2015年06月24日
弁護士・NY州弁護士
本柳 祐介
(1)クラウドファンディングの類型と有価証券該当性
クラウドファンディングとは、インターネット経由で多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組みをいう。これまでも投資リターンを求めないタイプのクラウドファンディングは行われていたが、今般、投資リターンを求めるタイプのクラウドファンディングについて、仲介業者に対する規制が一部緩和され、情報提供・業務管理体制が整備される。
クラウドファンディングには、大きく分けて3つの類型がある。①出資者に対する収益分配がない形態のクラウドファンディングを寄付型、②出資者が物品やサービスを得ることができる形態のものを売買型、③出資者が投資に対するリターンを得ることができるものを投資型という。
クラウドファンディングにおいて出資者に有価証券を取得させる場合、金融商品取引法等の規制の対象となる。①寄付型や②売買型のクラウドファンディングでは出資者は有価証券を取得するものではないとして金融商品取引法の枠外で行われてきたが、③投資型のクラウドファンディングでは出資者は基本的に有価証券(株式、社債、投資ファンドの持分など)を取得することとなるため、金融商品取引法の適用が問題となる。
(2)クラウドファンディング仲介業務の金融商品取引業該当性
投資型クラウドファンディングにおいて出資者に有価証券を取得させる場合、金融商品取引法の規制を受ける。具体的には、クラウドファンディングの仲介業者が募集用のWebサイトを提供する行為は、有価証券の募集又は私募の取扱い等に該当し、株式や社債などを対象とするものであれば第一種金融商品取引業(金融商品取引法28条1項1号、2条8項9号)、組合等のファンド持分を対象とするものであれば第二種金融商品取引業(金融商品取引法28条2項2号、2条8項9号)にそれぞれ該当することとなるため、仲介業者は金融商品取引業者としての各種規制を受けることとなる。
(1)電子募集取扱業務
非上場の有価証券などについて、a)Webサイトに情報を掲載する行為又はb)Webサイトへの情報掲載と電子メール等での情報送信を併用する行為によって、有価証券の募集、私募又は売出しの取扱い等を行う場合、「電子募集取扱業務」に該当する(金融商品取引法29条の2第1項6号、金商業等府令6条の2、金融商品取引法2条8項9号)。有価証券を取得させることとなるクラウドファンディングの仲介業務はこれに該当するが、「電子募集取扱業務」という概念自体は金額の多寡を問題としておらず、クラウドファンディングよりも広い行為を対象とする概念である。すなわち、いわゆるクラウドファンディングの仲介業務には当たらなくとも、「電子募集取扱業務」として規制の対象となることはあり得る。
上記a)又はb)に該当しない方法による勧誘は、電子募集取扱業務に該当しない。すなわち、音声通話や対面による勧誘行為は通常の有価証券の募集、私募又は売出しの取扱い等として扱われる。Webサイトに情報を掲載することなく電子メール等での情報送信によって勧誘することも、上記b)に該当しないため電子募集取扱業務を構成しない。例えば、Webサイトに情報を掲載しつつ、音声通話による勧誘を併用した場合、Webサイトへの情報掲載は電子募集取扱業務に該当し、音声通話による勧誘は電子募集取扱業務ではない勧誘行為として捉えられる。
(2)第一種少額電子募集取扱業務と第二種少額電子募集取扱業務
電子募集取扱業務のうち少額のものは、一定の要件を満たす場合、「第一種少額電子募集取扱業務」又は「第二種少額電子募集取扱業務」として一定の規制緩和の取扱いを受ける。
“少額”については、発行価額の総額1億円未満(金融商品取引法施行令15条の10の3第1号)かつ1人あたりの払込額50万円以下(同条2号)であることが必要とされる。総額1億円未満の要件を満たすか否かは、①募集又は私募を開始する日前1年以内に行われた同一の種類の有価証券の募集若しくは私募と②申込期間が重複する同一の種類の有価証券の募集又は私募の発行価額の総額とを合算して判定する(金商業等府令16条の3第1項)。1人あたり50万円以下の要件を満たすか否かは、払込日前1年以内に同一の種類の有価証券について応募又は払込みが行われたものを合算して判定する(同条2項)。
少額の電子募集取扱業務のうち非上場株式について行われるものは「第一種少額電子募集取扱業務」に該当し(金融商品取引法29条の4の2第10項、金融商品取引法施行令15条の10の2第1項)、これのみを行うものとして登録を受けた者を「第一種少額電子募集取扱業者」という(金融商品取引法29条の4の2第9項)。
他方、少額の電子募集取扱業務のうち、組合等のファンド持分(金融商品取引法2条2項5号、6号)の中で非上場のものについて行われるものは「第二種少額電子募集取扱業務」に該当し(金融商品取引法29条の4の3第4項、金融商品取引法施行令15条の10の2第2項)、これのみを行うものとして登録を受けた者を「第二種少額電子募集取扱業者」という(金融商品取引法29条の4の3第2項)。
第一種少額電子募集取扱業者については、第一種金融商品取引業者に対する規制が一部緩和され、最低資本金の額は5000万円ではなく1000万円で足りるものとされる(金融商品取引法施行令15条の7第1項6号)。また、兼業が禁止されず(金融商品取引法29条の4の2第2項~4項、29条の4第1項5号ハ、35条)、自己資本規制や金融商品取引責任準備金の積立て義務が適用されない(金融商品取引法29条の4の2第2項、6項、29条の4第1項6号イ、46条の5、46条の6)。このほか、第一種少額電子募集取扱業者は投資者保護基金への加入義務を負わない(金融商品取引法79条の27第1項、金融商品取引法施行令18条の7の2)。
また、第二種少額電子募集取扱業者については、第二種金融商品取引業者に対する規制が一部緩和され、最低資本金の額は1000万円ではなく500万円で足りるものとされる(金融商品取引法施行令15条の7第1項8号)。
その他、第一種少額電子募集取扱業者及び第二種少額電子募集取扱業者とも、営業所又は事業所における標識掲示義務は適用されず(金融商品取引法29条の4の2第5項、29条の4の3第2項、36条の2)、代わりにWebサイト上での掲載が求められる(後記5.(2)参照)。
上記のほかは、第一種金融商品取引業者又は第二種金融商品取引業者としての規制を受けることとなる。そのため、適合性の原則(金融商品取引法40条)、契約締結前交付書面の交付・提供義務(金融商品取引法37条の3)をはじめとする勧誘規制や、損失補填の禁止(金融商品取引法39条)をはじめとする禁止規定の適用においては、一般の金融商品取引業者と同様の取扱いを受ける。
(1)契約締結前交付書面
電子募集取扱業務を行う場合、契約締結前交付書面には、一般的な記載事項に加えて、①発行者の商号、名称又は氏名及び住所、②発行者が法人であるときは、代表者の氏名、③の発行者の事業計画の内容及び資金使途を記載することが求められる(金商業等府令83条3号~5号)。
また、Webサイト上のフォームや電子メールなどによって申込みを受ける「電子申込型」電子募集取扱業務等(金商業等府令70条の2第3項)の場合、上記に加え、①申込期間、②目標募集額、③応募額が目標募集額を下回る場合及び上回る場合における当該応募額の取扱いの方法、④応募代金の管理方法、⑤電子募集取扱業務を行う者による発行者の審査体制の概要及び審査結果の概要、⑥申込み後の撤回又は解除を行うために必要な事項、⑦売買の機会に関する事項その他の顧客の注意を喚起すべき事項も、併せて記載する必要がある(金商業等府令83条1項6号)。
(2)Webサイト上での情報提供義務
金融商品取引業者等が電子募集取扱業務を行う場合、原則として、Webサイト上の見やすい箇所に所定の情報を提供することが義務づけられる(金融商品取引法43条の5、金商業等府令146条の2)。具体的には、契約締結前交付書面に記載すべき事項のうち手数料等(金融商品取引法37条の3第1項4号)、リスク(同項5号、金商業等府令82条3号、5号)及び上記(1)記載の情報の提供が義務づけられる。
また、第一種少額電子募集取扱業者又は第二種少額電子募集取扱業者は、商号、登録番号、第一種少額電子募集取扱業者又は第二種少額電子募集取扱業者である旨などの情報をWebサイトに記載することが求められる(第一種少額電子募集取扱業者については金融商品取引法29条の4の2第8項、金商業等府令16条の2。第二種少額電子募集取扱業者については金融商品取引法29条の4の3第3項、金商業等府令16条の4)。
(3)情報提供義務の対象者に関する留意点
電子募集取扱業務に該当する行為であれば、金額が多額である、非上場株式又はファンド持分を対象としないといった理由により第一種少額電子募集取扱業務や第二種少額電子募集取扱業務には該当しない場合であっても、上記の情報提供義務の対象となり得る点には留意が必要である。
金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業又は登録金融機関業務を適確に遂行するための業務管理体制を整備することが求められ(金融商品取引法35条の3)、社内規則等の整備及び従業員に対する研修その他の措置が必要となる(金商業等府令70条の2第1項)。
①電子募集取扱業務を行う場合又は②投資信託受益証券や組合等のファンドの持分など一定の非上場有価証券について発行者自身が自己募集(金融商品取引法2条8項7号)を行う場合、a)電子情報処理組織の管理を十分に行うための措置がとられていること(金商業等府令70条の2第1項1号)及びb)標識に記載されるべき事項がWebサイト上に示されているための措置がとられていること(同項2号)が必要となる。これらについては、自己募集を行う場合にも必要な措置とされているため、仲介業者だけでなく発行者自身にも適用され得る点には注意が必要である。
第一種少額電子募集取扱業務及び第二種少額電子募集取扱業務については、発行価額の総額が1億円以上となること又は1人あたりの払込額が50万円超となることを防止するための必要かつ適切な措置がとられていること(同項8号)も、併せて必要となる。
Webサイト上のフォームや電子メールなどによって申込みを受ける「電子申込型」電子募集取扱業務等(金商業等府令70条の2第3項)の場合、さらに、以下の体制整備が求められる。
(1)開示規制
今般の改正では、有価証券の発行開示に関する規制に特に変更はない。そのため、クラウドファンディングによって出資を募る行為が“有価証券の募集”に該当する場合、有価証券届出書の提出(金融商品取引法4条、5条)や目論見書の作成・交付義務(金融商品取引法13条1項、15条2項)といった規制の適用を受ける。また、一度有価証券届出書を提出した発行者は、有価証券報告書の提出義務(金融商品取引法24条1項)などの継続開示義務の適用も受けることになる。
株式を対象とする場合、勧誘行為の相手方が50名以上のときには「有価証券の募集」に該当するものとして各種の開示規制の対象となるが(金融商品取引法2条3項1号、2号)、Webサイトにて投資家を募るクラウドファンディングにおいては、勧誘の対象は当然ながら不特定多数の者とならざるを得ない。そのため、クラウドファンディングが私募にとどまることはなく、基本的に「有価証券の募集」に該当するものとして有価証券届出書の提出義務等を免れることはできない(企業内容開示ガイドライン4-1)。
他方、組合等のファンド持分を対象とする場合、実際に有価証券を取得した人数が500名以上の場合にのみ有価証券の募集となるため(金融商品取引法施行令1条の7の2)、クラウドファンディングであったとしても有価証券の私募として有価証券届出書の提出義務等を免れることが可能である。但し、少人数私募に該当したとしても、投資家に対する告知及び書面の交付(インターネットによる提供を含む。)を行う義務がある点には注意が必要である(金融商品取引法23条の13第4項、5項、27条の30の9第2項)。
(2)運用規制
今般の改正では仲介業者に関する一定の規制緩和がなされているが、組合型ファンドの資産を運用する行為については従来の規制に変更はない。そのため、クラウドファンディングで資金を集めたとしても、組合型ファンドの資産運用は、従前どおり、投資運用業として金融商品取引法の適用を受ける(金融商品取引法28条4項5号、2条8項15号)。投資運用業を行う金融商品取引業者としての登録を受けるためには厳しい資格要件があり(金融商品取引法29条の4等)、登録済みの業者に対する行為規制も重いものとなっている。
(3)金融商品販売法
投資型クラウドファンディングの仲介業務は、有価証券を取得させる行為として「金融商品の販売」に該当し、金融商品販売法の適用対象となる(金融商品販売法2条)。そのため、顧客に対して投資に関するリスクその他の重要事項を説明することが義務づけられる(金融商品販売法3条)。
また、勧誘の適正の確保に関する事項を定めた勧誘方針を策定し、公表することも義務づけられる(金融商品販売法9条、金融商品販売法施行令12条)。
(4)取引時確認
投資型クラウドファンディングの仲介業者は、第一種少額電子募集取扱業者又は第二種少額電子募集取扱業者として金融商品取引法に関する一定の要件が緩和された場合であっても、金融商品取引業者であること自体には変わりはなく、犯罪による収益の移転防止に関する法律(「犯収法」)に基づき取引時確認義務を負う(犯収法2項21号、金融商品取引法2条9項)。そのため、仲介業者が投資家からの出資を受け付けるに際しては、本人特定事項や取引を行う目的などを確認しなければならない(犯収法4条)。
今般の改正により、投資型クラウドファンディングの仲介業務については、これを専業とする者を、(第一種金融商品取引業者又は第二種金融商品取引業者よりも)要件の緩和された第一種少額電子募集取扱業者及び第二種少額電子募集取扱業者として取り扱う旨の新たな制度が導入された。他方で、投資型クラウドファンディングを含む電子募集取扱業務については、投資家に対する情報提供や体制整備に関する義務が新設された。特にWebサイト上のフォームや電子メ
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