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豪パース研修記:世界で最も美しく、かつ、孤立した都市

西杉 英将

パース研修記:世界で最も美しく、かつ、孤立した都市

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
西杉 英将

はじめに

西杉 英将(にしすぎ・ひでまさ)
 2006年3月、早稲田大学法学部卒。2007年9月、司法修習(60期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2012年10月から2014年3月まで豪パースのClayton Utz法律事務所で勤務。
 2012年10月から2014年3月にかけて、オーストラリアのパースにある法律事務所で研修した。英語圏で研修を行いたいという意図もあり、自らオーストラリアの法律事務所での研修を希望したものの、シドニーやブリスベンなど東海岸を想像していた。このため、研修地が「パース」に決まったとの連絡を受けた時はどんな都市か全く分からず、期待と共に大きな不安を抱いた。パース行きの飛行機で、乗務員に「How long will you stay in Australia?」と聞かれ、「for one year」と答えたところ、「Oh!! Forever!! Welcome!!」と驚かれたこともあり、本当にやっていけるのであろうかと不安がさらに大きくなった。研修が始まった当初のそんな不安の気持ちを今でも鮮明に覚えている。しかし、生活していくうちにその乗務員の言葉が現実のものになって欲しいと思うほど、パースは非常に魅力溢れる都市だった。

世界で最も孤立した都市

 パースは、オーストラリア西海岸の南側に位置する、西オーストラリア州の州都である。都市圏の人口は約182万人で、規模としてはオーストラリア国内でシドニー、メルボルン、ブリスベンに次いで4番目となる。パースは、スワンリバーと呼ばれる川沿いにビジネス街が広がっており、その近辺に商店街もある。私が勤務していた法律事務所のオフィスは、そのビジネス街の中で甲子園球場の約10倍の広さがあるキングスパークのそばにあり、オフィスの窓からは、優雅に流れるスワンリバー、キングスパークの豊かな緑、区画ごとに整理された建造物の見事なコントラストを臨むことができる。それは「世界で一番美しい都市」と言われることもあるのだと納得させるものであった。

 パースは、オーストラリアの首都のキャンベラから約3000キロ、また、一番近い100万人都市であるアデレードからも約2000キロ離れている。そのため、「世界で一番美しい都市」だけではなく、「世界で最も孤立した都市」とも呼ばれることがある。

豊かな自然

 オーストラリアの魅力といえば、豊かな自然を思い浮かべる人が多いのではないかと思う。パースもその例外ではない。キングスパークを筆頭にとても公園が多く、緑が豊かである。中心街から電車を使えば20分程度で行ける海辺には白いビーチが途切れることなく続いている。近郊の街で、街中に海が入り組んでいる場所の桟橋に座って釣りをしていると、面前を野生のイルカが泳ぐのを見ることができる。それほど水は澄んでおり、その綺麗さは見ているだけで心が洗われる。小さな子供がいることもあり、週末は家族でビーチや公園に行ってのんびりとピクニックをすることが多かった。今の日本での生活を考えると本当に時間の使い方が贅沢だったなと思う。そうすることが許される環境にも大きな魅力を感じた。

 州都のパースでさえこのような豊かな自然を有していることから想像が容易いように、西オーストラリア州は州全体が自然に溢れている。年末年始の長期休暇には、西オーストラリア州の海岸沿いを車で縦断したが、インド洋に沈む夕日の美しさ、野生のイルカが集まるビーチ、見渡す限り一面に白い貝殻が広がるシェルビーチ、車道上を横断するカンガルーやエミューとの遭遇など行く先々で豊かな自然に巡りあうことができた。その自然の豊かさ、雄大さを前にするとただただ感動するばかりであった。

度重なる「ゴールド」ラッシュ

 このような話ばかりだと、研修ではなく旅行にでも行っていたかのように見えてしまうが、研修内容も充実していた。パースを含む西オーストラリア州は、オーストラリアの中でもとりわけ鉱物資源が豊富である。金、鉄鉱石、ダイヤモンドなどの鉱物資源の度重なる発掘ラッシュによってパースは発達してきた。私が研修に行く数年前からは西オーストラリア州の沖合で大規模な石油・ガス田の発見が相次ぎ、まさに新たな「ゴールド」ラッシュが起きている最中であった。

 そのため、天然資源を確保するために進出している日系企業(商社、電力・ガス会社等)に関連する仕事が多く、私もそれに関わった。資源プロジェクトに関する合弁契約、資金調達の契約に関するアドバイス、新規に資源プロジェクトの権益を保有する際の留意点についてのアドバイスなどである。日本ではM&A及びコーポレート業務一般に関する業務に従事することが多かった私にとって、資源プロジェクトは非常に新鮮で興味がそそられるものであった。

資源開発プロジェクトをみて感じたこと

 資源開発プロジェクトの案件に関与している中で特に印象に残っているのは、それを進める際に避けて通れない環境保護の点であった。資源プロジェクトは、陸地上であれば地下に眠っている天然資源を掘り起こすため、開発地近郊の自然を破壊する可能性があり、また、海洋におけるプロジェクトであれば、海洋に石油・ガス等が流出して海洋汚染が発生する可能性がある。そのため、資源プロジェクトを行うためには、いくつもの環境法関連の認可を取得する必要がある。私が研修をしていた時期は、2009年8月にティモール海で発生した暴噴事故、及び、2010年4月に発生したメキシコ湾のMacondo油井で発生した暴噴事故を受けて、オーストラリアにおける海洋上の資源プロジェクトの環境法関連規制についての改正が行われている最中だったこともあり、それらの事故の資料等も読み、改めて環境に与え得る影響の大きさを感じた。

 豊かな自然の保護と鉱物資源・天然資源の開発の調和を図るのは、いろいろな利害が絡むこともあり、非常に難しい問題なのであろう。が、オーストラリアの自然の広大さ、綺麗さに圧倒され、感動した私としては勝手ながら豊かな自然の保護が優先されるのを期待してしまうものである。

アグリビジネス(Agribusiness)

 現時点でパースを含む西オーストラリア州の主要産業が鉱物資源・天然資源に関する産業であることは疑いがない。しかし、近時はアメリカにおけるシェールガス革命、東南アジア、アフリカ等での石油・ガスの発見等の外部的要因に加えて、オーストラリアにおける人件費の高騰等の内部的要因もあり、新規の大規模な資源開発プロジェクトが進んでいない。このため、州を支えていくべき他の産業育成も重要となってきている。その中では、アグリビジネス(Agribusiness)に注目が集まってきており、私も州政府関係者が参加するアグリビジネスのセミナーに参加させて頂いた。オーストラリアの広大な土地の有効利用、用地開発のための労働需要の提供、及び人口が多く今後の食糧の確保を検討する必要があるアジア諸国との地理的近接性等を考慮すれば、オーストラリアにおけるアグリビジネスには非常に魅力を感じた。

おわりに

 以上のように、パースでの研修生活は、資源プロジェクトという新分野における知見の獲得、豊かな自然の享受など非常に充実したものであった。近時の日系企業の進出先としては、東南アジア等に注目が集まっていると思うが、日本が海外で調達する必要がある鉱物資源、天然資源の供給源として重要な取引先であったオーストラリアが、今後もアグリビジネス等で引き続き日本の重要な投資先となり続け、私自身今後もオーストラリアに関する案件に従事できることを期待している。