2014年08月13日
古川孝宏さん
元銀行員の古川氏が、コンサルティング業などを営む上場企業の監査役になったのは2008年3月。社長と知り合いだったことから就任した。だが、すぐにこの会社の資金の流れに疑問を持ち、「子会社から徴収する経営指導料が多すぎる」「資産運用が多額で役員会の決議もない」などと指摘し、その違法性について経営者に質(ただ)した。経営者は「指導料は適正」「運用は会社の規定内」と真っ向から反論。古川氏の解任議案を株主総会に出してきた。古川氏が解任議案差し止めの仮処分を裁判所に求めると、会社は撤回した。だが、半年後の臨時総会で再提案。古川氏は総会で訴える道を選んだが、会社の力は強く、解任された。
それでも対立は続いた。古川氏は「異常な行動のように言われ、名誉を毀損された」と謝罪を求めて会社を提訴。また、監査のために依頼した弁護士の報酬(監査費用)の支払いも求めた。結局、会社は2012年に謝罪広告を日本経済新聞に掲載。2013年春、監査費用として請求の2割の600万円を支払った。会社側は「紛争の早期解決という観点を重視した」と説明している。
最初の論点として、「監査役は実質的に経営者によって選任され、報酬も決定される」を掲げた。形式上、監査役は株主総会で決められる。しかし、総会に上程する提案は、その会社の取締役会で決められる。取締役の大半は社内出身者が占め、実態は社長の部下というのが、ほとんどの上場企業の実態だ。このため監査役も他の取締役同様、「社長の部下でしかない」という批判が絶えない。会社法はこれに対処し、監査役に対し4年間という長めの任期や株主総会で発言する権利を与えているが、十分とは言えないようだ。古川氏はまた、論点の一つとして「監査役の権限を担保するものがない。経営者によって監査妨害にあったときの罰則規定を制定し、監査資料を容易に入手できるようにする」との項目を盛り込んでいる。
「監査役の解任議案が提出された場合、票数にごまかしがあっても調べられない」との問題点も指摘する。現状、総会の検査役を置くことも簡単ではない。古川氏は「実際の得票数を解任される側が容易に確認出来るようにする」ことを提案する。
また、監査役解任には会社法によって総会で3分の2以上の議決権数による特別決議が必要だが、総会そのものは、会社の定款を変更すれば、3分の1以上の議決権数で成立する。つまり9分の2の賛成で監査役を解任できる。古川氏はこれを問題視する。通常、持ち合いなどで会社側は半数程度の安定株主を押さえていることが多い。一般株主は、株主総会の招集通知書だけでは事情が分かりにくく、通常、総会に出席する株主は限られている。このため、現実には、解任動議の対象となった監査役の意見は極めて通りにくいと古川氏は指摘する。
株主総会での議決権行使を促そうと株主にクオカード(プリペイドカード)を配る会社があることについても、古川氏は疑問視する。株主が会社の執行部に有利な投票行動に誘導される可能性があるからだ。さらに、上場会社のコーポレート・ガバナンスなどに問題が起きた場合、証券取引所の動きが鈍いことも課題という。
特別研究会の冒頭で古川氏は二つのエピソードを披露した。一つは、
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