での中国との衝突がニュースになり、中国系企業と間違われて日系企業の工場が襲われたなどの事件もあったが、ベトナム人は総じて親日的で人懐っこい。ベトナムにいると、タクシーに乗ったときでも街角でコーヒーを飲んでいるときでも、私が日本人だと分かると日本が好きだという話をしてくる。今年4月に電通が調査した「日本への好感度ランキング」でも、他国を抑えてベトナムがトップであったのも頷ける(なお、2位はマレーシア、3位はタイといずれも東南アジアの国である)。日本製品への信頼は厚く、車、バイク、電化製品などを筆頭に日本製に根強い人気があり、ベトナムの空港や地下鉄などの公共事業の建設を日系企業が受注すると喜ぶ。文化的な側面からの交流も年々盛んになっており、ベトナムの若者は日本の漫画やファッションやゲームが大好きであるし、昨年は日越国交40周年を記念してサッカーの親善試合などが行われ、今年はなでしこジャパンがベトナムで開催されたアジアカップで優勝した。また、立川志の輔師匠、桂文枝師匠などの落語の公演もベトナムで開催されている(余談であるが、私は最近毎月落語を観に行くのを楽しみにしている)。
あまり日本では知られていないように思うが、日本はベトナム人の留学先としても人気である。日本へのベトナム人留学生の数は毎年増加しており、現在の職場の近くのコンビニエンスストアでも名前から察するにベトナム人留学生と思われる人が複数名働いている。私は、冬場はおでんをよく買っていたのだが、おでんの具の名称が分からないようで、私がおでんを持っていくと、困った顔で「これは何ですか。」と尋ねてくる。日本語も上手だし、仕事も熱心だが、おでんの具の名称まで覚えるのは難しいのであろう(日本人の私でも見ただけでは何なのか分からない具がある)。また、最近のコンビニエンスストアは公共料金の支払いや宅配便まで取り扱っていて、母語でない日本語を駆使して幅広い業務をこなすのは苦労が多いだろうに、よく頑張っているなとついつい応援したくなる。日本でベトナム料理を提供するレストランも増えており、フォー、ベトナム珈琲、バインミーなどのベトナム料理を知っている人も多いと思う。ベトナムでも日本食はおいしくて健康的であると人気であるが、日本人にとってもベトナム料理は食べやすくおいしいものが多い。ベトナムは日本と同じように南北に国が細長く、北と南では気候や食べ物も異なり、行く先々で色々なベトナム料理を楽しむことができる。
出向中、私はベトナム最大の商業都市であるホーチミンに滞在し、現地の大手法律事務所で40名ほどのベトナム人と一緒に働かせてもらい、ベトナムに進出する日系企業を法律面からサポートする業務を行っていた。事務所で働く人は皆家族のように仲良しで、奥さんや子供などが事務所を訪れることもしばしばあり、特に小さい子供が来たときには皆が話しかけたり抱っこしたりして大はしゃぎする。ベトナム人の同僚は私に対しても家族のように接してくれ、一緒に食事に行くことは日常茶飯事であったし、休みの日に彼らの家に招待してもらったり、一緒に買い物に行ったりした。ベトナムに滞在してみてというよりは、ベトナムから日本に帰ってきてより実感するのだが、ベトナムは、非常に若くて活気にあふれた国である。平均年齢は27歳であり(日本は45歳)道端でもお店の中でも子供や若者の数が圧倒的に多い。子供に対しては皆がおおらかで優しくて、お店の中で子供が騒いでも嫌な顔をするどころか、知らない人が嬉しそうに子供を抱っこしたりあやしたりする。少子化が叫ばれる日本も、ベトナムに学ぶべきところがあるのではないかと思う。
以上、とりとめのない話を思うままに書いてしまったが、「企業法務の窓辺」にもアジアに駐在している弁護士からの寄稿が増えているように、ここ数年でアジアに駐在する弁護士の数は急増し、アジアに新たな拠点を開設する日系法律事務所も増えており(当事務所もシンガポール支店を開設した)、企業のみならず弁護士もアジアに進出する時代が来た。これから自分がどんな道を歩んで行くのか私自身も全くわからないが、また新たな道へのきっかけを見つけたら臆することなく挑戦していき、どういう形であれアジアと日本のために貢献していきたいと思う。
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