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「会社を危機から守る25の鉄則」 リーガル・アウトルックが本に

『会社を危機から守る25の鉄則』
 2014年5月20日発行
 編者:西村あさひ法律事務所
 文藝春秋

 現在の企業活動は、常にリスクにさらされている。例えばインサイダー取引や表示偽装問題などの不祥事はもちろん、サイバー犯罪による情報流出や社員の金銭流用による被害など、日々様々な法的リスクと隣り合わせで経済活動を行っている。それらのリスクを未然に察知し、被害を最小限にコントロールすることは、いまの企業にとって必須の能力といえる。また、企業活動のグローバル化に伴い、国内だけでなく国外における法律運用の知識や危機管理能力も必要だ。

 本書は、当ニュースサイトのコーナーである「西村あさひのリーガル・アウトルック」のなかから、企業の危機管理対応のあり方に関する記事25稿を選び、加筆訂正してまとめたものだ。同コーナーでは、企業法務を専門とする西村あさひ法律事務所の弁護士らが、それぞれの専門分野に関する最近の動向を取り上げ、平易に解説している。

 本書の構成は、「Ⅰ経営・訴訟編」、「Ⅱ不祥事・法令違反編」、「Ⅲボーダレス編」の三つに分かれている。
 Ⅰの経営・訴訟編では、「従業員の過労死による企業取締役の個人責任」や、「顧客情報の第三者への開示が認められる場面とは?」など、昨今重要視されているコンプライアンスに関する問題と絡めた記事が並ぶ。
 Ⅱの不祥事・法令違反編の「企業不祥事に対応する新しい視点」は、筆者が検事として長年犯罪者の心理と向き合い、また弁護士として企業による不正行為の社内調査に関与するなかで発見した、従業員が不正行為を犯すメカニズムを解説するというユニークな論考だ。

 現在、企業にとって脅威が拡大しつつあるのは、Ⅲのボーダレス編で紹介されている、企業の海外進出に伴うリスクだろう。特に米国の「海外腐敗行為防止法(FCPA)」については、筆者は「海外に進出する企業が、もっとも気をつけなければならない法律」と指摘する。FCPAは外国公務員に対する贈賄等を禁止する法律であり、米国企業でなくても、米国国内で違反行為があった場合などに適用される。たとえ日本国内で外国公務員に贈賄行為をしたとしても、米国内からのメールでの贈賄指示など、「一部の犯罪行為が米国で行われていた」と解釈されるようなできごとがあれば、積極的に「米国に管轄あり」と主張してくる。FCPAは現在米国が最も力を入れて執行している法律と言われており、企業が「袖の下」で事業をとってくるのは、あまりにも代償が大きいことを経営者らは認識すべきだと筆者は訴えている。

 企業の危機管理能力の必要性が高まる一方で、「個別の企業にとって、多種多様な類型の不祥事は頻発するものではないので、様々な形で発生する危機管理のノウハウが十分に蓄積されている企業は、実はほとんど存在しない」という。また、日々刻々と変化するグローバルな市場経済活動では、企業リスクにおける最新の動向を知ることが極めて重要だ。企業のリスク管理担当者や経営者は、自社の企業活動で起こりうるリスクの把握や、実際に問題が起きてしまったときの対応に本書を役立てて欲しい。税込価格は950円。

(加川直央)