2015年04月13日
今回の決定で地裁はまず、申立人の適格性について判断した。東宝側は、TOBの公表後に東宝不動産の株を買った人について、「全部取得されることが確実な情勢で、株価下落リスクを負担することなく買い集めたものであり、権利の濫用で、申し立ての適格性を欠く」と主張した。実際、公開買い付け(TOB)が発表された後に東宝不動産株を買う投資ファンドがあった。TOBの買い取り価格が安すぎると見て、裁判所が相当、価格を引き上げると事前に見込んだようだ。
東宝側の主張に対し、地裁は「権利の濫用に認めるに至らない」と判断した。「対象株式を基準日当時保有していたものに限定する旨の規定は会社法に存在せず、このように解すべき法令上の根拠も見あたらない」「改正前の商法下とは異なり、株式買い取り請求権や価格決定の申し立て権は議決権とは切り離された権利として規律されている」などの理由を挙げている。
最大のポイントとなったが、株価の算定法だ。
東宝、東宝不動産は、事業活動が将来生み出す現金収入(フリー・キャッシュ・フロー)をベースにしたDCF法と、市場の株価の二つを中心に価格を決めていた。
地裁は、TOBなどが公表される前の市場株価を重視し、まずは「一般に、個別企業の資産内容、財務状況、収益力及び将来業績の見通しなどを考慮した企業の客観的価値が株価に反映されているということができる」という前提を置いた。そのうえで、TOBなどの公表日から取得日までの半年弱の間に、TOPIXなどの株価指数が上昇基調だったことを挙げ、東宝不動産の株価はTOBがなければ、これらと連動していた可能性が高いと指摘。「本件取得日における本件株式の客観的価値の算定においては、公表日から取得日までのTOPIXなどの変動率をあてはめることにより、本件公表などがなかったと仮定した場合における株価を予想し、その予想価格を基礎として算定する方が、より高い合理性を有する」とした。そして、696円という数字をはじきだし、これに20%のプレミアを付け、価格を835円とした。また、「本件取引は、経営者と株主との利益相反関係を踏まえ、これを抑制するための相応の措置が講じられた」「適切な情報開示がされた上で株主の多数の賛成を得て成立した」などと認定し、公開買付価格の735円についても適切とした。
地裁はまた、「時価純資産法」の活用を求めた申立人の主張を採用しなかった理由も説明している。決定文によると、申立人の株主の側は、①含み益が市場株価には適切に反映されていないので、市場株価法を使うべきではない②2008年に東宝がコマ・スタジアムを完全子会社化したときには時価純資産法が用いられている③企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会編)などの見解から、東宝不動産のような会社は純資産法によるべきと考えられる④完全子会社化で完全に支配権を取得するので、純資産法の評価額は株式の価値の最低限となる、と主張した。
これらの訴えについて、地裁は、①純資産額などは従来から公表されており、含み益が市場株価に適切に反映されていなかったことを認めるに足りる証拠はない②コマ・スタジアムは事業を清算するため、純資産法が適切だった③一般的に時価純資産法を適用するのに向いている会社は倒産企業であり、上場企業の場合は取引所相場の時価があるので、市場株価法を用いるのが一般的とされている④東宝不動産の清算が予定されていない以上、完全子会社化であることをもって純資産法の評価額を株式の価値の下限になるなどとは言えない、としている。
この決定に対し、株主、東宝不動産の双方が抗告し、企業価値を巡る争いは高裁に舞台が移る。
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