2015年01月20日
阪神・淡路大震災をめぐる訴訟と東日本大震災をめぐる訴訟を取り上げて、震災の経験の教訓を探った企画記事「震災法廷 阪神の教訓は?」は2015年1月16日から朝日新聞の岩手版に連載され、20日に全5回を終えた。
▽筆者: 松本龍三郎、奥山俊宏
▽この記事は2015年1月20日の朝日新聞岩手版に掲載された原稿に加筆したものです。
▽関連資料: 震災をめぐって盛岡地裁に起こされた主な訴訟
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陸前高田市に事務所をかまえる弁護士、在間(ざいま)文康さん(36)は、阪神大震災の発生から20年となった17日を「もやもやした気持ち」を抱えたまま迎えた。
高校1年生だった20年前に自分がいた兵庫県西宮市が被災地として新聞やテレビで取り上げられていた。「当時は何も出来なかったし、復興に関わることなく故郷を離れてしまった。その後悔がずっとあった」
今回、改めて気付かされたこともあった。「あのとき、壊れた家の前でたたずんでいた人たちがいた。東北の被災地で自分が関わる人々は、西宮で自分が見たあの人たちと同じ苦しみを味わったんだと」
今、東日本大震災の「震災関連死」訴訟で遺族側の代理人を務め、被災地の復興にも関わる。
「ここで被災者のために何か役に立っているのなら、あのときあそこに自分がいた意味があったと、今は思えます」
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東日本大震災をめぐって、遺族や被災者らが盛岡地裁で起こした訴訟は、少なくとも11件を数える。判決が出たのは1件。2、3月には、国と陸前高田市を被告とする訴訟などの判決が、相次いで言い渡される予定だ。
釜石市の「鵜住居(うのすまい)地区防災センター」では、2階の天井まで津波が達し、200人以上が命を奪われたとされる。
センターで亡くなった人の遺族が市を相手取って起こした訴訟の第1回口頭弁論が昨年暮れに開かれ、市は請求棄却を求めた。津波被害を事前に想定できたかどうかが争点になっていくとみられる。
記者会見で、原告代理人の上山直也弁護士が原告の談話を読み上げた。
「このような事件を繰り返してはいけない。そういう思いがあります」
提訴に踏み切った思いがつづられていた。
今年に入ってから、津波で被災した土地のかさ上げをめぐり、新たな訴訟も起こされている。震災被害そのものだけでなく、復興のあり方も争点に加わった格好だ。
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阪神大震災では、多くの訴訟が神戸地裁に起こされた。
地震で壊れた建物による被害の賠償を所有者や施工業者に求めた訴訟、職場を追われた労働者が雇用主を相手に起こした訴訟、避難所の明け渡しを求めて市が原告となった訴訟、マンションの建て替えの賛否で住民同士が争った訴訟、火災保険をめぐる訴訟など、その内容も様々だ。
洲本ガスの訴訟で原告代理人を務め、今は日本弁護士連合会で災害復興支援委員会の副委員長を務める津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)は「災害には地域により状況により異なる顔があるので、神戸が東北の先例になるとは限らない」と前置きした上で、「裁判の場でできることは小さいのに、司法に求められる役割は大きく、司法への期待は大きい」「司法の場で解決できることは限られている。調停、各種の紛争解決手続き、独立の調査委員会などの活用も考えるべきだ」と言う。
津久井弁護士はまた、「裁判所は、現状でよかれとするのではなく、災害を予防するという観点から積極的に新しい枠組みに取り組み、脱皮したほうがいい」とも提案する。「結果を事前に予測できたかという予見可能性という概念で裁判所はすべてを切ろうとするが、災害時であれば、予見可能性を平時と同じように考えるのはどうかなと思う。たとえば、備える義務を怠ったときには予見可能性がなくても責任を問う。一方、マニュアルの整備など十分な事前準備をしていた場合には間違いがあっても免責する。そんな枠組みで判断してもいいのではないか」
阪神高速道路の橋脚崩壊で死亡したマイクロバス運転手の母親が同道路公団を相手に起こした訴訟では、地震に関する事前の想定が争点の一つとなった。一審判決では「公団の想定が甘かったとはいえない」と判断されて原告が敗訴し、高裁で和解した。
原告代理人を務めた小牧英夫弁護士(同)は「同じ被害を繰り返さないためには、組織の内部やその関係者だけで原因を総括するのではなく、外部の批判的な意見も受け入れて、どういう対策が必要かを検討する姿勢が必要だ」と述べ、訴訟の意義を指摘する。「裁判は、被害者に補償するだけでなく、いろいろな方面からの批判によって問題を明らかにし、再発を防ぐ、そういう役割も担っている」
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