2015年07月08日
西村あさひ法律事務所
弁護士 河本貴大
1 はじめに
かかる状況の中、総務省は、2015年5月29日、政治資金規正法(以下「法」という。)22条の3第1項の国から補助金等(補助金、負担金、利子補給金その他の給付金)を受けた会社その他の法人に係る寄附制限に関して、「国から補助金等の交付を受けた会社その他の法人の寄附制限に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を公表した。法22条の3第1項の寄附制限については、従前から、各補助金等が法22条の3第1項の適用を受けるか受けないかの線引きが曖昧であると指摘されていたが、ガイドラインは、かかる線引きについて明確にしようとするものである。以下では、政治資金規正法22条の3第1項の規定内容・解釈に触れつつ、ガイドラインのうち、特に法22条の3第1項の適用を受けない補助金等についての記述を概観する。なお、意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であることを念のため申し添える。
2 国から補助金等の交付を受けた法人に対する寄附制限の概要
法22条の3第1項は、国から補助金等の交付の決定を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から1年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならないと規定している。この趣旨は、国から補助金等を受けた会社その他の法人が、補助金等を受けているということにより国と特別な関係に立っていることから、その特別な関係を維持又は強固にすることを目的としてされる不明朗な寄附を防止しようとするものである。
他方で、法22条の3第1項は、括弧書きにおいて、以下の補助金等については、法22条の3第1項の適用を受けないものとしている。
(1) 試験研究・調査に係る補助金等
(2) 災害復旧に係る補助金等
(3) その他性質上利益を伴わない補助金等
(4) 政党交付金
試験研究・調査に係る補助金等については、直接に、特定の会社その他の法人の営利を助長したり、その経営を強化したりするという性格を有するものではなく、当該会社その他の法人に調査研究を行わせ、国策としての学術研究、科学技術の振興等に資するためのものであり、一般の補助金等とは性質を異にすると考えられるため、適用除外とされている。
災害復旧に係る補助金等については、災害が自然現象であって、不可抗力による場合が多いことや、一定規模以上の災害復旧は個人で処理し得る限界を超えるものであり、その復旧を怠ることはかえって公益上の損失につながること等を総合的に勘案して、一般の補助金等とは性質を異にすると考えられるため、適用除外とされている。
そして、試験研究・調査に係る補助金や災害復旧に係る補助金等と同様に、個々の補助金等の性質が、直接に、特定の会社の営利を助長し、あるいはその経営を強化するものでなく、国と会社その他の法人との間の特別な関係を維持又は強固にすることを目的とした不明朗な政治活動に関する寄附がなされるおそれがないと考えられるものについても、「その他性質上利益を伴わない」補助金等として適用除外とされている。各補助金等が「性質上利益を伴わないもの」に該当するか否かは個別具体的に判断するほかないが、一般的に、以下に該当する補助金等は、性質上利益を伴わない補助金等に該当すると解されている。
ⅰ 国が利子補給金を低利融資を行う融資者に交付する場合
ⅱ 国民の生活向上、民生の安定等を図るために、はじめから欠損又は損失が予想されるような事務又は事業を国が会社その他の法人に運営させる場合に、その欠損又は損失を補てんする限度において交付される給付金
ⅲ 本来、国が行うべき事務を会社その他の法人が行う場合において、その事務又は事業について交付される給付金
政党交付金については、政党助成法3条1項に基づき、本来的に政治活動を行うことを目的とする団体である政党に対して交付されるものであることから、当然に適用除外とされている。
3 法22条の3第1項の適用除外に係るガイドラインの記述の概要
上記2で述べた法22条の3第1項の規定内容・解釈を踏まえ、法22条の3第1項の適用を受けない補助金等に係るガイドラインの記述について解説する。なお、上記2で述べたとおり、政党交付金については当然に適用除外とされるべきものであるから、ガイドラインにおいても特段記述されていない。
(1) 試験研究・調査に係る補助金等
ガイドラインにおいて、以下の性格を持つ補助金等が、試験研究・調査に係る補助金等に該当するとされている。
これは、前述のように、試験研究・調査に係る補助金等が、会社その他の法人に調査研究を行わせ、国策としての学術研究、科学技術の振興等に資するためのものであることを踏まえ、当該趣旨に沿う補助金等の内容を具体的に記述したものと言える。
(2) 災害復旧に係る補助金等
災害復旧に係る補助金等については、災害が不可抗力による場合が多いことや、一定規模以上の災害復旧は個人で処理し得ず、その復旧を怠ることがかえって公益上の損失につながること等を総合的に勘案して、法22条の3第1項の適用除外とされていることが説明されているが、ガイドラインにおいて、災害復旧に係る補助金等の具体例について特段の説明はなされていない。
なお、ガイドラインにおいて、災害予防のために施設・設備の強化を図る事業に対して行われる補助などが災害復旧に係る補助金等に該当しないおそれがある旨記述されている。災害予防は、直ちに復旧する公益上の必要性の高い災害復旧とは異なるものと考えられるからであろう。
(3) 「その他性質上利益を伴わない」補助金等
ガイドラインにおいて、試験研究・調査に係る補助金等及び災害復旧に係る補助金等以外の補助金等であって、性質上、直接に、特定の会社の営利を助長し、あるいはその経営を強化するものでない補助金等について、以下のように類型化されている。
ア 国民の生活向上、民生の安定等を図るために、はじめから欠損又は損失が予想されるような事務又は事業を国が会社その他の法人に運営させる場合等において、その欠損又は損失を補てんする限度において交付されるもの
イ 法律、政府の方針等に位置付けられた公共性の高い事務又は事業を行うために生じる追加的な負担を補てんする限度において交付されるもの
ウ 本来国又は地方公共団体が行うべき事務又は事業を会社その他の法人が行う場合において、その事務又は事業について交付されるもの
エ 低利融資を行う融資者に交付される利子補給金
オ 外部的な要因により不可避的に生じる損失を補償する性格を有するもの
カ 法令に規定された義務として国が特定の事業に要する経費を負担するもの
キ アからカまでのほか、収益性の見込まれない事業に対するものなど、直接に、特定の会社その他の法人の営利を助長したり、あるいはその経営を強化する性格を有しないことにより、性質上利益を伴わないもの
4 「その他性質上利益を伴わない」補助金等に係るガイドラインの記述
上記3(3)で述べたアないしキの類型について、上記2で述べた「その他性質上利益を伴わない」補助金等の一般的な考え方に沿って検討すると、アの類型は上記2で述べたうちのⅱに、ウの類型は上記2で述べたうちのⅲに、エの類型は上記2で述べたうちのⅰに対応すると言える。他方、イ、オ、カ及びキの類型は、ガイドラインを策定するに当たり、実際に存在する補助金等の性質を踏まえ、新たに検討されたものと考えられる。以下において、各類型につき、概観する。
(1) アの類型について
アの類型については、例として
が挙げられているように、交通、労働、通信等の、国民の生活上不可欠な要素に係る事務又は事業であって、かつ、はじめから欠損又は損失が予想されるような事務又は事業に係る補助金等が該当する。例えば、厚生労働省が交付する特定求職者雇用開発助成金は、身体障害者等の就職を容易にするために、事業主に対して身体障害者等の賃金相当額の一部を助成する助成金であることから、「高年齢者、障害者、未経験者その他就職が特に困難な者の雇用機会の増大を図るために、これらの者を継続又は試用雇用する労働者として雇い入れる事業者に対し助成を行うもの」に該当すると考え得る。
(2) イの類型について
イの類型については、例として、
が挙げられているように、バリアフリー化、地球温暖化対策、地震による災害からの国民の保護、職業訓練といった、公共性の高い事務又は事業に係る追加費用を補てんする補助金等が該当する。見方を変えれば、バリアフリー化や地球温暖化対策といった、公共性の高い事務又は事業に係る補助金等であっても、追加費用を補てんするものでなければ、イの類型に該当せず、性質上利益を伴わない補助金等とは言えない。例えば、経済産業省が交付する低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金は、いわゆるグリーン産業などの環境技術分野に関する事業に係る設備費や調査設計費を対象とした補助金であるが、当該事業について高い成長性が見込まれ、商業として成立することを前提としたものであることから、追加費用の補てんにとどまるものではなく、利益を伴わないものと言うのは難しいと考え得る。
(3) ウの類型について
ウの類型については、例として、
が挙げられているように、国又は地方公共団体が行うべき事務又は事業を行っている会社その他の法人に対して当該事務又は事業について交付する補助金等が該当するとされている。
(4) エの類型について
エの類型については、低利融資を行う金融機関に交付する利子補給金などは、通常の利子のほか、当該金融機関は利益を受けないものと考えられることから、性質上利益を伴わない補助金等に該当するとされている。
(5) オの類型について
オの類型については、例えば国が行う公共工事に伴い事業者において不可避的に生じる改修事業費相当額を当該事業者に対して交付するものというように、事業者において不可避的に生じる損失を補償する補助金等が該当するとされている。
(6) カの類型について
カの類型については、例えば国家公務員共済組合負担金のような、国家公務員共済組合法に基づき、組合が行う短期給付などに要する費用の一部を負担することとされているものというように、特定の法令に規定された義務として国が負担しなければならない経費に係る補助金等が該当するとされている。
(7) キの類型について
キの類型については、例えば災害時に災害関係者が用いる資機材等の購入、保管、管理を行う事業者に対して、それに要する費用を補助するものというように、アないしカの各類型には該当しないものの、収益性の見込まれない事業に対する補助金等が該当するとされている。
5 最後に
各補助金等を所管する各府省庁は、ガイドラインに沿って、2015年度予算に計上された各補助金等について法22条の3第1項の適用を受けるか受けないかを分類し、当該補助金等の交付決定通知等にあわせて、交付先に上記分類の結果を連絡することとされている。
会社その他の法人が法22条の3第1項に違反する寄附を行った場合、当該会社その他の法人の役職員として寄附を行った者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処せられる(法26条の2第1項)とともに、一定期間公職選挙法に規定する選挙権及び被選挙権を停止され(法28条1項2項)、当該会社その他の法人も、50万円以下の罰金に処せられる(法28条の3、法26条の2第1項)。このことから、各府省庁は、分類が誤っていたと事後的に発覚するような事態を避けるべく、各補助金等について法22条の3第1項の適用を受けるか受けないかを慎重に分類していくことになるであろう。
また、会社その他の法人において、交付を受けようとする補助金等について「性質上利益を伴わない」として法22条の3第1項の適用を受けないと判断した上で補助金等の交付申請をしたところ、当該補助金等について、当該補助金等を所轄する各府省庁から、法22条の3第1項の適用を受けるものと分類された旨の
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