2015年05月09日
虚偽請求取締法は「不正請求防止法」とも呼ばれ、政府からお金を騙し取った業者から被害額を回収するための民事手続きを定めている。その規定によれば、それを不正と知りながら米国政府への不正請求にかかわった者は、政府が被った損害の3倍の金額と制裁金を政府に支払う義務を負わされる。米政府は高齢者向けの公的医療保険「メディケア」など複数の医療保険制度を運営しており、医療費の不正請求は政府への不正請求を含むものとしてこの法律の適用を受ける。
反キックバック法は、米政府の医療保険でまかなわれるサービスや物品の購入を促すことなどの見返りに報酬を払うことを犯罪とし、5年以下の禁錮刑などの処罰を定めている。医師による医療上の判断が、製薬会社や医療機器メーカーからの働きかけでゆがめられるのを防ぐための規定で、患者や医療保険制度を守ることを目的とする。
オリンパスによると、オリンパスグループの医療機器を使用する医師との関係、経済的な関わりが米司法省の調査の対象となっている。具体的には、オリンパスグループの割引に関する実務、貸し出し(loaner=機材の貸し出し)、デモンストレーション機材の使用、補助金、寄付の管理、医師及びその他の顧客への支払い(医者とのお金のやりとり)、及び、反キックバック法順守一般について米司法省の調査を受けているという。
時期としては2006年から2011年までの間、地域としては北米を対象として、539億円の特別損失を計上したという。ブラジルでの医者への接待など利益提供についても米司法省が海外腐敗行為防止法(FCPA)違反の疑いで捜査しているが、今回の539億円の特別損失の対象には中南米は入っていないという。
調査が始まったのは、1千億円を超える損失隠しが表面化したのと同じ2011年11月。オリンパスは現在、「解決」に向けて司法省との協議を続けている。オリンパスは8日に発表した今年3月期の決算短信(連結)の中で、司法省の調査に触れて「この調査の進行状況等に鑑み、将来の損失に備えるため、解決金の金額を合理的に見積もり、米国反キックバック法等関連引当金588億8300万円を計上」したとしている。また、「今後の調査と協議の進展によっては損失見込額が変動する可能性がある」ともしている。
記者の問い合わせに対するオリンパスの説明によると、今年3月末までの1年間の損益計算書の上では、1年間の平均為替レート(1ドル109円93銭)で換算して538億6600万円の特別損失(米国反キックバック法等関連損失)を計上した。一方、今年3月末時点の貸借対照表の上では、今年3月末時点の為替レートである1ドル約120円で換算して588億8300万円の流動負債(米国反キックバック法等関連損失引当金)を計上した。米ドル換算の金額は同じなのに、日本円換算では損益計算書と貸借対照表とで計上額が食い違う結果となっている。ドルベースの特別損失の金額は開示されていないが、計算すると、約4億9千万ドルとなる。
米司法省の法執行に詳しい結城大輔弁護士は記者の取材に「適用される法律が異なるため単純な比較はできないが、米司法省が過去にカルテルで摘発した日本企業で最大だった矢崎総業への罰金4億7千万ドル(2012年当時、360億円)、ブリヂストンへの罰金4億2500万ドル(2014年当時、433億円)を日本円換算では上回っており、非常に大きな金額だ」と話した。
2月6日に公表した今年3月期の業績予想では、オリンパスは、450億円の当期純利益を見込んでいた。しかし、今回の特別損失の計上で一転して87億円の当期純損失となった(昨年3月期の当期純利益は136億円)。売上高は7647億円(事前の予想は7600億円、昨年3月期は7133億円)、経常利益は728億円(事前の予想は700億円、昨年3月期は509億円)と、いずれも業績予想や前年度実績を上回ったが、特別損失が1年間の稼ぎを打ち消して余りある巨額となったため、最終的には赤字となった。オリンパスの最終損益が赤字となるのは、損失隠し事件が発覚した2012年3月期以来3年ぶり。
木本会長、笹社長ら現体制の人事を発表した2012年2月のオリンパスの記者会見では、社外出身者が役員の大半を占め、かつ、社外取締役が取締役会の過半数を占めることを「最大の特色」と説明し、その理由について「取締役会を含むガバナンスが本来の機能を十分に果たしていなかったことが損失計上先送りの問題を引き起こしたという反省を踏まえ、社外からの厳しい監視の下で透明性のある経営により再発防止を図るため」と明らかにした。その「最大の特色」が3年余を経て6月の株主総会をもって失われることになる。
これら特別
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