緊急時の線量限度引き上げの検討も
2014年11月24日
原発など原子力施設で事故が発生した際の緊急作業について、新潟県は20日、国の原子力規制委員会に対し、放射線被ばくの線量限度の引き上げや国の現場対応部隊の設置などを検討するよう要請した。また、規制委の定めた原子力災害対策指針の問題点が明らかになったとして、規制委の田中俊一委員長と泉田裕彦知事との面談の機会を設けるよう改めて求めた。
▽筆者: 奥山俊宏
▽この記事は2014年11月21日の朝日新聞新潟版に掲載された原稿に加筆したものです。
書面の中で、県は、「法律に規定する緊急作業に係る線量限度の引き上げ」に加え、「線量限度を絶対的なものとするのか、目標値とするのか」の検討を促した。また、原子力施設の関係者だけでなく、運送会社の社員や自治体職員などの防災関係者も含めた線量管理など対応策の検討を求めた。「緊急時において線量限度を超える高線量下での事故対応作業を実施するための関係法令を整備するとともに、自衛隊の通常任務に事故対応を追加するなど現場対応が出来る部隊を国の指揮下に設置すること」についても検討を要請した。
福島第一原発事故では、政府は「特にやむを得ない緊急の場合」に限って特例的に労働者の被ばく限度を250ミリシーベルトに引き上げた。「作業が非常にやりやすくなってはかどった」という声が現場にあったが、同年暮れに元の100ミリシーベルトに戻した。福島事故発生前の2011年1月28日には、文科省(現・原子力規制委)の放射線審議会基本部会が100ミリシーベルトの上限について「人命救助のような緊急性及び重要性の高い作業を行ううえで妨げとなる」と指摘し、国際的な水準に合わせ、制限値の引き上げを求めるとともに、「線量の制限値は、超えてはならない限度の位置付けであるべきではなく、低減すべき努力目標値の位置付けであるべきである」と提言していた。これが法規制に採り入れられる前に福島で事故が発生した。
また、福島第一原発事故の際には、トラックの運転手が福島第一原発やその周辺に入らず、事故対処に必須の資機材がスムーズに現場に届かない事態が多発した。発電所敷地外で線量が上昇する中で、自治体職員や民間企業社員らが住民避難やインフラ復旧などにあたらなければならない事態が事故時には想定されるが、現状では1ミリシーベルトの上限規制がある。新潟県としては、これで実際に活動できるのかという問題意識がある。
坂井管理監によると、規制庁側からは「指摘の大方のところは問題意識を持っており、検討していきたい」と返答があったものの、その実現については「できるところから」との姿勢だった。知事と規制委員長との面談については、「すぐの実現は難しい」という反応だったという。
新潟県は昨年11月から、杉本純・京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻教授らを中心に東京電力の原子力運営管理部長らも招いて福島第一原発事故をもとに「高線量下での作業」の検証を進めていた。
原子力規制委でも今夏、緊急時の被ばく限度について、改めて放射線審議会に諮る方針を打ち出している。県の検証の中では「規制委員会の議論に何らか(方針が)固まってしまう前にそこに情報をフィードしていきたい」という意見が出て、今回の提言となった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください